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傍で支える人

歌姫リューランの暴走事件から一夜が明け、エメルキア王国の王都は驚きと混乱に包まれていた。


「おい、聞いたか?フォルワイル家の人たちが襲われてた事件、その殺し屋を雇ったのがあの軍括の人間だったんだってよ」

「リューラン様がそんなことをするなんて……何かの間違いじゃないの!?」


暗殺者を雇いフォルワイル家の暗殺を企て、グレンダ・ハムスタンドを殺害した容疑で軍略統括部の軍師ヘルメスが逮捕。

さらにスキルを使用して建造物を破壊し、多くの宿泊客や宿の従業員を負傷させた疑いで、歌姫リューランも王国軍に身柄を拘束されていた。


「昨日まで生きていたヘイブン様が白骨死体になって発見されたそうだ」

「いったいこの国はどうなっちまうんだ……」


そしてその日の明け方、王都大闘技場にて白骨化した王国軍の軍団長、ヘイブン・ラスカートの遺体が発見されている。

その遺体からは黒祟の壺から発せられていた悪魔の気配と同じオーラが確認されており、今朝の朝刊は有名人3人の名前が大いにこの国の人々に混乱を与えていたのだ。


「問題ありません。どうぞ、お入りください」

「どうも」


そんな混沌とした王都の様子など一切気にも留めていなかったアレスは、その日の10時ごろに王国軍本部の建物を訪れていた。


「アレス君、来てくれたのね」


そこにいたのはリューラン。

黒祟の壺の影響だったとはいえ、大きな被害を出した彼女は王国軍から取り調べを受けていた。

そんな彼女の元に病院で治療を終えたアレスが面会にやって来ていたのだ。


「どうですか、リューさん。調子は」

「私は平気よ……それよりもアレス君は大丈夫?私のせいでボロボロになっちゃって……」

「優秀な医者と回復魔術師がいる病院を案内されたんでね。この通り平気っすわ」


目に見えて元気のないリューランに、アレスは少し大げさに無事であることをアピールした。

それを見たリューランの口角が上がるが、その瞳にはいつもの輝きが見られなかった。


「……リューさん、昨日のことは本当に辛かったと思います。正直、俺なんかが何を言っても慰めにもならないかもしれませんが……」

「そんなことないわよ。こんな所までわざわざ会いに来てくれて、嬉しいわ」

「さっき聞きましたけど、リューさんがしたことは全部ヘルメスの野郎が仕組んだことだって、王国軍もわかってるみたいでしたから。きっとすぐに外に出られますよ」

「そうね。そうかもしれない。でもね……私はたくさんの人に迷惑をかけて、期待を裏切ってしまったから。それは事実だから、皆にたくさん謝って、弁償もするつもりよ」

「……俺は、リューさんが悪いとは思ってませんから」

「ありがとう。でもこれはケジメなの。後悔するだけじゃしょうがないから、前へ進まなくちゃいけないって」


外部から完全に隔離された、王国軍本部にある隔離面談室。

簡素な石造りの部屋に安価な光源魔道具の光が照らす狭い部屋で、床に固定された机でアレスと向かい合ったリューランは静かに言葉を続ける。


「それは……おじいさまのことも同じよ。おじいさまが死んでしまったことは凄く悲しいけれど……たぶんアレス君が思ってるよりはショックを受けてないつもりよ」

「リューさん……」


そう話すリューランだが、机に置かれたその手は小さく震えていた。

アレスはすぐにリューランが気丈に振る舞っているだけだと見抜く。


「ずっと前から自分はもう長くないっておじいさまから聞かされていたから。覚悟はとっくに……っ!?」

「リューさん。今くらいは強がらなくていいんですよ」

「アレス君……う、うぅ……うわぁあああ!!」


震えるリューランの手に、アレスはそっと自分の手を重ね、優しく握りしめた。

その温もりが彼女の心を溶かし、強がっていた彼女は大きな声で泣き出してしまったのだ。


「アレスさん、そろそろお時間です」

「はい、すぐ出ます」


そうして泣き出してしまったリューランの傍に移り、背中をさすってあげていたアレス。

だが少しすると面会の時間が終わってしまい、職員に促されたアレスは先に部屋を出ることになってしまったのだ。


「リューさん……」

「アレス君も来ていたのかい」

「っ!ジェリソンさん」


だが面会室から出たアレスの前に、同じくリューランの面会にやって来ていた彼女のマネージャー、ジェリソンが姿を現したのだ。


「わざわざ彼女を励ましに来てくれたんだね。本当にありがとう」

「いえ。俺じゃほとんどリューさんの役には立てませんでしたよ」

「そんなことはない。リューランにとって、君の存在は本当に大きいものだと僕は思うよ」


リューランを励ますことが出来なかったと落ち込むアレスに、ジェリソンはそんなことはないと言った。


「本当はマネージャーである僕が彼女を支えてあげないといけなかった。だがコンサートの時もそうだが、僕は肝心な時に彼女の傍に居てあげられなかった。僕がもっと早く駆けつけていれば……彼女の負担を少しでも減らせていたかもしれない」

「……ジェリソンさんも、あまり思い詰めないでください」

「……ああ、ありがとう。でも、だからこそ、今は少しでも彼女の力になってあげるつもりだ。またすぐに彼女の素晴らしい歌声を君にも、皆にも届けてみせるよ」


ジェリソンはそう言うと、アレスに頭を下げリューランがいる面会室へと向かって行った。


(……あの人がいるなら、もう心配はいらなそうだな)


その背中を見送ったアレスはリューランには傍で支えてくれる心強い人がいるんだと安心することが出来たのだった。

そうしてアレスはリューランのことはジェリソンに任せ、自分は王国軍本部を後にしたのだ。



リューランとの面会を終えたアレスは、そのまま大通りを進み病院を目指して歩き始めた。

普段は楽しげな声で溢れているこの通りも、大きな事件が重なった今は不安と戸惑いの空気で満ちていた。

しかしアレスの頭の中は別のことで支配されている。


「アレス様ぁ!!」


するとその時、今までアレスへの伝達係を任されていたシフォンが、三度慌てた様子でアレスの元に駆け寄ってきたのだ。


「シフォンさん、またですか?今度は一体何があったって言うんです」

「あ、あれ、あれれ、アレス様!」

「だから落ち着いてくださいって……」

「ティナ様が!!」

「ッ!?ティナが!?」


見慣れた光景に冷静にシフォンに話しかけたアレスだったのだが、彼女の口からティナの名前が出た途端、その冷静さを失い一瞬のうちに走り出したのだ。


「アレス様!?」


シフォンを完全に置き去りにして、人混みの中を器用にすり抜けて進むアレス。


「ティナぁ!!」


最速でティナが入院している病院に辿り着いたアレスは、そのまま階段を駆け上がりティナがいる病室へと向かった。

病室の入り口で待機していたリグラスとの会話も無しに、病室へ飛び込むアレス。

そこには……


「アレス……まったく。ノックぐらいしたらどうだ?」


そこにはベッドの上で上体を起こし、軽口でも言うように微笑むティナの姿があったのだ。

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