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露わになる秘密

(奴隷の……刻印が……)


メルトスパインの毒液をまともに浴びてしまったヴィオラ。

人体には無害だが服を溶かしてしまうその毒液により、奴隷の刻印が露わになってしまったのだ。


「ギィイイ……」


グレイの投げた隠し刃により一瞬怯んだメルトスパインだったが、すぐに正気を取り戻して目の前のヴィオラに狙いを定めた。

ヴィオラは剣を手放してしまっており丸腰。

メルトスパインの鋭い腕がヴィオラに迫る。


「……ッ!!」


それを見たグレイは即座にヴィオラを庇おうと、全力で駆けだした。

グレイは問題なくその攻撃を防ぎヴィオラを助けられる……そう、考えていたのだが。


「ッ!?」


なんとヴィオラは突如走り出し、グレイの前から逃げ出したのだ。


「ヴィオラさん!?」


想定外のヴィオラの行動にグレイは思わず声を上げる。

ヴィオラはまだ傷も治り切っておらず、魔物に対抗する武器も持ち合わせていない。

本来グレイの傍を離れることは自殺行為に等しいのだが、ヴィオラはグレイが魔物に行く手を塞がれているうちに洞窟の奥へと姿を消したのだ。


「はぁ……はぁ……」

(勝手なことをしてごめんなさい……でも、でも……)


闇に閉ざされた洞窟の中、心許ない松明の明かり1つだけを手に走るヴィオラ。

その頭の中は自分が奴隷であるということを誰かに知られてしまうことへの恐怖でいっぱいだった。


もちろん、奴隷の刻印があってもヴィオラの今の立場は奴隷と呼べるものではない。

彼女自身も主人がアレスであるならば信頼できる、秘密を共有できる相手だと考えている。

それでも……


「きゃぁ!?」

(はぁ……はぁ……誰かに、この背中を見られるのが恐ろしい……)


一心不乱に洞窟の中を走っていたヴィオラは段差でつまずき派手に転んでしまう。

姉を超えるため、バルシュテイン家の次期当主として相応しい人物にならなければいけないという重圧が、彼女の中に貴族の誇りという呪いを作り出していた。


誰かに自分が奴隷であることを知られて、貴族としての誇りを貶されることが恐ろしい。

ヴィオラはグレイに奴隷の刻印を見られることを恐れて単独行動を取ってしまったのだ。




ヴィオラがグレイと離れたちょうどその頃。

ソシアたちも暗闇に包まれたこの洞窟の中を進んでいた。


「ここ、足元滑りやすいから気をつけてね」

「ありがとうございます。ただでさえ足場が悪いのに岩が濡れていて……聞いていたより厄介なダンジョンですね」


先頭を進むソシアが光源魔法で周囲を照らし、暗さは幾分かマシではあった。

だが足場は大小さまざまな岩が不安定に組み合わさっており相当悪く、おまけに天井から滴る水滴により滑りやすくなっていたのだ。


「まずは下へ向かいましょう。川に流されてこのダンジョンに辿り着いたならヴィオラ様がいるのはもっと下層です」

「そうですね。アレスさんとも合流できればいいのですが……」


魔物の襲撃を警戒しながら一行は進んで行く。

どこからともなく響く水滴の音が反響し、周囲の状況が探りづらい環境が続いていた。


ゴゴゴゴォ!

「えッ!?」


そんな張り詰めた状況の中、ソシアがすぐ真横にあった大きな岩に手を掛けたその瞬間、なんとその岩が音を立てて動き出したのだ。


「グゴォオオ!!」

「ソシア!」

「あれは!ラピドロスです!」


ソシアがただの岩だと思ったのはこのダンジョンに生息する鉱石系の魔物、ラピドロス。

動き始めるまで本当にただの岩にしか思えなかったそれは、無防備に近づいてきたソシアを得物だと判断し襲い掛かってきた。


「きゃぁああ!」


あまりに突然の事態にソシアは足がすくみ、反射的に腕を上げることしかできなかった。


「くッ!」

「ご安心ください」


それを見たティナはソシアを庇おうと刀に手をかける。

だがそんなティナの真横を一瞬で追い越す影があった。


「ふんッ!!」

ドゴォオオオン!!


ソシアの窮地に飛び出したのはロイ。

流れるような身のこなしでソシアの前に出たロイは、腰を捻るようにして鋭い蹴りを打ち込んだのだ。

巨大な岩の塊にめり込んだその蹴りは、いともたやすくラピドロスの体を粉々に砕いてしまう。


「ソシア様、お怪我はありませんか?」

「あ、ありがとうございます……」

「申し訳ありません。私の注意力不足でソシア様を危険な目に遭わせてしまいました」

「そ、そんな!ロイさんのおかげで助かりました」

「す、すごい……」

「ああ。あの巨大な岩の塊を一発で」


ロイがソシアに頭を下げていたその時には、その傍らに崩れ去った岩の残骸が転がっていた。

それはまるで大砲か何かで穿たれたかのような大穴が開けられている。

ジョージとティナはそのあまりの威力に感心していた。


「しかし、この魔物は想像以上に擬態が上手いようで」

「そうですね。音もにおいも異変はなかったですし……」

「ラピドロスの擬態は見分けるのが困難と言われていますからね。熟練の冒険者でも命を落としかねません」

「そうか。これは気を引き締めないといけないな」

「ッ!!このにおいは!」


ラピドロスの擬態能力の高さに気を引き締め直すティナたちだったが、その時ソシアがどこからともなく漂ってきた微かなにおいに反応したのだ。


「どうしたんですか、ソシアさん」

「血のにおい……あっちの方から!」

「負傷者か!?まさかヴィオラ!」

「急ぎましょう!魔物への警戒もお忘れなきよう!」


ソシアの言葉を聞いた皆は、それがヴィオラの物ではないかと考え、急いで駆けつけることにしたのだ。

魔物への警戒を続けながら、血のにおいがする方向へ急いで進んで行く。


「水の音……外から流れ込んだ川でしょうか?」

「あれは!」


息のつまりそうな入り組んだ通路を抜け、ソシアたちは少し開けた空間へとたどり着いた。

そこは外部から流れ込んだ川が続いており、それまでの洞窟よりも空気が湿気っているように感じられた。

そんな川のすぐそば。

そこに血まみれで足を引きずっていた女性の姿があったのだ。


「はぁ……はぁ……ッ!?だ、誰ッ!?」


その女性はソシアたちを発見すると、満身創痍の体で剣を抜いた。


「ま、待ってください!私たちは敵ではありません!」

「あの服、さっき僕らが助けた2人と同じです」

「ということはあの人も……バルシュテイン家の護衛の方ですか?我々は救助が目的でここまでやってきました!」

「救……助……?ああ……助かった、のね……」


現れたソシアたちが敵ではないと知ると、その女性は安堵のあまり、そのまま気を失いそうになってしまったのだ。

全身から力が抜け、そのままふらりと後方へ倒れかける。


「危ない!」


だがその女性が地面に倒れ込むより早く、ロイがその女性に駆け寄りそっとその体を支えたのだった。

ロイはそのままその女性を静かに地面へと横たえる。


「ロイさん!その人は!?」

「我々が敵ではないと知って、安堵のあまり気を失っただけのようです。ただ出血が多い、危険な状態です」

「すぐ止血を!」

「ッ!皆さん、あそこを!」


その女性の手当てをしようと駆け寄る3人。

だが駆け寄ったジョージはさらにその岩陰に2人、少し離れた場所にもう1人が倒れていることに気付いたのだ。


「この人たちも彼女の仲間か!」

「そんな、ひどい怪我……」

「こちらの女性は彼らを救おうとこの怪我で動いていたようですね」

「早く、手当てします!」


彼らに意識はなく、川に流されている間に激しく岩に体を打ち付けられ重傷を負っていた3人。

ソシアたちはその状況の深刻さをすぐに悟り、急いで応急処置を開始した。


「4人とも出血が酷い!骨折……それと、頭部にも打撲が」

「ジョージ君!この人をお願い!」

「わかりました……」

(この傷……私の魔力で足りるかどうか……)


すでに地上で2人分の回復魔法を施していたソシア。

さらに追加で4人の重症者を治療するということで、魔力切れが頭をよぎったが、それでも必ず彼らを救おうと必死に手を動かした。


「回復魔法は必要最小限に。止血に私の服をお使いください」

「止血は私がしよう!冷やして血を……っ!?」


必死の応急処置が始まったその時、ティナは暗闇の中から誰かの足音がすることに気付いたのだ。


「皆!誰か来るぞ!」

「ま、また魔物!?」

「いえ。この足音は人でしょう」

「アレスさん……じゃありませんよね?」


この男性たちを襲った何者かの襲来か。

ソシアたちは緊迫した状況の中暗闇から近づいてくる何者かに警戒心を高めていった。


「鎧の……ただ者じゃないな。何者だ貴様!」

「いえ、あの鎧は!」

「ジョージ君、知ってるの!?」

「はい。恐らく……あの人はグレイ・ノクスホープ。冒険者ギルドのフルスターの称号を持つ冒険者です!」


しかしソシアの光源魔法に照らされたその人物に、ジョージはその正体が冒険者ギルドの人間ではないかとあたりを付けたのだ。

ソシアたちの姿を視認したグレイは驚いたようにその場に立ち止まる。


「あなたは!敵ではないんですね!?」

「すみません!この人たち酷い怪我なんです!応急処置を手伝ってください!」

「……、っ!」


その鎧のせいでグレイ本人であることに確信を持てないジョージたちは、離れた位置に立っているグレイに強めの口調で話しかける。

だがグレイはその問いに返答することはなく、明らかに戸惑うような動きを見せた。


「……妙だぞ。返事がない。ジョージ、本当にあの人はグレイ本人か?」

「それは……同じ鎧を身に付けたなりすまし、である可能性は否定できません」

「失礼ですが。あなたのお名前と、身分をお聞かせ願えますか?」

「……」


ロイが警戒心をあらわにしながらグレイに歩み寄る。

敵の可能性も捨てきれずに緊張感が辺りを支配する。


「キシャァアアア!!」

「ッ!?」


だがその時。

暗闇から這い出るように、メルトスパインがグレイを狙って姿を現したのだ。


(しまった!警戒を疎かにしてしまった……)


目の前のグレイ、そして背後のソシアたちに意識を向けていたロイはメルトスパインの急襲に反応が遅れる。

そしてそれはソシアたちに話しかけられ動揺していたグレイも同様だった。


「バァッ!!」


ロイたちの隙を突いたメルトスパインは、グレイめがけて毒液を放出した。

それは一直線にグレイの頭部へと命中……一瞬でグレイの鎧の頭部分を溶かしてしまう。


「えっ……あっ……///」

「っ!女性……」


メルトスパインの生物以外を溶かす毒液により兜部分が溶かされたグレイ。

そこから露わになったのは重々しい黒錆の鎧には似つかわしくないような美しい女性の顔だったのだ。


「いやぁああああ!!見ないでぇ~!!///」

「ッ!?」


急に素顔を晒されたグレイは恥ずかしさから、凄まじい声量で悲鳴を上げる。

洞窟全体を包むようなその甲高い悲鳴に、ロイたちは驚きを隠せなかった。

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