依頼主の正体
結界に守られ安全だったはずの学園内で、暗殺者スージンに襲われたルシーナ。
精神攻撃により隙を見せてしまったルシーナはスージンに脇腹を抉られてしまい、命の危機にさらされていたのだ。
「ルシーナ様!ここは私に任せて、逃げて欲しいのです!」
そんなルシーナの助けに入ったのはキャロル。
スキル【シンデレラ】の力によりスージンに対抗していたのだが、真の力を見せたスージンに劣勢を強いられていた。
「そんな!それではキャロルさんが……」
「逃がすわけないでしょ?君たちはここで死ぬんだ……よッ!!」
深手を負ったルシーナを逃がそうとするキャロルであったが、それを聞いたスージンは勝負を決めるべくキャロルへと襲い掛かったのだ。
放たれたのはキャロルの剣の間合いの外側からの連撃。
「ああもう!ややこし過ぎるのだわ!」
軌道の読めない突きの嵐に、キャロルは踏み込むことが出来ず防戦一方となってしまった。
一切緩むことのない攻撃に削られ続けるキャロル。
(やっぱり……私も戦うしか!)
それを見ていたルシーナは逃げるわけにはいかないと覚悟を決め、再び刀を握り立ち上がったのだ。
スージンに抉られた脇腹からは服を真っ赤に染めるほどの血が溢れている。
それでも彼女は歯を食いしばりスージンへと立ち向かった。
「やぁああああ!!」
「見えてるよん」
「ッ!?」
「ルシーナ様!!」
サイドに回り込んだルシーナは、刀の間合いに持ち込もうと一瞬で距離を詰める。
だがその時穂先をキャロルに向けていたスージンは、槍を凄まじいスピードで真横に振るい、間合いに入ってきたルシーナを叩きだしたのだ。
「がはッ……」
その横薙ぎは槍の中ほどの部分が衝突したが、受けたルシーナの右腕がミシミシと不吉な音を立てる。
「まずは君から殺す!」
「うぅ……」
「ぐぅ……待ちなさいなのです!」
そうして地面を転がったルシーナに、スージンは容赦なくとどめを刺そうと駆け寄る。
それを見たキャロルは必死に声を上げるも、体勢が悪く助けに入ることができない。
「まずは1人目ぇ!!」
そうしてルシーナに詰め寄ったスージンはそのままとどめを刺そうと槍の穂先をルシーナに向ける。
「サムハット!」
「分かってるっス!……ふッ!」
だがその時、その戦いを近くの倉庫の屋根上で見ていたサムハットが、スージンの隙を突こうと屋根から飛び降り攻撃を仕掛けようとしたのだ。
タイミングは完璧。
ルシーナに迫るスージンの頭上にちょうどサムハットが降ってくる調整で……
「残念♪全部お見通しだよぉ」
「ッ!?」
だがサムハットが屋根から飛び降りたその直後、なんとスージンは突進をやめ空中に飛び出たサムハットに視線を向けたのだった。
屋根上にあがっていた2人の様子は、戦闘しながらでもスージンに筒抜け。
スージンが突進をやめたことでサムハットの拳は完全に間合いの外側になってしまう。
「関係ないことに首を突っ込むから死ぬんだよ!まずは1人、くし刺しだぁ!!」
「サムハット様!!」
サムハットの奇襲を見切ったスージンは、屋根から飛び降りたサムハットに鋭い一突きを放ったのだ。
それは落下するサムハットの心臓を確実に貫くことができる完璧なタイミング。
それを見たキャロルは駆け出すがわずかに間に合わない。
「……それじゃ早すぎるっスよ」
スカッ……
「なにッ!?」
だが重力に身を任せ落下していたサムハットは、その直前で突如減速しスージンの攻撃をギリギリで外してみせたのだ。
それはスージンにとって完全に想定外。
自身のスキルによって自身から落下速度を奪ったサムハットは落下のタイミングを遅らせスージンの槍を掴んだ。
「この!離せ……」
「星屑舞踏!!」
「ぎゃああああ!!」
サムハットに槍を掴まれたスージンは即座に振るい落とそうとする。
だが意識が完全にキャロルから外れていた。
駆け寄って来ていたキャロルの一閃により、スージンの胸は深々と切り裂かれてしまったのだ。
(ば、かな……この僕ちゃんが、こんなガキ相手に負けるなんて……)
胸を斜めに切り裂かれたスージンは、そのまま操り人形の糸が切れたように仰向けに倒れた。
「ナイッス~!よくやったぜお前らぁ!」
「はぁ……はぁ……ぎりぎりだったのです……」
屋根の上ではマグナが勝利を喜び調子付いていたが、実際にスージンの相手をしていたキャロルは、薄氷を踏むような戦いだったと大きく息をついた。
スージンの槍を掴んで奪っていたサムハットは、倒れているスージンの手の届かないところに槍を捨てると、そのままスージンに歩み寄った。
「それじゃあお前。誰の命令でルシーナ様を狙ったのか、洗いざらい吐いてもらうっスよ」
サムハットはそう言いながらパキパキと指を鳴らし、起き上がることのできないスージンに詰め寄る。
「無駄だと思います。その男は殺し屋。依頼主の情報は話さないと……」
「痛いぃ……何でも話すから、痛いことしないでぇ……」
「な、なんだこいつ……」
スージンの実力から優れた殺し屋であると考えたルシーナは、彼を問い詰めても口を割らないと考えていたが、なんとマグナに脅されたスージンはいとも簡単に情報を吐くと言ったのだ。
仰向けに倒れたまま上体をわずかに起こし、右肘を地面について体を支えながら、震える左腕を前へ伸ばし攻撃しないでと訴えかける。
「こ、今回の依頼主はヘルメスって男なんです。フォルワイル家の、跡目候補になる奴を殺してくれって……」
「なんですって!?」
「ヘルメス……誰ですルシーナ様、知り合いですか?」
「知らないのですか?ヘルメス・ガリーダ……王国軍、軍略統括部の軍師を務めている男です」
完全に戦意を失ったスージンは、何の躊躇もなく依頼主に関する情報を話し始めた。
スージンらサイレント・エッジにフォルワイル家暗殺の依頼を出したのは王国軍のヘルメスという男。
国家転覆にも等しいこの事件の元凶が国の中枢に近い人物だったことにルシーナは驚きを隠せない。
「おい!てめぇ、適当言ってるんじゃないっスよ!正直に言わないといっぱい殴るっスよ!」
「や、やめてぇ!嘘じゃありません、ほんとなんです!フォルワイル家が発言力を持っているのが気に入らないとかなんだかで……」
(確かに……その人物は当主様、ひいてはフォルワイル家が王国軍に大きな影響力を持っていることに不満を抱いてると聞いたことがある。可能性が0とは言い切れない……)
フォルワイル家暗殺の驚くべき真犯人を聞かされ固まるルシーナたち。
それを見たスージンは痛みを堪え、余裕のない笑みを浮かべて地面を這い始める。
「じ、じゃあ……正直に喋ったから、僕ちゃんのことは見逃して……」
「見逃すわけねえだろぉ!!」
「ぎゃぁあああ!!」
だが匍匐前進で必死に地面を這うスージンの背中に、倉庫の屋根上から飛び降りてきたマグナが勢いよく落下したのだ。
その衝撃でスージンは完全に意識を失う。
「マグナさん、それはやり過ぎじゃないっスか?」
「まあ、大丈夫だろ。たぶん」
「そんなことよりも……早くこのことをみんなに伝えないと」
こうして、学園内に現れた暗殺者スージンを、ルシーナたちは何とか撃退することに成功したのだった。
だがスージンのもたらした情報が大きな悲劇を生み出してしまうことを、彼女たちが知る由はなかった。




