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決心

最近忙しくて、全然更新できませんが、読んでいただきありがとうございます。

光の粒が空中に溶けるように消えたあとも、そこに残された違和感だけは消えず、むしろ時間が経つほどに濃くなっていくようで、俺はその場に立ち尽くしたまま、さっきまで確かに存在していた二人の気配と、確実に壊れ始めている世界の境目がどこにあるのか分からなくなっていた。


 視界の端で、またズレる。同じ女の子が、同じ歩幅で、同じ場所を二度通る。


 いや、違う。よく見るとほんのわずかに違う。


 靴の向き。腕の角度。視線の高さ。全部が微妙にズレたまま、重なっている。


「……これが、分岐維持」


 自分で口に出してみると、その言葉の軽さと、目の前で起きている現象の重さがあまりにも噛み合っていなくて、思わず乾いた笑いが漏れそうになる。


 スマホが震える。

 《観測負荷:34%》


 さっきより確実に上がっている数字を見た瞬間、胸の奥に嫌な確信が生まれるが、それを否定する材料なんてどこにもなくて、ただこのまま何もせずにいれば確実に取り返しのつかないところまで行くという予感だけが、妙にリアルに頭の中に広がっていく。


 遠くで、ブレーキ音がする。

 振り向く。交差点。車が止まっている。でも、その止まり方がおかしい。


 一台の車が、止まっているのに、同時に少しずつ前に進んでいるように見える。


 いや、正確には違う。止まっている状態と、進んでいる状態が、同時に重なっている。


 俺がやったのは、たった一つの観測を壊しただけのはずなのに、その影響がこんな形で広がっていくなんて、正直想像していなかったし、もし事前に分かっていたとしても、それでも同じ選択をしたかどうかは分からない。


 いや。たぶん、してた。あのまま見殺しにするよりは、こっちを選んでいた。


 そう思った瞬間、胸の奥が少しだけ軽くなるが、それと同時に、その選択の責任がすべて自分に乗ってくる感覚がして、逃げ場が完全に消えたこともはっきり理解してしまう。


 スマホが、また震える。

 《観測負荷:41%》

「……上がるの、早すぎだろ」

 思わず声が漏れる。


 さっきから、明らかにペースがおかしい。ただ時間が経っているだけじゃない。何かが、加速している。

 背後で、小さな音がした。


 誰もいないはずの場所に、人影がある。

 さっきの女子高生。

 ――のはずなのに、違う。


 同じ顔、同じ服、同じ姿なのに、ほんの少しだけ表情が違う“もう一人”が、数歩離れた位置に立っている。


「……増えてる?」

 言葉にした瞬間、それが冗談でも何でもない現実だと理解する。

 分岐が“残る”っていうのは、ただ重なるだけじゃない。分かれたまま存在し続けるってことだ。


 このままいけば。

「……どんどん増えるのかよ」

 背筋が冷える。

 視界の中で、同じ人物が、少しずつ増えていく未来が容易に想像できてしまう。

 スマホが震える。

 《観測負荷:49%》

 半分。

 まだ半分のはずなのに、すでに世界の方が限界に近づいているように見えるのは、気のせいじゃない。


 空気が重い。音が遅れる。景色が、わずかにブレ続けている。現実が、安定していない。


「……止めるか」

 小さく呟く。口に出した瞬間、喉が引っかかる。


 止める。つまり、確定させる。どっちかを潰す。


 さっき助けた可能性を、消すかもしれない。全部無駄になるかもしれない。


 それでも。


 このまま進めば、全部が壊れる。

「……ふざけんなよ」


 拳を握る。選ばされてる。最初からずっと。

 でも。

 ここで何も選ばなければ、それこそ全部が無意味になる。


 ゆっくりと、顔を上げる。増え始めている世界を見渡す。


 同じ人間。重なる動き。ズレる現実。

 その中心にいるのは。

「……俺か」はっきり分かる。この歪みの“中心”は、自分だ。


 だったら。やることは一つしかない。スマホを強く握る。


 画面には、まだ数字が動いている。

 《観測負荷:52%》


「……どこまで壊すか、じゃねえな」

 小さく息を吐く。


「どこで止めるか、だ」

 足を踏み出す。


 崩れかけた世界の中へ。

 自分で作った歪みを、自分で収束させるために。

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