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胸騒ぎ

澄んだ朝の空気が冷たく体に染み渡るハズヴァルド学園の朝のこと。


「またこのニュースか。こりゃ名乗り出なくて正解だったな」


ここ数日は忙しく、行うことができていなかった日課の素振りを終えたアレスは、寮の1階のエントランスで一息ついていた。

休日ということで辺りは落ち着いており、アレスは机の上に紅茶を用意して新聞を見る。

これがこの学園に来てからのアレスの日常のルーティーンだった。


「あちっ。今日のはちょっと熱いな」


アレスが飲んでいるのは毎朝学生に1杯提供される紅茶。

ここハズヴァルド学園はもともと貴族のみが通う格式高い学園だったということで、平民が通うようになった今でもこの習慣だけは変わらず続いていたのだ。


アレスが手に取った今朝の新聞の見出しは、昨日と変わらないフォルワイル家を狙った連続暗殺事件に関するもの。

それだけ大事件だったということなのだが、アレスは自分が事件解決に貢献したと名乗り出て、この騒ぎに巻き込まれなくてよかったと心底安心していた。


「……ん?」


だがそんなアレスがページを捲ると、そこにはアレスの興味を強く引く記事が載せられていたのだ。


――地方魔物発生情報。

(この辺り……王都とグリュンフォルドを繋ぐ街道のすぐ近くだ)


それは普段であれば新聞の見出しを飾っていたはずの魔物の発生情報。

魔物は普段、魔素濃度の高いダンジョンとその周辺で出現し、それ以外の地域では頻繁に見かけることは少ない。

ただ稀にダンジョン外で魔物の大量発生が起こるため、新聞などで注意喚起が行われていたのだ。


そんなよくある魔物の発生情報だが、アレスはその地域を見た瞬間に先日の会話を思い出していた。


『実は今度の休日、グリュンフォルドに向けて物資の運搬チームが出発するんです。家の用事ついでに、その輸送の護衛として同行することになっていて』


それは2日前、ヴィオラが話していたグリュンフォルドへの輸送に同行するというもの。

グリュンフォルドは周囲を険しい山々に囲まれているため王都からのルートが制限されており、そのルートが魔物が発生している地域とかなり近かったのだ。


「グレイホーンウルフか……ちょっと面倒だな」


今回発生していたのはグレイホーンウルフと呼ばれる大型の狼の魔物。

単体の戦闘能力の高さもさることながら、群れで行動し高い知能も合わさってかなり危険とされる魔物である。

そんな魔物の出現情報に、アレスの紅茶を口に運ぶ手が止まる。


(いや、むしろヴィオラが同行することになったのは幸いか?あいつの実力ならそう簡単にグレイホーンウルフに後れを取ることはないし。そもそも輸送のプロのバルシュテイン家がリスクを回避する術を持ってないはずはないし……)

「……」


危険度の高いグレイホーンウルフだが、それでも特別強力な魔物という訳でもない。

輸送に慣れているバルシュテイン家が事前に判明している魔物の発生に対応できないはずもなく、アレスは特に問題はないと結論を出していたのだ。

――だがしかし。

危険は少ないと考えたはずなのに、アレスのページを捲る手は止まったままである。


(ティナのことがあって心配し過ぎてるのか?だが、ちょっと気になる……)

「ア~レス!何を難しい顔をしてるんだ?」


魔物の発生情報を睨んだまま固まるアレスだったが、背後からアレスを呼ぶ明るい声が聞こえてきたのだ。

振り返るとそこにはティナに加え、ソシアとジョージの姿があった。


「ん、ティナ……に、ソシアとジョージまで。なんかあったのか?」

「ううん。ただ偶然そこで会っただけなの。それよりアレス君、どうしたの?」

「魔物の発生情報……ああ。やっぱりアレスさんも気になりましたか」

「ああ……たぶんヴィオラがこの近くを通るからな。でも大丈夫だろ」


新聞を見たジョージにそう聞かれたアレスは、新聞を畳み紅茶を飲みほした。

しかしそれはアレスのことをよく知る友人であればぎこちなく不自然なものであるとすぐに察せられる物であった。


「……アレス、今日の予定は?」

「え?あー……今日は暇だけど」

「それじゃあ決まりだね。私準備してくる」

「アレスさん、ロイさんにお願いできますか?あの人にお願いするのが1番速いですし」

「おいおい、お前ら何の話してんだ……」


戸惑うアレスに、ティナは見透かしたようにこう言った。


「ヴィオラが心配なんだろう?それならみんなで様子を見に行こう」

「は!?いや、俺は別に……」

「バレバレだよ、アレス君。別に隠さなくていいのに」

「それに、ここ最近はずっとダンジョンへの立ち入りが禁止されてるだろ?それなら、魔物の方からダンジョンの外に出てきてくれるなら訓練としてはちょうどいいじゃないか」

「んー……そうか。まあ、お前らがそこまで言うなら……」

「まったく。素直じゃないですね」


心配し過ぎなんじゃないかと迷っていたアレスに、そのグレイホーンウルフの討伐のついでにヴィオラの様子を見に行こうと3人は提案したのだ。

内心ヴィオラのことが気になっていたアレスは、最終的にティナたちの提案に乗ることにした。

最低限の装備を整え、アレスたちは魔物が発生しているというノルグ高原近くの街道を目指すことにしたのだった。

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