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剣を取る理由

「あなた、剣以外も扱えるの?」


カフェテリアで談笑していたアレスたちの元に加わったヴィオラ。

何の話をしていたのかとアレスたちに聞いたことで、話題は先程の続きに戻ることになっていた。


「やはり君もそう思うか」

「アレスさんならできるでしょうという気持ちと、剣以外の武器を持ってる姿が想像できない気持ちが半々です……」

「そりゃ得意なのは剣だからな。そうだ、ヴィオラもこの後時間あるなら一緒にどうだ?」


熱い紅茶に口をつけたアレスは、思いついたようにヴィオラにそう提案した。

だがそれを聞いたヴィオラは何やら、複雑な表情を浮かべたのだった。


「それは……」

「アレスさん、生徒会のお仕事が忙しいんじゃないでしょうか?」

「ん、そうなのか?こんなところに来るくらいだから時間はあると思ったんだが」

「……アレスさん、こちらへ」

「お、おいなんだよ」


そのヴィオラの反応に生徒会の仕事が忙しいのかと考えた4人。

しかし少し黙っていたヴィオラが突然アレスの腕を掴んで、ティナたちが座っていたテーブルから離れたのだ。


「ちょっと!あなた、私の背中にあの印があることを忘れてないでしょうね?」

「あの印って……ああ、もちろん覚えてるよ。でもそれが何の関係が?」

「私があなたを攻撃したら罰として激痛が走るのよ?訓練なんて出来るわけないじゃない」


それは他の人に聞かれるわけにはいかない奴隷の刻印に関する話。

奴隷の刻印を刻まれた者は主人に対して害意を持って行動をしようとすると、罰として耐えがたい激痛が与えられる仕組みとなっているのだ。


「ヴィオラの奴、一体何の話をしているんだ?」

「さぁ……」

(あの2人……ちょっと距離が近くないかな?)


アレスとヴィオラの関係を知らない3人はまったく事情が分からずただ見守ることしかできない。


「えぇ、訓練でもダメなのか?」

「知らないわよ。でももし訓練での攻撃もアウトなら、私はまたあの痛みを受けないといけないのよ?あれ、あなたが思ってる以上に痛いんだから」

「俺は大丈夫だと思うが……お前が嫌ならしょうがねえな。でも、本当は俺と戦ってみたかったりするんじゃないのか?」

「それは……まあ、あなたとはきちんと剣を交えたことはなかったですし。王国軍の主流が剣術ということもあってかそれ以外の武器を扱う方との手合わせは貴重ですから」


奴隷の刻印のせいで訓練への抵抗があるヴィオラだが、本心ではもちろん強者であるアレスとの手合わせは望むところ。

古くは英雄ラーミアの影響でこの国では剣術が1番主流ということもあり、槍術も扱えるというアレスの言葉にも興味があったのだ。


「やりたいんならやりましょうよ。調べた感じ、奴隷の刻印は敵意や殺意に反応するものらしいですから。訓練で、しかも寸止めとかなら絶対大丈夫ですよ」

「そんなこと言われても。やっぱり見るだけで……」

「ふっ。じゃあ……命令しちゃおうかな?」

「っ!?」


ヴィオラも元来はアレスやティナと同類。

自分の実力を確かめたいという気持ちを抑えきれなかったのだが、どうしても奴隷の刻印の罰のことを考えると抵抗があったのだ。

しかしそれを見たアレスはヴィオラに歩み寄ると、その耳元で小さく囁いた。


「命令だ。ヴィオラ、俺の訓練に付き合え。攻撃を当てても罰は与えないからよ」

「ッ!」

(ああ、この感じ……久しぶりッ!)


それは主人が奴隷に行う絶対の命令。

アレスが耳元でその命令を囁くと奴隷の刻印が反応し、背中から脳にかけてピリっと僅かな電気が流れるような感覚が走る。


「これでいいだろ。さあ、紅茶を飲んだら行くぞ」

(こ、これは――きっとこの刻印のせいよ。私がこの人に命令されて悦んでるわけじゃ……///)

(やっぱり距離近くない!?あの2人、いつの間にあんなに仲良くなったの!?)


独特な感覚にハマりかけているヴィオラをよそに、アレスは残りの紅茶を飲むため席に戻る。

そんな2人の様子を見てソシアは再び頬を膨らませたのだった。



そうしてティータイム後の特訓にヴィオラも加わることとなった一同。

ソシアとジョージも観戦するということで5人で訓練場へと向かったのだが……


「ぐぁ!?」

「ごほごほッ……」

「んだお前ら。もう終わりか?」


訓練用の槍を扱うアレスの前に、ティナとヴィオラは簡単に地面に伏してしまっていた。


(あいつほどの変幻自在さはない……だが……)

(突きが速すぎて、攻撃するどころか近づくことすらできない……)


ティナたちが使う木刀に比べ、アレスが持つ槍は圧倒的にリーチが長い。

巧みな足さばきから繰り出されるアレスの攻撃は2人を一切寄り付かせなかったのだ。


「相変わらず、容赦がないですね……」

「うん。何度見てもちょっと引いちゃうかも」

「バーカ。手を抜いて訓練になるかってんだ」

「あー!今日はもうやめだ。まだ本調子じゃないのにこれ以上はやってられない」

「訓練ということで少し……舐めてましたわ。次からはそれなりに覚悟を固めて挑みます」

「ところでヴィオラ。前から気になっていたんだが、1つ聞いてもいいか?」


死の淵から戻って来たばかりのティナと、初めてアレスとの訓練を行ったヴィオラは早くも限界を迎えたということでギブアップを宣言したのだ。

アレスは槍を肩に渡し、余裕そうな表情で両腕をひっかけていた。

そんなアレスの傍で地面に仰向けになっていたティナは、同じく地面に転がっていたヴィオラに以前から抱いていた疑問をぶつけることにしたのだった。


「ええ、構いませんわ」

「君の家は戦闘とは無縁の役割だろう?バルシュテイン家を継ごうとしている君が、なぜこのハズヴァルド学園で剣術を磨いているんだ?」

「ああ、それは俺も思った。王国軍や騎士団に行きたいならこの学園に来るのは正しいだろうが、家を継ぎたいなら他の選択肢もあったろう」


それは輸送や備蓄を生業とするバルシュテイン家を継ごうとしているヴィオラが、なぜ戦闘力を鍛えようとしているかという疑問。


「……あまり面白い話ではありませんが。確かに今のバルシュテイン家は戦いとは無縁でしょう。しかしそれは輸送中の護衛を他の家に依頼しているからなんです」


2人にそう聞かれたヴィオラはゆっくりと身を起こし、淡々と語り出した。

街から街へと食料や物資を輸送することが仕事のバルシュテイン家だが、もちろんその道中には魔物や盗賊などの危険が付きもの。

現在は護衛を行う貴族家と契約し道中の警護を任せているが、その現状にヴィオラは問題を感じていたのだ。


「バルシュテイン家が他の貴族家から舐められているのはそれが原因だと思うのです。危険な戦いは他の貴族に任せ、自分たちは安全にネレマイヤ家の甘い汁を啜ってるだけだと」

「そんな。バルシュテイン家がいなければこの国の流通は大きく滞るはず」

「だが、そう考える者も多いのも事実だ、特に、バルシュテイン家の成功を妬む下流貴族どもがな」

「ええ、その通りですわ。だから私は、バルシュテイン家が自分たちで道中の護衛も担えるように、護衛部隊を作りたいと考えているんです」


魔物との戦闘を他の貴族家に任せてしまっていることで反感を買ってしまっているバルシュテイン家。

その現状を打破するために当主となった自分が自らが護衛団を率い、イメージ改善を図ろうと考えていたのだ。

もちろんそれには危険も伴うが、当主が危険を顧みない強さや勇敢さをアピールできることにつながるうえ、輸送に自分が同行すれば各地の貴族との交流も活発になる。


「実績のない私が部隊を率いても現実を知らない貴族が張りぼての兵を集めただけだと笑われるでしょう。だから由緒あるこの学園で生徒会長を務め、良い成績を残すことで実績を作りたいと考えたんです」

「そこまで考えていたとは。凄いな、生徒会長様は」

「ふふっ。というのは半分建前で、もう半分は個人的な思いで意地になっていただけですよ」

(お姉さんのことか……でも個人的感情と貴族としての自分の役割を考えていたなんて……)

「……だとすると、俺がヴィオラから成績1位を奪ったのは申し訳なさすぎるな」

「いいんですよ。あの時はあなたのことを誤解していたのでムキになってしまいましたが……今では素直に受け入れられますし、手を抜いてもらって偽りの1位を取っても嬉しくありませんから」


ヴィオラはそう答えながらおもむろに立ち上がると、制服についた土を手で払い落とした。


「それでは、私はそろそろ失礼させてもらいます」

「もう帰るのか?」

「ええ。そろそろ明後日の準備に取り掛かろうかと」

「明後日の準備……?」

「実は今度の休日、グリュンフォルドに向けて物資の運搬チームが出発するんです。家の用事ついでに、その輸送の護衛として同行することになっていて」

「なるほど。その準備をするってわけか」

「ええ、そういう訳だから、お先に失礼しますわ。……とても楽しい時間をありがとう」


ヴィオラは最後にそう言って訓練場を後にしたのだった。

その後ろ姿は、それまでの冷たく厳しい彼女のイメージとはかけ離れているもの。


「なんだ。ちゃんと話してみれば案外いい奴じゃないか」

「だろ。だから言ったんだ」

「でも、やっぱり偉い人と急に仲良くなると緊張しちゃうね……」

「ティナさんに急に迫られた日のことを思い出します」

「そうか?私は別に普通に友達になってくれとお願いしたつもりだが」

「ほんと、お前はそう言う奴だよ」


ヴィオラを見送った4人は、新たな友情が生まれたことに和やかな雰囲気に包まれていた。

しかしその穏やかな時間が長くは続かないことを、この時の彼らはまだ知らなかった。

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