世界の作り手
観測まで、変えられるのか。俺の存在は?読んでみてください!
スマホのカウントが、容赦なく減っていく。
《00:01:48》
耳鳴りみたいに、その数字が頭にこびりつく。
先生はタバコを優雅にふかしてやがる。
試している。そして舐めている!
完全に。
「……くそ」
舌打ちが漏れる。
選べ、って言われても。
そんな簡単に割り切れるわけがない。
でも。
選ばなきゃ、終わる。
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「壊すって、具体的に何すればいい」
時間を稼ぐように聞く。
先生は一瞬だけ目を細めた。
「観測を“確定させなければいい”」
「……だからそれをどうやって」
「干渉しろ」
短い答え。
「結果が一つに収束する前に、複数の可能性を維持し続けろ」
意味は分かる。
でも、それがどれだけ無茶かも分かる。
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《00:01:03》
時間がない。
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「……失敗したら」
「回収」
即答。
分かってる。
聞くまでもない。
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息を吐く。
決めるしかない。
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そのとき。
視界の端で、何かが揺れた。
振り向く。
歩道橋の下。
さっきとは違う場所。
人影がある。
女の子だ。
高校生くらい。
イヤホンをつけて、スマホを見ながら歩いている。
――まずい。
直感が、強く鳴る。
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スマホが震える。
《観測対象:確定直前》
《回収まで:00:00:41》
「……っ!」
来た。
次の観測。
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状況が、一瞬で組み上がる。
女の子は前を見ていない。
その先には、車道。
信号は、点滅。
タイミングがズレてる。
このままだと――
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「……やるしかねえだろ」
呟く。
もう迷ってる時間はない。
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走る。
階段を飛び降りる。
足の衝撃なんてどうでもいい。
距離を詰める。
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《00:00:23》
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「おい!」
叫ぶ。
でも、反応がない。
イヤホン。
聞こえてない。
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もう一歩。
手が届く距離。
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――ここで止めるだけじゃダメだ。
それじゃ、ただの“確定”になる。
別の形で回収されるだけ。
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頭の中で、先生の言葉が回る。
“複数の可能性を維持しろ”
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「……だったら!」
俺は、わざと足を滑らせた。
バランスを崩す。
大きく音を立てて転ぶ。
手をつく。
わざとだ。
でも、派手に。
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女の子の視線が、こっちに向く。
一瞬だけ。
確実に。
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その一瞬で、流れが変わる。
足が止まる。
進むはずだった一歩が、止まる。
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クラクション。
車が通り過ぎる。
ほんの数秒前なら、ぶつかっていた距離。
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《00:00:00》
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静寂。
(ただ、女の子がこちらをミミズを見るかのような目で見てくるのは辛い。)
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スマホが震える。
ゆっくりと、画面を見る。
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《観測失敗》
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「……は?」
思わず声が漏れる。
次の表示。
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《確定不能》
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その下に、小さく。
今まで見たことのない文字。
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《分岐維持》
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息が止まる。
成功、したのか?
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女の子は、何事もなかったかのように歩き出す。
事故は起きない。
回収も、来ない。
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「……やった、のか」
ゆっくりと立ち上がる。
膝が震えている。
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そのとき。
空気が、ぐにゃりと歪んだ。
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「……あーあ。つまんな。」
聞き覚えのある声。
振り返る。
あの少女が、いつの間にかそこにいた。
こころなしか、大きくなっているような。
しかも。
さっきより、少しだけ輪郭が濃い。
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「やっちゃったね」
にやにやしながら言う。
「初回で成功とか、ほんと性格悪いなあ。まだ人なんだから空気ってもの読めないの?」
「……成功、だよな」
「一応ね」
軽く頷く。
でも。その顔は、全然嬉しそうじゃない。
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「じゃあ問題」
少女が指を一本立てる。
「今、何が起きてると思う?」
「……は?」
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その瞬間。
周囲の景色が、わずかにズレた。
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信号の色が、一瞬だけおかしくなる。
通り過ぎたはずの車が、もう一度横切る。
女の子が、同じ場所を二回通る。
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「……なんだよ、これ」
声が震える。
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「分岐、残したんでしょ?」
少女がくすくすと楽しそうに笑う。
「じゃあ当然じゃん」
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一歩近づく。
目が、まっすぐこっちを見る。
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「確定してない世界が、重なってる」
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背筋が冷える。
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「君さ」
少女が、楽しそうに言う。
「もう戻れないよ」
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スマホが震える。
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《観測負荷増大》
《異常拡大中》
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数字が表示される。
意味の分からない、負荷ゲージ。
それが、ゆっくりと上がっていく。
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「壊すって、こういうこと」
さっきまで沈黙を貫いていた先生がつぶやいた。
「君はパラレルワールドとも言えない中途半端な世界を生み出した。その責任はとってよね。」
少女は楽しそうに言い、先生と一緒に光の粒となって消えた。
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