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希望を託す

ラグナ=ディールの攻撃に対応できると反撃に移ろうとしたアレス。

だがそれを見透かしたラグナ=ディールがより鋭い攻撃を放ち、アレスの剣を折って致命的な傷を与えてしまったのだ。


「ぐッ……がぁああ!」

「アレス!」

「おい、俺は休んでいいとは言ってないぞ」

ビュン!!


不可視の斬撃が掠った左の頭部を押さえるアレスだったが、ラグナ=ディールは休む隙を与えず追撃を仕掛けた。

アレスは必死に折れた刃でその攻撃を防ごうとする。


ザシュッ!!

「がッ!?」

「きゃあ!!」


だが折れた剣でその攻撃に完全に対応することが出来ず、後ろにいたリーザ共々深く切り裂かれてしまったのだ。


「俺に届くと愚かな考えをした罰だ。貴様は俺の恨みを少しでも晴らす役割しか与えられていない」

「ぐッ……ごほっ」


ざっくりと切り裂かれた脇腹を抑えながら苦しむアレス。

もうラグナ=ディールに抵抗することは誰の目から見ても不可能である……。


「チッ……どうやら、まだ絶望と苦痛が足りないらしいな」

「はぁ……はぁ……」


しかしアレスはこの絶望的な状況の中でも目の奥の光を失わず、ラグナ=ディールを強く睨みつけたのだった。



「あ、アレス君が!」


ラグナ=ディールの猛攻に、アレスの剣が折られ更なる深手を負わされてしまった光景。

それを武舞台を挟んだ向かい側の観客席から見ていたソシアは、あまりに凄惨な光景に思わず口を手で覆ってしまっていた。


「そ、そんな……あのアレスさんが、ここまで一方的に……」


ソシアと共に見ていたジョージも声を震わせながら息を呑む。

誰よりも強く、どんな劣勢であっても必ず何とかしてくれるだろうと2人が絶対の信頼を寄せていたアレス。

それがリーザを庇いながらの戦いとはいえ一方的に押し込まれてしまっている。

それどころか、もう立っているのがやっとの状態なのだ。


(どうしよう。援護をする?私の力で何が出来る……?)


今すぐにでも駆け出したいという気持ちを抑え、ソシアは必死にこの状況で自分に何が出来るかを考えていた。

攻撃魔法での援護ではあまりに無力。

回復魔法を試みようとも近づくことすらできそうになく、仮に辿り着けてもアレスに庇われて負担を増やすだけ。


(私にできること……援軍を呼ぶ?それよりもアレス君の折れた剣の代わりの剣を……代わりの剣!?)


そして考え続けていたソシアだが、頭の中で一つの記憶が弾けた。


(……ミスリルの剣!)


それはこの大会の優勝賞品だった剣、王匠グラディウス。

あの悪魔に対抗するにはこれ以上ない武器の存在を思い出し、ソシアの頭の中に希望の光がわずかに差し込む。


「ジョージ君!」

「えっ!?」

「ミスリルの剣……あれをアレス君に渡せば!」


ジョージもすぐに意図を理解する。


「そうか!でも、どこにあるか……」

「わかってる。ボレロ様!」


王匠グラディウスをアレスに渡さなければいけない。

自分の使命を理解したソシアは近くで戦闘を続けていたボレロに呼び掛けた。

 

「何だ!!今は手が離せない!」


ラグナ=ディールが生み出した分身と戦っていたボレロには振り向く余裕すらない。


「ミスリルの剣の場所を教えてください!アレス君に必要なんです!」


しかしこの惨状では武闘大会の関係者を探し出すことは容易ではない。

王国軍でありリーザの指示で大会に参加していたボレロであれば、王匠グラディウスのありかに何か心当たりがあるかもしれない。

部外者のソシアがこの混乱の中でその剣を見つけるのはリスクが大きすぎるとして、ボレロの協力が必須だった。


「何!?あの剣を!?」

「アレス君があの悪魔に負けたらもうおしまいです!どうかお願いします!」


戦闘を続けるボレロはその話に耳を傾けながらも、アレスに大会の景品を託すことにすぐには納得しなかった。

アレスは何の立場もない人間であり、スキルを失っている弟にすべてを託すことなどできないと。

だがその考えはすぐに覆されることになる。


「その折れた剣でいつまでもつかな?」

「ぐッ!!」


ボレロの視界の端に映ったのは嵐のような攻撃を必死にしのぎ続けるアレスの姿。

その攻撃を続けるラグナ=ディールの姿は離れた場所から見ているだけで背筋が冷たくなるほどに恐ろしく、ボレロは自分とラグナ=ディール……そしてアレスとの力の差をすぐに理解した。


「わ、わかった!だがその前にこいつを何とかしなければ……」


自分はもちろん、他の誰であってもあの悪魔に対抗することはできない。

そう考えたボレロはソシアの考えを受け入れることにしたのだった。

だがそのためには自分たちを執拗に狙うこの影人形を何とかしなければいけない。


「……僕が、時間を稼ぎます」


するとその会話を静かに聞いていたジョージが、覚悟を決めた表情でボレロの前に歩み出たのだ。

数的不利となったことで影人形は距離を取り様子を窺う。


「僕がこの分身を引き受けます。だから……その間にソシアさんを王匠グラディウスのもとに案内してください」

「馬鹿を言うな!」


ジョージはそう力強く言うが、ボレロが即座に否定する。

事実、誰の目から見てもジョージではこの影人形の相手は務まらない。

その何よりの証拠にジョージの盾を構える手は震えており、彼自身無謀な戦いに臨んでいることを理解しているのだ。


「お前じゃ相手にならん!殺されるぞ!」

「分かってます!でも、ここで何もしなかったらアレスさんがあいつに殺されてどのみち皆死ぬ!それなら僕がやるしかないじゃないですか!」

「……っ」


ジョージの覚悟は揺るがない。

その訴えを聞いたボレロが悔しそうな表情でこぶしを握り締めた。


「わかった。だが、死ぬなよ」

「善処します」

「ソシアさん!俺についてこい!」

「はい!ジョージ君、頑張って!」


ジョージの覚悟を無駄にしないため、ボレロは身を翻しソシアをミスリルの剣の元に案内しに向かったのだ。

ソシアもジョージの無事を祈り、即座にボレロの後に続く。


「ギィイイ!!」


そんなソシアたちを追跡しようと影人形が動き出す。


「お前の相手は僕だ!!ここから先にはいかせない!」

「ギギギィ!!」


そんな影人形の前に立ちはだかり、ジョージは盾を構えた。

分身とはいえその恐ろしい呪いの気配に、ジョージの頬を一筋の汗が伝う。


(時間を稼ぐ……この命と引き換えでも!)


そんなジョージを見て影人形は、まるで余裕だと言わんばかりの仕草をしてみせた。


「こっちだ!最短距離を行く!!」


そうしてジョージが生み出した貴重な時間を無駄にしないように、ボレロがソシアと共に王匠グラディウスの元へと急いだ。

壁を破壊し、2人は最短距離で進んで行く。


(ミスリルの剣は何とか手に入りそう……でも、それをどうやってアレス君に渡せば……)


しかしそれでもすべての不安は拭えなず、ソシアは暗い表情のままボレロの背を追い続けた。



一方その頃、武舞台の中央では。


「邪魔だお前らぁ!!」

「ギギ」

「ギィ」


アレスの助けに駆け付けたティナが、2体の影人形を相手に劣勢を強いられていた。


(くそッ!!こいつらただの雑魚じゃない!まるで歴戦の兵士のような立ち回りだ!)


影人形たちはラグナ=ディールの指示を受けることなく、ティナが厄介だと判断し連携して戦闘を有利に進めていく。

時間を稼がれていることをひしひしと感じながら、ティナの顔に焦りの色が見え始めていた。


(強引に攻めれば隙を見せる。だがこれ以上時間はかけられない……)

「ギギ……ギッ!?」

「ひゃっはぁああ!!まだまだ斬り足りねぇ!!」


するとその時、拮抗した戦場をかき乱すように異常なテンションのレイザンが飛び込んできたのだ。

レイザンは頭部から出血し、顔面を血に染めながらもそれでも狂ったように笑っている。


「なッ!?レイザンさん、その顔は!?」

「問題ねぇ!!ぜぇ……それよりフォルワイル嬢!いつまでも遊んでる場合じゃねえぞ!」


ティナとは別に、3体の影人形を相手にしていたレイザン。

圧倒的不利な状況にも関わらず彼は捨て身の猛攻を見せ、負傷しながらもティナの援護にやってきていた。


(この人、負傷でハイになってるのか!?)

「ッ!遊んでるわけがないだろう!」

「ぜぇ……ぜぇ……合わせろよ?まだほかにも大勢残ってんだからなぁ!」


ティナのピンチに駆け付けたレイザンは息を切らせながらも不敵に笑う。

そんな彼に負けじとティナは刀を構えたのだった。



ボォオオオン!!


そしてティナがレイザンとの共闘を開始したちょうどその頃。

壁を突き破り最短距離で進んでいたボレロが、盛大に壁を破壊して闘技場内にある宝物庫へとたどり着いたのだ。


「はぁ……はぁ……ここだ。この宝箱の中に……」

「ッ!」


息を切らせながらボレロが進んだ先に、ひときわ目立つ装飾の施された宝箱がおかれていた。

その宝箱の鍵を強引に破壊して開けると、底に入っていた剣にソシアは言葉を失った。


「これが王匠グラディウス……」


それは名工グラムが作り出した最高傑作。

王族ですらまともにお目にかかれない希少なミスリル鉱で作られた、一切の穢れを寄せ付けないような輝きを放つ剣。


「早くそれを弟に!」

「はい!」


だが感傷に浸っている時間はない。

その剣を手にしたソシアはボレロと共にその剣をアレスに渡そうと走り出したのだった。

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