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シンデレラ

それはルシーナがスージンによる奇襲を受けた直後のこと。

新校舎の脇の正面通りを、マグナ、サムハット、キャロル、メアリーの4人が寮に向けて歩いていた。


「あ~あ。ずいぶん遅くなっちまったぜ。レハート先生にも困ったもんだよな」

「生徒に書類作成を手伝わせる教師なんて聞いたことないっスからね」

「まあいいじゃないですか。お礼にお菓子をくれたのですから」

「お菓子なんかに釣られてんじゃないわよキャロル……ッ!」

「どうしたメアリー?」


4人は用事を終え、談笑しながら寮に戻っていた途中だったのだが、その時メアリーが持ち前の聴覚強化スキルによりある異変を察知したのだ。


「あっちのほう……変な音が……」

「へぇ。ハズヴァルド学園にも不良がいるんだな」

「多分違うと思うっスよ……」

「早くしないと門限を過ぎてしまうのですよ?」

「ッ!?静かに!……違う、誰かに襲われてる!」


旧校舎の方向から誰かの話声がするといっても、もちろん3人ともそれが事件とは考えない。

だが会話を聞いていたメアリーが、それがルシーナと彼女の命を狙いに来た殺し屋のものだと気付いたのだ。


「お、襲われてるって!?」

「わからない!でもたぶん生徒でも教師でもない、殺し屋!」

「こ、殺し屋!?」

「やばいじゃないっスか!早く先生に知らせないと……」

「私、助けに行ってくるのです!!」

「ッ!?キャロル!?」


誰かが命を狙われていると聞いて、パニックになりかけるマグナとサムハット。

しかしキャロルはそれを聞いて怯むどころか、剣を抜きルシーナを助けようと走り出したのだった。


「あのバカ!!いくらなんでも危険すぎよ!!」

「メアリーさん!俺たちも行くっス。メアリーさんは先生方に報告を!」

「わ、わかったわ!」

「マグナさん!行くっスよ!」

「お、俺もか!?」


1人で走り出したキャロルを追うため、サムハットとマグナが後に続いた。

そして戦闘が不得手なメアリーは単独でこのことを教師に報告へ向かう。



「ルシーナ様!大丈夫なのですか!?」


こうしてスージンに殺される寸前となったルシーナの元に、キャロルが単独で現れることとなったのだ。


「え、ええ……あなたはジョージ君の」

「キャロルと申しますなのです!それよりも、傷は大丈夫なのですか!?」

「な、なんとか……少しくらいは動けます」

「なぁに?君、お友達を助けに来ちゃったの?」


キャロルは剣を正眼に構えながら、背後のルシーナの傷を案じる。

だがそんなキャロルに対し、スージンは殺気を剥き出しにして槍を構える。


「それじゃあ悪いけど、君も死んでもらうよ。僕はルーク君と違って甘くないからね」

「動けるならよかったのですわ。盛大に助けに来ておいて情けない話なのですけど、あの方は私1人じゃ厳しそうなのです」

「わかりました……ぐぅ……私もまだ戦えます」


スージンと向かい合ったキャロルは、その強さを肌で感じ取り自分1人で相手をするには荷が重いと即座に判断したのだ。

キャロルは正面を向いたままルシーナに援護を頼めないかと口にする。

それを聞いたルシーナは歯を食いしばりながら立ち上がり、その隣に並んだのだ。


「無理しないほうがいいんじゃない?その傷、だいぶ深いでしょ?」

「その通りなのですわ。私が前で戦うので、ルシーナ様は援護をお願いしたいのですわ!」

「気をつけてください。敵の槍の軌道はとても読みにくいです」

「任せてください……なのです!!」


ゆっくりと歩み寄るスージンに、覚悟を決めたキャロルは凄まじい踏み込みで突撃していったのだ。

それは全快時のルシーナと比較しても見劣りしないスピード。


「はぁあああああ!!」

「おっと!これまた思ったより厄介だね!」


ルシーナほどの技術はない太刀筋だが、そのみなぎる自信とパワフルさでスージンと互角に斬り合ってみせたのだ。

その様子に後ろで見ていたルシーナは驚きを隠せない。


(すごい!キャロルさんといえばジョージ君から訓練で苦戦してるって話を聞いてたのに……)


ルシーナのキャロルへの認識は間違っていない。

だがそれは彼女のスキルが使えない昼間の訓練での話であり、この時間であればキャロルは凄まじいポテンシャルを発揮することができるのだ。


「君、眩しいな。もっと光量を落としてよ」

「おあいにくさまなのです!物語の主人公は光り輝いているものなのですわ!」


キャロルが持つのはD級スキル【シンデレラ】。

日没から日付が変わるまでの間、戦闘能力が大幅に向上するというものであった。

ただしそれ以外の時間はむしろ身体能力が大幅に低下してしまい、そのデメリットから汎用性が低いD級に区分されている。


祝福の(ブレッシング・)一刀(ストライク)!!」

「ぐッ!?」


だがその戦闘能力の上がり幅はかなりのものであり、制限時間内であればB級スキルをも上回る出力を出すことすら可能であった。


「ほんと。この学園の生徒は大嫌いだ」


槍の乱撃の合間を縫って、鋭い一撃を放ったキャロル。

その一太刀はスージンのバックステップにより決め手にはならないものの、その胸には薄く赤い線が滲んでいた。


「あなた、なぜ結界に包まれたこの学園に入ってこられたのですか?」

「ん~?これから死ぬのに気になるの?」

「冥土の土産、ということで教えて欲しいのです」

「ははっ。それを自分で言う奴初めて見たよ。でも簡単な話だよ、僕ちゃんのスキルが結界に反応されず素通りできるスキルってだけ」

(なるほど。そういうことなのですね……)

「じゃあ地獄への手土産も渡したってことで……そろそろ死んでくれるかな?」

「ッ!?」


スージンからなぜ学園内に侵入できたかを聞き出したキャロル。

だがその直後、スージンはそれまでよりも鋭い一撃をキャロルの心臓めがけて放ったのだ。


「ぐッ!!」

(さっきまでとは速度が段違いなのです!)

「さあ!抵抗しないで死んでくれよ!」


真の実力を隠していたスージンにより、キャロルは劣勢に追い込まれる。


「はぁああ!!」

「おっと!そういえば君もいたね」


巧みな槍捌きに翻弄され、細かい傷を刻まれ始めたキャロル。

だがそこへサイドへ回り込んでいたルシーナが、スージンの不意を突くように刀を振り下ろしたのだ。


「危ない危ない。あとちょっとで斬られるところだったよ」

「はぁ……はぁ……」

「大丈夫なのですか!?ルシーナ様!」

「大丈夫……じゃないかもしれないわ……」


勝負を急ぐべく渾身の一刀を振り下ろしたルシーナだったが、無理をしたせいで先ほどスージンに抉られた脇腹からはさらに大量の血が流れ出ていた。

それはすでにルシーナの服を真っ赤に染めている。

ルシーナに時間がないことは誰の目に見ても明らかだった。


「ルシーナ様!やっぱり下がっていてください!私が頑張るのです!」

「ダメです!そんなことをしたらあなたが……」

「何をごちゃごちゃ言ってるの?結局2人とも死ぬんだから関係ないでしょ」


更なる劣勢に追い込まれたキャロルとルシーナ。

だがしかし、そんな戦況を変え得る存在が倉庫の屋根の上に居たのだった。



「ナイスっスよ、マグナさん。おかげで中に入る手間が省けたっス」

「うえぇ!気持ちわりぃ!蜘蛛の巣触っちまった」


そこにいたのはサムハットとマグナ。

マグナの指吸盤のスキルで壁を上って屋根の上に上がっていた2人が、その戦況をかき乱すのだった。

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