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プライドよりも恩義

ラグナ=ディールとの戦いの傷も癒え、ようやくハズヴァルド学園に戻ってきたアレス。


「……来たか」

「ッ!?お前は!」


だがそんなアレスは学園の校門に差し掛かったその時、信じられない光景を目にした。


「生徒会長様からもうそろそろ学園に戻ってくると聞いていたからな。待っていた甲斐があった」


それは門柱に寄りかかりながらアレスのことを待っていたバンドの姿。

バンドは今日アレスが戻ってくるだろうと考え、朝早くから学園の門の前で待っていたのだ。


「バンド、お前……生きてたのか!?」

「ああ、おかげさまでな」

「正直……助けておいてなんだったけど、悪魔に乗っ取られて王族を殺そうとした罪でよくて終身刑かと……」


バンドが生きているとは思っていなかったアレスは、思わず目を大きく見開いた。

王族の命を狙うことはもちろん、悪魔と関係を持つことも高確率で死刑になる重罪。

ロイを救った時と同様に乗り移った悪魔の邪気のみを斬ってバンドを助けたアレスだったが、その後王国軍に連れていかれて再会できるとは思っていなかった。


「ああ。俺も半ば覚悟していた。ただあの悪魔が封じ込められていた壺が闘技場内から見つかって、入場時に俺が壺を持ち込むのは不可能だったとギリギリ弁明が出来た」


アレスと同様に自分が解放される可能性は低いと覚悟していたバンド。

だが大会の開催期間中、選手も観客も最低限のボディチェックがされており、あれだけの邪気を放つ壺を隠し持つことは不可能とされ、バンドが故意に悪魔と取引したと判断されなかった。


「大会前の緊張を紛らわすために廊下を歩いていたら不審な音を聞きつけ、怪しいと感じた俺はその壺を発見したが王国軍に通報する前に悪魔に体を乗っ取られたと、そう説明したわけだ」

「そうか……それはよかった」

「ただそれでも完全に自由の身になれたわけじゃない。今もこの魔道具で居場所を監視されているが……まあ、この程度で済んでよかったよ」


バンドはそう言いながらズボンの裾を軽く上げると、足に取り付けられたリング状の魔道具をアレスに見せた。

どうやらそれは魔力により常に装着者の居場所を特定できるものらしい。

とはいえ死んでいてもおかしくなかったということで、アレスは安堵の表情を浮かべたのだった。


「……だが、正直に言うと……」

「……?」


しかしその時バンドは少し躊躇うような様子を見せた後、覚悟を決めたように言葉を続けたのだった。


「軍の取り調べでは不可抗力で乗っ取られたと話したが、本当は俺からあの壺に近づいたんだ。どうしてもあの大会で優勝したかったから」

「ッ!?本当なのか!?でもなんでそれを俺に……」


真実を打ち明けたバンドに、アレスは再び驚きを隠せなかった。

なぜならそれは、不可抗力ではなく自分の意思で悪魔と繋がったという証言であり、それが軍に知られれば間違いなく死刑になるような話なのだ。


「ああ、そうだ。これが軍に知られれば俺は死刑。自分の命が惜しければ誰にも話すべきではない……」

「じゃあ、なんで俺に話したんだ?」

「……貴様には……感謝と、謝罪をしなければいけないと。全てを話すべきだと俺が考えたからだ」


バンドはそう言うと真剣な表情でアレスに向き直った。


「俺は貴様に勝つためにあの悪魔に付け入る隙を与えた。だからすべては俺の自業自得……それなのにお前に命を救ってもらった」

「……!」

「だ、だから……今までの非礼と合わせて、詫びさせてくれ!俺は貴様がスキルの無い下民だと侮り、侮辱した!それなのに貴様は死にかけてまで俺の命を救ってくれた……あ、ありがとう。そして、申し訳ありませんでした!」

「お、おい!?」


慣れない感謝と謝罪の言葉を口にして、少しだけ躊躇う様子を見せたバンド。

バンドはプライドが高く、内心では自分の実力不足を認めつつもそれを誰かに話したりはしない。

以前アレスが女体化していた際に惚れた弱みにつけ込むような形でそんな印象を持っていたアレスは、プライドを押し殺して頭を下げながらそう言ったバンドに凄まじい衝撃を受けていた。


「それで……これはティナ様から聞いた話だが、貴様は優勝景品のあの剣を受け取れなかったんだろう?」

「え、ああ……まあな。でもそれが一体……」

「だから……その代わりとまではいかないが、これを受け取って欲しい」

「これは……」


そう言ってバンドが差し出したのは布に包まれた1本の剣。

その布をバンドがめくると、そこから眩い輝きを放つ美しい剣が姿を現した。


「これは俺の家の武器庫にあった剣だ。さすがにミスリル鉱でできた剣には大きく劣るが、それでもこの剣の素材はルミナリオン。家宝の刀を持ち出すわけにはいかなかったから一番とは言えないが、感謝のしるしとして恥じることの無い剣だと考えている!」


バンドが差し出したのはルミナリオンという金属でできた剣だった。

ミスリル鉱には強度も希少さも大きく劣るが、それでも武器の素材としては上級である魔鉱石。

バンドはそれをアレスへの感謝と謝罪の証として差し出してきた。


「いや……そんな大層なことをしたつもりはねえよ!そんな高価なものは受け取れないって……」

「ふざけるんじゃない!この俺様が頭まで下げたんだ!拒否するなど絶対に許さんぞ!!」


一度はその贈り物を断ろうとしたアレスだが、バンドは強引に剣を握らせた。

間違いなく感謝はしているはずなのに傲慢な態度を崩さないバンドに、アレスは圧倒される形で剣を受け取ってしまう。


「じゃあな!これで義理は果たしたぞ!それと言っておくが、あの大会までに貴様を超えるのが厳しいと思っただけで、貴様を超えること自体は諦めてないからな!」

「お、おう……」


言いたいことだけを言い残すと、そのまま踵を返して校舎の方へ向かって行った。

その背中はいつものように尊大で、助けられた人間の態度にはまるで見えなかった。


「そこまで言うなら受け取らない訳にはいかないけど……」


バンドの態度に戸惑いながらも、アレスはその気持ちを確かに受け取ることにしたのだった。

渡された剣を鞘から少し引きだしてその刀身を眺めるアレス。


(……にしても。バンドが悪魔の壺を見つけたのは闘技場の中だったのか……いったい誰が壺を運んだんだ……)


受け取った剣を眺めながら、アレスは悪魔が封印されていた壺を移動させた人物について考えを巡らせていた。


(前にスフィア様から聞いた、メーヴァレア遺跡にあった3つの台座の内一番大きな台にあったはずの壺は恐らくこれだろう。でもだれが……あれだけの悪魔が封印されてた壺だ。持ち運ぼうとすれば少なくとも、そいつは正気を保っていられないはず……)


持ち運ぶことすら困難なレベルの邪気を放つ壺。

それを闘技場に運んだ人物について考えていたアレスは、その得体の知れなさに寒気を覚えたのだった。

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