真相を知った人物からの呼び出し
「君たち!!どれだけ危険なことをしたのか理解しているのか!?」
学園の敷地内で暗殺者スージンを撃破したルシーナたち。
その後すぐにメアリーが呼んだ学園の教師たちが駆けつけたのだが、ルシーナを助けに向かったキャロルたちは、その教師たちからお叱りを受けていたのだった。
「大事に至らなかったからよかったものの、全員殺されていたかもしれないんですよ!?」
「自分たちで対応しようとせず、我々教師に任せなさい」
「ごめんなさいなのです……」
確かにキャロルたちは大きな犠牲を出すことなくスージンを撃退することに成功した。
だが一歩間違えば犠牲者を増やすだけだったと、軽率に助けに向かったことを教師たちは問題だと判断したのだ。
「ルシーナ様!なんて傷……早く保健室に!」
「ありがとうございます……ですがその前に、皆さんが助けに来なければ、私は確実に死んでいました。彼女たちをあまり責めないでください……」
キャロルたちが叱られていた横で、他の教師たちに保護されていたルシーナは、キャロルたちのおかげで自分は助かったのだと彼女たちを庇う。
「それは事実かもしれませんが、我々はそれを手放しで褒めるわけにはいかないのです。さあ、早く行きましょう」
「わかりました……皆さん、私のためなんかに命を懸けて戦ってくれて、ありがとうございました。おかげで助かりました」
「気にすんなって!」
「マグナさんが真っ先に反応するのは納得いかないっス」
「お大事にしてくださいなのです!」
こうして応急処置を終えたルシーナは教師に連れられ保健室へと向かって行った。
それと並行して気を失っていたスージンを拘束し、その身柄を王国軍へ引き渡す準備が進められていく。
「ほら怒られたじゃないのあんた。誰かが襲われてるなんて言うんじゃなかったかも」
「でも、メアリー様のおかげでルシーナ様をお救いできたのです」
「傷も多分大丈夫そうっスし、一安心っスね」
「ええ。あの殺し屋が言ったことが正しいかどうかはわからないけど、もうあんた達にできることはないからね。というかキャロル、あんたも保健室行ってきなさい」
勝利の余韻も説教をされてしまったせいで落ち着いてしまったキャロルたちは、もう事件が自分たちの手を離れてしまったことを、運ばれていくスージンを眺めながら感じていた。
スージンが気絶する前に喋った依頼主の情報を聞かされた教師たちは、無論真実とは受け止めなかったが、王国軍に報告する価値はあると判断したのだった。
こうしてハズヴァルド学園で起こった事件の情報が王国軍に伝えられることとなったのだが、それとほぼ同時刻。
王都中心街、王国軍軍団長ヘイブン・ラスカートの屋敷にて――
「ヘイブン様!」
王国軍総軍団長のゼギンが死の淵を彷徨っているという緊急事態に、王都周辺の捜索を行っていたというヘイブン。
そんなヘイブンが屋敷に戻ってきてすぐのこと、彼の召使である男性が慌てた様子で廊下を走ってきたのだ。
「なんだ?騒々しいぞ」
「申し訳ございません!ですがヘイブン様にお伝えしたいことが」
「早く言え。俺は疲れているんだ」
目の下にクマを浮かべたヘイブンは、召使の報告に苛立ちながら耳を傾ける。
「実は先ほど、ヘイブン様に会わせろと1人の男性が正門に現れまして」
「こんな時間にか。一体誰だ」
「それが、その男は頑なに名乗ろうとしないのです……」
「ならば不審者として追い返せばいいだろう!そんなこといちいち俺に報告してくるな!」
「も、申し訳ございません!ですがその男、あまりにも近寄りがたい気配を纏っておりまして……身分を明かさないものをヘイブン様に会わせるわけにはいかないと言ったところ、この紙を渡せと言われてしまったのです」
「はぁ。そんなもの捨ててしまえば……ッ!?」
不審者の対応もまともにできないと召使を叱ろうとしたヘイブンは、その召使が差し出してきた1枚の紙を見て言葉を失ってしまった。
「特に仕掛けもなさそうで、ただ1文字……壺とだけ書かれております。いたずらかとも思いましたが、念のためヘイブン様にもご報告をと……」
「その男は今どこにいる?」
「はい?あ!えっと、この紙を渡してきた後、王都大闘技場にて待つと……まさかヘイブン様!その男に会いに行かれるのですか!?」
「……行くわけがないだろう、たわけが」
殴り書きの壺という文字を見た瞬間、ヘイブンは明らかに目の色を変えていた。
だがすぐに平静を装い、王都大闘技場へ行くのかという召使の問いを一蹴する。
「俺はもう休む。今日はもう部屋には誰も入れるな」
「かしこまりました。あの、お食事やご入浴は……」
「もう休むと言ってるだろう。次はないぞ」
「申し訳ございませんでした!」
鋭いヘイブンの眼光に、召使は脂汗を滲ませながら頭を下げた。
そうして部屋に戻ったヘイブンはすぐに鎧を脱いで横になる……などということはなかったのだ。
(奴め……一体何が目的だ?)
自室に戻ったヘイブンは、装備を外すことなくそのまま窓際に向かう。
そして2階の窓から外壁を伝い暗い庭へ降りると、警備の人間に気付かれないよう屋敷を抜け出したのだ。
目的地はもちろん、例の男が待つという王都大闘技場。
「……さすがに、誰もおらんか」
王都大闘技場。
それはエメルキア王国の王都の西側、ラスケ地区――通称娯楽区と呼ばれるエリアにある巨大闘技場。
国が運営するこの闘技場は、かなりの頻度でイベントが行われており、入場料もそれほど高くなく民の娯楽として非常に人気の高い場所であった。
大小さまざまな武闘大会が開かれ、魔物の恐怖と切り離された王都暮らしの市民の良い刺激として繁盛していた。
しかし大会の開催期間外は人が集まることはなく、さらに夜間ともなれば人がいる方が珍しかった。
そんな裏の取引をするには都合が良すぎる夜の闘技場にヘイブンは侵入していく。
完全に静まり返り、温度を失った石造りの建物内をヘイブンは警戒しながら歩いていく。
「むッ!?」
そうして建物内を抜け闘技場中央へ足を踏み入れたヘイブンは、その中心に佇んでいた1人の人影を発見したのだ。
ヘイブンは剣を抜かず、あえて気配を殺さずその人物の元に近づく。
「貴様があの紙を差し出してきた男だな?あれは何のいたずらだ」
「はッ。いたずらだって思ってんならこんなところに1人で来ねえだろうが」
背を向けて待っていたその人物に、雲の合間から差し込んだ月光が降り注ぐ。
「よぉ。さっきぶりだな、悪魔の手先」
「お前は!」
月の光により姿を現したのはアレス。
あの意味深な紙を渡し、ヘイブンをここへ呼び出したアレスは、闇夜に感情を溶かし朧な表情でそう言ったのだ。




