回収
ここから少し長めになるかもだけど、よろしくです。
「回収、って……なんだよそれ」
自分の声が、思っていたよりも低く出た。
事故は起きた。でも、当事者がいない。
世界が、結果だけを残している。
目の前の少女は、その光景を当たり前のように見ていた。
「言葉通りだよ。いらなくなったものを、消してるだけ」
「……人だぞ」
「そうだね。でも“人だったもの”でもある」
軽い口調。ベンチに座り、足をぶらぶらさせながら言う少女は実に無邪気だった。
感情の起伏がほとんどない。
そのくせ、目だけは妙にこちらを見ている。
責めてはいない。ただ、標的を捉えた獣のようなまっすぐな目。
観察されているような、測られているような。気持ちのいいものではない。
「君も、そのうち分かるよ」
「分かりたくねえよ」
反射的に言い返す。
少女は少しだけ目を細めた。
「でも、もう始まってる」
その一言で、空気が変わる。
逃げられない、と直感で理解する。
「さっきの子、見えてたでしょ」
「……ああ」
「他の人には見えてないよ」
周囲を見る。
確かに、誰も“いなくなった誰か”の話はしていない。
事故そのものにしか反応していない。
「君はね、“観測側に引っ張られてる”」
「観測側……?」
「うん。普通の人は、確定した結果しか見ない。でも君は違う」
少女は指を一本立てる。
「“分岐する前の状態”を見ちゃってる」
背筋が冷える。
それはつまり。
さっきの少年は、
**“存在する可能性だったもの”**ということか。
「じゃあ、あいつは……」
「回収されたね。」
即答だった。
迷いも、ためらいもない。
「矛盾してたからね。本来いないはずの世界線に、混ざっちゃってた」
「……そんなの、誰が決めてる」
聞いた瞬間、自分でも分かっていた。
答えは、一つしかない。
少女は、少しだけ楽しそうに笑った。
「あなたが最近よく呟く人物。“あの人”だね」
くすくす笑いながらそう言った。
心臓が、大きく鳴る。
はるなが言おうとして、言えなかった名前。
「……何者なんだよ」
「さあ。私は会ったことないし」
肩をすくめる。
「でも、“観測”を管理してる存在。世界線の整合性を保つために、いらないものを消す。」
その説明は、あまりにも淡々としていた。ただ事実だけ。
神様みたいな話を、ただのシステムみたいに言う。
「じゃあ……俺も、か」
「うん」
これも即答だった。
逃げ場を与えないくらい、はっきりと。
「君、もうだいぶ薄いよ」
少女がグッと近づく。
反射的に、俺は後ろに下がった。
「大丈夫。今すぐ消えるわけじゃない」
「……じゃあ、いつだよ」
「分からない。でも――」
少女は、少しだけ間を置いた。
「“先生”に会えなければ、確実に消える」
その言葉で、思考が止まる。
「先生……」
「聞いてるんでしょ?じっけんt、いやはるな?から」
はるなの言葉が蘇る。
“先生のところに行かないとなんとも”
繋がった。
やっと、一つ。
バラバラだった情報が、線になる。
「どこにいる」
自然と口から出ていた。
「教えられるなら、もう教えてる」
「……じゃあ、どうやって見つける」
少女は少し考えるように視線を逸らす。それから、ぽつりと呟いた。
「“観測が歪む場所”」
「……は?」
「さっきみたいなとこ。ズレが大きいところには、必ず関係者がいる。はるなにもう一度会えるかもね。」
つまり。
事故。回収。消える人間。
そういう“異常”が起きる場所。
そこを辿れば、先生に近づく。
スマホが震える。
画面を見る。
《次の観測まで:00:27:14》
また始まる。
逃げる時間は、もうない。
「……お前は何なんだよ」
最後に聞く。
少女は一瞬だけ笑った。
「案内役、かな」
「信用できるか?」
「しなくていいよ」
あっさりと言い切る。
「でも、君一人じゃ、すぐ消える」
風が吹く。ざわめきが戻る。
気づいたときには、少女の姿は消えていた。
でも。
さっきまでとは違う。
分からないことは多い。
でも、やることは決まった。
「……先生を探す」
小さく呟く。
それが、唯一の生き残る方法。
スマホを握りしめる。
カウントは進む。
次の観測が、すぐそこまで来ている。
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