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ルシーナに迫る凶刃

静まり返った学園内を、寮に向けて1人で歩いていくルシーナ。

だがそんな彼女の命を狙うスージンが、建物の影から不意打ちの隙を狙っていたのだ。


(さぁ~……もう少しこっちにおいで。そしたら僕ちゃんの槍で一突きにしてあげるからさぁ)


ハズヴァルド学園はその周囲を結界に覆われており、外部からの侵入は即座に学園内に警報が鳴る仕組みとなっている。

だがスージンはその結界を何かしらの手段で掻い潜っており、不意打ちを行うにはあまりにも都合がいい環境が整っていたのだ。


(……っ!人の気配?しかも……殺気!?)


だが外敵の脅威など一切ないはずのハズヴァルド学園内にもかかわらず、ルシーナは自身を待ち伏せるスージンの気配を感じ取ってみせたのだ。


「……そこにいるのは分かっています。出てきてください」


あと数歩でスージンの間合いに踏み入れていたというところで、ルシーナは足を止め静かに剣を抜いたのだ。

それは鎌をかけている様子など一切なく、目の前の建物の影に誰か潜んでいるという確信からくるものだった。


「すごいね君。普通この状況なら警戒なんてしないでしょ」

(ッ!?学園の生徒じゃない!?)


それを見たスージンは奇襲を諦め、建物の影からゆっくりと歩み出た。

その男の姿を見たルシーナは思わず目を見開く。

そこに殺気を纏った何者かが潜んでいることは分かっていたが、まさか結界内に学園の教師や生徒以外の人物が紛れ込んでいるとは想像もできなかったからだ。


「でも……ここなら周りに人がいないよね。不意打ちは失敗しちゃったけど君を殺すには十分な環境だよ」

「なるほど。つまりあなたはフォルワイル家の人間を殺して回っているという例の暗殺者ですね」

(確かにここじゃ助けは望めない。新校舎の職員室なら先生がいるはず……)


ルシーナがいたのは旧校舎脇の倉庫付近。

生徒会室は日中から人の出入りが少ない旧校舎にあり、夜にもなればほとんど人は立ち寄らず、ルシーナに増援は見込めなかった。


「察しが早くて助かるよ。じゃあ早速、死んでもらおうか!!」

「ッ!?」


まだ人が残っている可能性の高い新校舎の職員室付近に逃げようとしたルシーナだったのだが、それを察してかスージンは会話を早々に切り止め攻撃を開始したのだ。

スージンが放ったのは槍の先端が急拡大したかのように見えるほどの高速の突き。

想像以上のスピードにルシーナは懸命に体を逸らし回避する。


「君も結構やるねぇ!ほらほら、もっと躱してごらん!」

「くッ!」


スージンが放った突きはルシーナの頬に赤い線を刻む。

変則的な槍の攻撃に、ルシーナは防戦一方となってしまった。


(速い……だけじゃない!槍の軌道が複雑で対応が難しい……)

「でも、はぁあああ!!」

「おっと!」


蛇のようにうねる軌道で襲い掛かる攻撃に苦戦しながらも、ルシーナは攻撃の合間を縫って斬撃を放った。

それは虚しく空を切るも、スージンの警戒心を一段引き上げるには十分なものだった。


(うーん。この子も優秀だな……僕はルークみたいに戦闘狂じゃないし、楽に勝ちたいんだよなぁ……だから)

「思った以上にやるね、君。フォルワイル家の落ちこぼれだって聞いてたから驚いちゃったよ」

「ッ!?」


ルシーナを一筋縄ではいかない相手だと判断したスージンは、正攻法での攻めをやめて精神攻撃へと作戦を切り替えたのだ。

それはルシーナが最も気にしているフォルワイル家内での自身の立場に関するもの。


「天華煌刃、だったよね?君のスキル。そう考えると大したことないかな。フォルワイル家の相伝のスキルを持ってその程度じゃ、両親に失望されるのも仕方ないよ」

「……ッ!」

(耳を貸すな!こんな分かりやすい揺さぶり……動揺すれば敵の思う壺だ!)

「だ、黙れ!!」


スージンのその揺さぶりに、ルシーナも頭では無視するべきだとわかっていた。

だが嘲るようなスージンの言葉を聞くと全身に余計な力が入ってしまい、その言葉を否定したくなってしまう。


「図星かな?でもそうだよね。自分で情けないと思わない訳ないからね」

「黙れ、黙れ黙れ!!」

「実はさ、君の暗殺を依頼したのって君の両親なんだよ」

「ッ!?」

「あいつはフォルワイル家の恥だから、これ以上恥を晒す前に殺してくれって」


2人の攻撃が入り乱れる中、スージンはさらにルシーナのトラウマを抉るような発言を繰り返した。

その言葉にルシーナの冷静さが失われていく。


(嘘だ!考えるまでもなく私を動揺させるための発言だと分かるはずだ!……なのに、なのに……)

『ルシーナ。お前はこの家の恥だ。二度と私たちの前に顔を見せないでくれ』

(なのに……なんで!)


スージンの発言が嘘だということは明確。

だが心の奥底で自分は両親にとって不必要な人間ではないかと考えてきたルシーナは、スージンのその言葉を聞いて自分の両親に同じことを言われる様子を想像してしまった。


「隙ありだよぉ!」

「しまっ……ぐぅ!?」


スージンの言葉に激しく動揺したルシーナは視野が極端に狭くなってしまっていた。

その隙を見たスージンは一気に速度を上げ鋭い突きを放つ。

それがルシーナの脇腹を抉ってしまったのだ。


「くぅ……」

「勝負あったね。冷静に戦えれば君にも勝ち目があったはずなのに。やっぱりその心の脆さが落ちこぼれって言われる理由じゃないの?」

「……ッ」


片膝を突き、抉られた傷口を手で押さえるルシーナに、スージンは見下すような眼つきでそう言い放った。

その言葉に対し、ルシーナは一切反論することができない。

実際にスージンの言葉に冷静さを失い深手を負ってしまった現実が、ルシーナに重くのしかかっていた。


「じゃあ、そろそろ死んでくれるかな?ご要望があればどこを貫かれたいか聞いてあげよう」

「ふざけないでください……」

「じゃあ僕ちゃんの好みで……君のお顔をドーナツにしてあげよう♪」


そう言ってスージンは下卑た笑みを浮かべながら槍を構えた。

万全なスージンの攻撃を手負いのルシーナが回避することはできず……


「そこまでなのですわ!!」

「なに!?くッ……」


スージンの槍がルシーナに向け放たれる――まさにその直前。

絶体絶命のルシーナの元に、輝きを纏った何者かが乱入してきたのだ。

スージンはその人物の攻撃を後ろに飛び退くことでギリギリで回避する。


「誰だ!いいところで邪魔するのは!?」

「あなたは……」

「ルシーナ様!大丈夫なのですか!?」


駆けつけたのはアレスのクラスメイトであるキャロル。

普段のトレーニングではアレスにこてんぱんにされている彼女だったのだが、弾けんばかりの輝きを放つ彼女は自信の塊となってルシーナを助けに来たのだった。

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