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破壊の音

リューランが危険にさらされるかもしれないと考え、全速力で駆けつけたアレス。

だが悪魔の気配を感じ取り部屋に飛び込んだアレスの目に飛び込んだのは、あまりにも残酷だった。


「グレンダ様!!」


外壁を伝い、窓から侵入したアレスの目にまず入ったのはソファに腰掛けたまま力なく項垂れるグレンダの姿。

その胸元には短剣が深々と突き刺されており、床に流れ出たその出血量は明らかに命に届くものであった。


「くそ……っ」


その光景を見たアレスは一瞬でグレンダを救うことはできないと悟った。

あと少し自分が早く到着していれば……

そんな考えが頭に浮かんできたアレスだったのだが、その思考はアレスの視界に映ったある異変により遮られることとなったのだ。


「……リュー、さん……?」


それは血塗れのグレンダの傍に立っていたリューラン。

だがその姿は、彼が知っている歌姫とはあまりにも異なっていた。

柔らかく人を惹きつける笑顔も、舞台で見せる無邪気さも、そこにはない。


(なんだこの気配は……まさか、例のリューさんのスキルが……)


それを見たアレスはリューランのスキル、絶望の歌姫の影響ではないかと一瞬で思い至ったのだ。

空気が震えるようなプレッシャー。


「何をしに来た?まさか俺の復讐を邪魔するつもりじゃあるまいな?」


そんなリューランを見て緊張感を感じていたアレスだが、そんなアレスの表情を見たヘルメスが嘲るような声を響かせたのだ。


「俺は正しかったんだ!この女が初めから協力していれば、この国は戦争に勝利し!俺は王に認めてもらえた!!」

「知らねえよ……てめぇ、リューさんに何をした!」

「力を示すんだよ!俺を正しく評価しなかったこの国の連中に!大人しく俺の言うことを聞いていればよかったと後悔させる!!」


興奮した様子のヘルメスは、両手を大きく広げそう叫ぶ。


「だから殺す!例外なく!リューラン、あの男を殺せ!!そしてその次はこの国の人間だ!一人残らず皆殺しにしろぉ!!」

「リューさん!ダメだ!!」


言葉を続けたヘルメスは、リューランにアレスを含め、この国の人間を皆殺しにするよう指示を出したのだ。

リューランにそんなことはして欲しくないと、アレスは必死な形相で説得しようとする。


「……皆殺し?それなら――」


だがその時、それまで口を閉ざしていたリューランが静かに口を開いた。

その声は冷たく、感情の起伏が全くない不気味なもの。


「まずは、あなたを殺すわ」

「な――」


そしてリューランは隣で勝ち誇るヘルメスに向かってそう言ったのだ。

リューランの言葉を理解できずヘルメスが振り返ると、リューランは小さく息を吸っていた。


「まずいッ!!」

「ラァアアアアアア~!!!!」


次の瞬間。

部屋全体が震えたかと思った直後、リューランが凄まじい声を発したのだ。

それは美しくも、無慈悲で残酷な破壊の旋律。


「ぐぉ!?」

「……ッ!!」


それを見ていたアレスは即座に踏み込み、ヘルメスを致死圏から連れ出そうと試みた。

だがその音の破壊範囲はアレスの想定を超えるものだったのだ。

右手でヘルメスを抱えていたアレスはとっさに左手で耳を塞ぎ、塞がっていた右手の代わりに右耳を肩に押し当てて被害を最小限にしようとする。


パリィイイン!!……ドシャッ!!

「がはッ!!」


角部屋だったその部屋から、窓を割って階下へ落下したアレスは着地の体勢が悪く、体を強く打ち付けてしまう。

アレスは3階の窓からその下にあった渡り廊下の屋根の上に落下していた。


ポタ……ポタ……

「あ……がぁ……」

(耳が……聞こえねぇ……)


落下のダメージが大きく、ヘルメスを手放して蹲るアレス。

その右耳からは血がぽたぽたと滴り落ちており、左耳も深刻なダメージにより一時的に一切の音が聞こえなくなってしまっていた。


「なぜ、その男を助けるの?アレス君……」


そんなアレスの元に、浮遊する黒い音符を使って降下してきたリューランが冷たく語りかけてきた。

リューランの接近を気配で感じ取ったアレスは震えながら顔を上げる。


(平衡感覚も狂った……時間を稼がねえと……)

「はは……何言ってるか聞こえねえけど、なんでこいつを助けたのかって顔をしてますね、リューさん」

「その男はおじいさまを殺したの。それにこの国の人たちを皆殺しにするって言ってるのよ。助ける価値なんてないじゃない」


耳を塞ぐことが出来なかったヘルメスは、先程の大音量で耳から血を流し気絶している。

そんなヘルメスを庇うような形でリューランとの間にいたアレスは、平衡感覚が狂いまともに立っていられない状況の中、膝立ちで必死にバランスを取っていた。


「なんで助けるか……って聞いたと思うんですけど。当然でしょう。リューさんに殺しをして欲しくないからですよ」

「……まあ、あまりに想定通り過ぎる答えね。でも残念……見ての通り私の正体は希望の歌姫なんかじゃないの。絶望の歌姫……その男にも絶望をくれてやるわ」


リューランの答えは音の聞こえないアレスには届かない。

それでもあえてアレスの問いに答えたリューランは、その言葉を言い終えると今度は大きく息を吸ったのだ。


「ル~~~、ラララ~」


次にリューランが発したのは先程の大音量とは違う美声。

美しくもどこか聞くものの不安を煽るその声が響くと、リューランの背後に黒い音符が無数に具現化した。


「どいて、アレス君。でないと君も一緒に殺しちゃうから」


音符を一斉に差し向ける準備といわんばかりに右腕を高く掲げたリューラン。

殺意の矛先を向けられたアレスは震える足に力を込め、鋭い眼光をリューランに返した。

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