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理の外にいる存在

「……理解できんな」


お祭り気分の武闘大会が嘘のような惨劇が繰り広げられる王都大闘技場。

その戦闘の元凶であるラグナ=ディールは、血まみれとなったアレスを呆れた表情で見下ろしていた。


「はぁ……はぁ……」

「アレス……どうして、どうしてまだ諦めないの?」


リーザを背にラグナ=ディールの攻撃を受け続けたアレスの足元にはおびただしい量の血が流れていた。

折れた剣はラグナ=ディールの追撃でさらに短くなり、残った刃もボロボロで使い物にならなくなっている。

すでに勝負は決したはず。

にもかかわらず膝をつかないアレスの背を見て、リーザは震える声でなぜまだ戦うのかをアレスに問いかけた。


「その女の言う通りだな。力の差は明白……そもそも戦う前から分かり切っていたことだろう。この女のことなど助けず逃げていれば長生きできたものを。貴様はあの女とは違う。半端な力のせいで自らを英雄だと勘違いしたか?」

「英雄……?はは……俺はそんな大層なもんじゃねえよ。端からすべてを救えるなんて考えてねえ……でもな」


その時、アレスの脳裏に浮かんでいたのは少し前のリーザと……バンドの言葉。


『……助けて』

『が、ああ……。……たす……け、て……』


「辛そうな顔で助けを求める奴くらい、助けたいと思って何が悪い」

「話にならんな」

ビュンッ!

「ぐッ!」


すでに剣を握る力すらまともに入らなくなりつつある状況でなお、アレスの目からは希望が消えない。


(こいつ……)

「それによ……相手が自分より強いからって、逃げ出すようじゃ俺は口だけの情けねえ奴になっちまうからな」


アレスはそう乾いた笑みを浮かべながら、ラグナ=ディールの内に居るはずのバンドに向けて語り掛けた。

それはかつて、自分がバンドに言った言葉。

この状況で笑うアレスの姿に、ラグナ=ディールの中でアレスへの評価が変わりつつあった。



「急げ!この剣を弟に!」


そしてそんなアレスを救うために、ソシアとボレロはこの大会の景品だった王匠グラディウスを手に入れていた。

宝箱からその剣を持ち出したソシアは急いで外にいるアレスの元に向かおうとする。


ドォオオオン!!

「ギギギィ!!」


しかしその時、壁を突き破って1体の影人形がソシアとボレロの前に姿を現したのだ。


「うそッ!まさかジョージ君が……」


それを見たソシアは自分たちのために影人形を引き受けたジョージの身を案じた。

こいつはジョージを殺して自分たちを追いかけてきたのではないかと。


「止まるな!!行け!!」

「ッ!?」


だが立ち止まってしまったソシアに、ボレロは活を入れながら影人形に勢いよく殴り掛かった。


「君の友人はそう簡単にやられない!そう信じてここに来たんだろう!?」

「ッ……はい!」


ボレロの言葉に背中を押されたソシアは、影人形をボレロに任せて入ってきた壁の穴から飛び出した。

そんなソシアを追いかけようとする影人形をボレロが殴りつける。


「ちっ、やはり硬いか……だが、行かせねえよ」

「ギィ……」


その拳はやはり有効打にはならないものの、影人形の行く手を遮ったボレロは再び拳を構える。

足止めが自分の役目だと、ボレロは外のことを他の皆に任せこの戦いに集中するのだった。



「ギギ!!」

「ぐぁ!!」


ソシアが王匠グラディウスを手に走り出したその時、外では影人形の足止めをしていたジョージが限界を迎えていた。

そもそもジョージはまともな攻撃手段を持たない。

それを早くから影人形に見抜かれ、一方的に傷つけられていた。


「ギッギッギ」

(に、逃げ回ることすらできないのか……)


手にしていた盾はすでにひび割れ、原型を留めていない。

受けきれなかった攻撃を何度も食らってしまい足もまともに動かず、すでにジョージの命は風前の灯火といえるものであった。


「ギギギィ!」

(ここまでか……)


価値を確信した影人形はジョージにとどめを刺そうと真正面から鋭い爪を突き立てる。

逃げられない……


ドォオオオォン!!

「ギッ……!?」

「ッ!?」


ジョージがそう悟ったその時、なんと灼熱の炎が轟音と共に上空から叩きつけられたのだ。

その一撃をまともに食らった影人形の体が爆ぜる。


「いったい何が……」

「遅くなってしまい、不甲斐ない!」


放心状態のジョージが上を見上げると、そこには闘技場の屋根の上に立つ一人の影があった。

それは決勝戦でバンドに敗れ、深手を負い医務室へ運ばれていたミレイナ。


「ここからは、私が援護します!」


治療を終えて駆け付けた彼女は戦場全体を見渡せる屋根の上に立ち、そこから魔法による援護を開始したのだった。

ミレイナの火炎魔法は屋根の上から戦場を俯瞰しながら適切に散りばめられる。


「ギギギィ!?」

「よそ見しているんじゃぁないよ!!」

「斬時雨……」


ミレイナの遠距離からの支援に、影人形が気を取られる。


「氷纏華!!」

「朧斬り」


その一瞬の隙を見逃さず、ティナとレイザンは渾身の一撃を影人形に叩き込んだ。

2人の斬撃を食らった影人形たちがその体を維持できずにぼとりと地面に崩れ落ちる。


「ちぃ。下等生物共が。無駄な足掻きを……」


徐々に戦況が人間側に傾いてきたことに、アレスに攻撃を加えながらも見ていたラグナ=ディールは苛立ちを隠せない。


「そんなに戦うのが好きならもっと遊び相手を用意してやるぞ」


そういうとラグナ=ディールは再び影人形を召喚しようと魔力を増幅させた。

ラグナ=ディールの足元の影が蠢き、新たな影人形が這い出てこようとする。


「ッ!あの悪魔、また追加で黒い分身を……」

ビュッ!!

「ッ!?」


そんな様子を屋根の上から見ていたミレイナだったのだが、そんな彼女の横を突如、凄まじい勢いで何者かが通過した。


(あれは!)

「子飼いのチンピラが、よくもアレス様を!!」

「ロイさん!?」


その影は屋根から飛び降りると、勢いよくラグナ=ディールへと向かって行く。

なんとそれは狼の姿に戻ったロイであり、闘技場の外から悪魔の気配に気付いていたロイは上空から奇襲を仕掛けたのだ。


「貴様は!あの女の犬!」


ロイの姿を見たラグナ=ディールは一瞬目を見開き驚くものの、すぐさま迎撃体制へと移る。


(ッ!?ロイさん……いや、むしろ好機だ!)

「ッ、おいフォルワイル嬢!どこへ……」


それを見たティナはこれを好機と捉え、ロイと同時攻撃を仕掛ける形で勢いよく飛び出した。

ロイの鋭い爪とティナの冷気を纏った刀がラグナ=ディールに迫る……


「鬱陶しい蠅共がぁ!!」

「ッ!?」

「ぐぁあああ!?」


しかし不意打ちに近い形で仕掛けたにもかかわらず、後手に回ったラグナ=ディールは余裕をもって2人の同時攻撃を捌いて見せたのだった。

複数の刃の軌道が宙をうねり、ティナとロイを斬り刻んでしまう。


「ごはッ……」

「ぐぅ……」


よりラグナ=ディールに近かったロイは致命傷になり得る深手を、距離があったティナも防御しきれずに腕と腹を深く斬られてしまう。


「無意味だ。貴様らが何をしようとも」


地面に伏した2人を見て、ラグナ=ディールがゴミを見るような目で見下す。


「いいや、無意味なもんか」


だがその状況でアレスは口角を上げ、握りしめていた折れた剣を手放したのだった。


ヒュンヒュンヒュン!

(ッ!?あれは!)


空気を引き裂くような音にラグナ=ディールが気づいた時にはすでに手遅れであった。

アレスの後方から飛んできていたのは高速で回転した新品の……王匠グラディウス。


ガシッ!!


アレスはそれを一切後ろを振り向くことなくキャッチする。

それはまるで剣の方がアレスの手に吸い寄せられていくかのような軌道。


「ありがとうソシア。それにティナ、ロイさん」

(よ、よかったぁ……声を掛けずに投げちゃったから気付いてもらえないかと思った……)


そんなアレスの後ろにいたのは王匠グラディウスを投げたソシア。

ソシアはロイとティナがラグナ=ディールに襲い掛かった一瞬の隙を見逃さず、アレスに王匠グラディウスを投げて渡していたのだ。


(すげぇ……これがミスリル鉱でできた剣。今までの剣とはまるで違う。まるで……こいつ自身が意志を持ってるかのようだ)


アレスは初めて手にしたミスリル鉱でできた剣を握りしめ、その感触に驚きを隠せないでいた。

それまで、アレスはどんな剣であろうとも100%の力を引き出せることが重要だと考えていた。

だがこの剣は違う。

アレスの力を120%引き出してくれるような……それだけ信頼することができる剣だった。


(アレス……まさか、そんなことが……)


そんなアレスの後ろにいたリーザは、王匠グラディウスを手にしたアレスの背中を見て大きく目を見開いた。


「剣が……新しくなったからなんだというのだ!?」


アレスの変化に驚いていたのはリーザだけではない。

自身の違和感を強く否定するようにそう叫んだラグナ=ディールはそれまでとは比にならない速度で斬撃を飛ばす。


ギィイイイン!!

「なに!?」


だがそんな高速の斬撃を、アレスは完全に剣で斬り伏せてしまう。


「本当はもうとっくに、お前の攻撃は見えてたんだ。折れた剣でリーザを庇うのが大変だっただけで」

「な、なんだと……?」

「さっきの言葉をお前にお返しするよ。お前もわかってるんだろう?もう俺には勝てないって」


そう言ったアレスはボロボロの体に鞭を打ち最後の攻撃を繰り出す。

太陽の光を受け美しく輝く王匠グラディウスを地面に水平に構え、大きく息を吐く。


(私は……確定した未来を変えることなんて不可能だと思ってた。この悪魔が人知を超える存在というならば……その存在によって決められた死の未来は受け入れるしかないと。でも、あなたは違った……)


アレスの背中を見上げていたリーザの瞳に光が戻る。


(……そうか。俺は始めから間違っていた……。こいつはあの女に似ているなんてものじゃない。まさに……)

「下等生物ごときが……」

「剣聖・天朧解解!」


直後、アレスはすさまじい速度で踏み込みながら剣を振り抜く。

ラグナ=ディールは半ば諦めたようにその斬撃を受け入れ、完膚なきまでに袈裟に斬り裂かれたのだった。


(アレス……あなたもまた、私の確定した未来を変え得る理の外にいる存在なのね)


その光景にリーザは呼吸すらも忘れ、ただ強く心を震わせていた。

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