補習合宿
バンドから新たな剣を受け取り、アレスは教室へ向かっていた。
通りすがりにティナがまだ教室へ来ていないことを確認すると、そのまま七組の教室へと足を運んだ。
「よっ、皆おはよ」
「アレス君!!」
「ようやく戻って来られたんスね!」
ラグナ=ディールにやられた傷が酷く、1週間まるまる休んでしまっていたアレス。
そんなアレスを心配していたクラスメイトたちはアレスの姿を見て喜びながら駆け寄ってきた。
「悪いな皆、見舞いにも来て貰っちゃって」
「アレス~!心配してたのよ~!」
「おらメアリー!暑苦しいから抱き着いてくんじゃねえ!」
「ええー!いいじゃない、それだけ心配してたってことよ」
「けッ。相変わらずアレスには猫被りやがって」
「なに?何か言ったマグナ?」
「べっつに」
睨み合う二人に、教室の空気がどっと和む。
アレスがいない一週間、七組の空気はどこか落ち着かなかった。
いつもの騒がしさが戻ってきたことで、皆ようやく日常が帰ってきたのだと実感していた。
「ですが、本当にご無事でよかったです。闘技場の外にも被害が出たほど酷い事件だったと聞きましたよ」
「アレス様は2日目は私たちに来るなって言ってくれましたけど、こうなることが分かっていたのですか?」
「勘だったけどな。結果的に皆を巻き込まなくてよかったよ」
「あっ!アレスさん、戻って来られたんですね!」
するとそこに登校してきたばかりのジョージが教室に現れた。
ジョージも戻ってきたアレスの姿を見て明るい表情で近づいてくる。
「無事に戻って来られてよかったですよ」
「おう。ただ正直2日くらい前から治ってたから体を動かしたくて仕方なかったよ」
「それならもう心配はいらないですね。僕らは回復魔法が効いたのでそこまで時間が……」
「なあ、なあなあ。ジョージ」
「……な、なんですかマグナさん?」
完全復活しようやく学園に戻ってくることができたアレスに話しかけるジョージ。
だがそんな和やかな会話を遮るように、ジョージの背後からマグナが声をかけてきたのだ。
「あのさ、ひじょ~~~に申し訳ないんだけど、この前の数学のノート見せてくれね?」
「え?もしかして……」
「ダメよジョージ!そいつ課題を写す気よ!」
「ジョージさんたちが来る前にクラスの皆さんにお願いして回って……それで断られたので次はジョージさんにお願いしているんですよ」
情けない表情でジョージに胡麻をするマグナに、呆れた様子を見せるメアリーとアリア。
それを見たマグナは開き直ったような態度でジョージにノートを渡すよう迫る。
「うるせえ!やる気はあったけど忙しくてできなかったんだよ!」
「じゃあ何をしていたんですの?」
「それは……ちょっと言えねえけど……」
「そんな見え見えの嘘をつくんじゃないわよ」
「頼むって!今回だけだ!な!?」
「う、うーん……写させるのはまずいですが、解き方なら教えますよ」
縋るような思いでジョージに手を合わせるマグナ。
そんなマグナを見て、ジョージは困ったように笑いながら鞄からノートを取り出した。
「レハート先生ならいつもホームルームぎりぎりに来るでしょうし、数問程度ならきっと間に合……」
「それじゃ間に合わねえんだよ!」
「えっ?」
ノートを開いて課題を教えようとするジョージだったが、マグナはジョージからノートをひったくるように奪い取る。
「マグナさん!?」
「次からは真面目にやる! だから今回だけだ、今回だけ!」
「だ、ダメですよマグナさん!写すだけじゃ何も身につきませんよ!?」
「んなこた分かってるんだよ!だが今は時間内に終わらせることの方が先決なんだよ!」
ノートを取り返そうとするジョージに対し、それを死守しながら自分の席に戻っていくマグナ。
見慣れた光景に皆が呆れながらため息をついた……その時だった。
「なッ……なんだこのノート!?」
なんとマグナがジョージから奪い取ったノートが、いつの間にか一切関係ない別のノートに変わっていたのだ。
「なに?」
「こ、これは……僕のノートじゃありませんよ!?」
「おいジョージ!まさか俺を騙したのか!?」
「いえ、僕は確かに数学のノートを……」
「おらマグナ。てめぇ課題を丸写ししようとしやがって。ジョージも渡すんじゃねえよ」
「れ、レハート先生……」
ノートが入れ替わったことに驚くマグナたちだったが、そこに現れたのはアレスたちの担任であるレハートだった。
「あッ!あれは、ジョージ君のノート!」
「他の奴も、ノートを回収すんぞ。マグナ、お前は後で補習な」
「そ、そんな……」
(あの人のスキルか?そういえば先生のスキルが何か知らなかったな……)
無気力そうな様子で教壇に立ったレハートの手には、マグナが持っていたはずのジョージのノートがあった。
それを見たアレスは何のスキルでノートを入れ替えたのか疑問を持ちつつ、マグナが無関係なノートを返却する様子を眺めていた。
「お~、アレス。戻って来られたのか。ちょうどよかった」
「ちょうどいいって?」
「それより先生。なんで今日に限ってこんな早くに教室に来たんですか?」
「待て待て。それについて今から話すからよ。えー、何から話そうか。お前ら、ここ最近ずっと、ダンジョンへの立ち入りが禁止されてただろう?」
「ええ。アレスさんやソシアさんたちが似たような魔物に襲われたことがきっかけに、でしたよね?」
レハートが話題に出したのはここ数ヶ月、学園の生徒に出されていたダンジョンへの立ち入り禁止令。
普段はより実践的な経験を積むためにダンジョンで採取できる素材の確保などが課題に含まれているこのハズヴァルド学園。
しかし以前アレスやソシアたちが異形の魔物に襲われた事件をきっかけに、学園生が狙われた可能性を考慮してダンジョンでの素材採取の課題が無くなっていたのだ。
「ああ。だがその問題が解決され、安全が確保されたと王国軍から連絡があった」
「いよっしゃ!座学よりもそっちの方が得意なんだよなぁ!」
「うるさいぞ。それでだ。この数ヶ月の穴を埋めるために、教師陣で話し合ってある補習実習をすることになった」
そう言ってレハートが黒板に張り出したのはこのエメルキア王国の地図。
その地図にはある地域が太い赤線で囲われており、レハートはそれを指さして説明を続けた。
「三級ダンジョン、ラウゼル大森林。ここで1週間の強化合宿を行うことになった。そこで直近で行えなかった実践的な課題に取り組んでもらう」
「1週間……それは長いですね」
「いいじゃねえか。そっちの方が楽しそうだ」
「それで先生。その合宿はいつから始まるんですか?」
アリアのその質問にレハートがニヤリと口角を上げる。
「今からだ」
「……え?」
「お前らには今からすぐに、そのラウゼル大森林に向かってもらう。話は以上だ、さあ行けぇ!!」
「ええ!?」
それはあまりに唐突過ぎる話。
事前に何も聞かされていなかったクラスの皆は、レハートのその言葉に困惑を隠せなかった。




