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黒幕

「テランダ様が、やられたぁああ!!」


殺し屋組織、サイレント・エッジのアジト内。

非常口に繋がる通路の前で、幹部であるテランダが瞬殺されたところを目撃した部下の男たちは悲鳴を上げていた。


(確かにあの男は油断していたかもしれない。でも今のは、そんな次元の話じゃない。カララ・クリスタニア……とんでもない実力の持ち主だわ)


テランダを一撃で葬った様子を後ろから見ていたセレナは、ただの飲んだくれだと思っていたカララが凄まじい実力を秘めていたことに戦慄していた。


「ん?あれ……あっ、そうだった……」

「ッ!?カララ様!?」


しかしその直後。

腰からぶら下げていた瓢箪を手に取りいつものように口元に運んだカララが、突如その場にへたれ込んでしまったのだ。


「カララ様!?一体どうしたのですか!?」


力を使いすぎた反動か。

そう考えたセレナは即座にカララに駆け寄る。


「カララ様!一体何が!」

「そういえばさっき、もってきたお酒を全部飲み切っちゃったのすっかり忘れてたぁ~……」

「へ?」


しかしカララから返ってきたのは手持ちの酒が無くなってしまったという、うめき声にも似たカララの情けない言葉だったのだ。

なんとカララは普段常備している酒を切らせてしまい、ショックで元気を失ってしまったのだ。


「ほんとは酒屋に行く予定だったから、手持ちが少なくなってたの忘れちゃってて……」

「何やってるんですか!?っていうか直前まで飲んでたんですから、まだ酔いは醒めてないはずでしょう!?」

「いやぁ……あんな量じゃ飲んでないに等しいというか……お酒が無くなったショックで酔いが覚めちゃったよ……」

「嘘でしょう!?」


「お、おい……あの女……」

「ああ。どうやら燃料切れらしいぞ」


お酒を失ったショックで酔いが覚めてしまい座り込むカララ。

その様子を見た男たちは先程までの絶望から一転、これを好機だと捉え武器を構えたのだ。


『大丈夫でしょう。昨日もダンジョンから出てきたときにはベロベロに酔っぱらってましたし。たぶん酔えば酔うほど強くなるとかそんなスキルなんでしょう』

(くッ!やっぱりアレス様の言う通り、酔えば酔うほどパワーが出るスキルなんでしょう。だとすると今のカララ様は役に立たない……)


カララが戦力にならないと悟ったセレナはすぐに剣を握り、にじり寄ってくる男たちの前に立ちふさがった。


「小娘が!そのバケモンさえいなきゃ怖くねえぜ!」

「ありがとうございますテランダ様!あなたの犠牲を胸に俺たち前に進みます!」


自分たちの上司を圧倒したカララが戦闘不能になったと調子付く男たち。

先程までと打って変わり、流れが敵側にあることを感じセレナは額に汗を浮かべていた。


「死ねぇええ!!」


そして座り込むカララの前に構えるセレナに一斉に襲い掛かる男たち。


「ふざけるんじゃないですわ!!あのお方にここを任されたんですもの!私1人でもここを守り切って――」

「ああんもう!うるさいぃ!!」

「ぎゃぁああああ!!」

「えっ……?」


しかしセレナが覚悟を決めて剣を振ろうとしたその時、なんと動けなかったはずのカララが黒棘砕棍を振り回し、飛びかかってきた男たちをまとめて打ち飛ばしてしまったのだ。

凄まじいスイングで壁に激突した男たちは例外なく壁の赤いシミになってしまった。


「頭痛いのに、静かにしてよぉ~……」

「えっ、え?カララ様、お酒が切れたら戦えないんじゃないんですか?」

「うん?頭痛いの我慢すれば戦えるけど」

「か、カララ様のスキルは【お酒を飲んだ量だけ強くなるスキル】じゃないんですか?」

「いや、別に違うけど……私のスキルは無条件でこの出力だよ」

「はぁああ!?」


カララのスキルが飲酒量か酔いの程度に左右されると考えていたセレナは、酒が切れたカララが超重量の棍棒を軽々振り回したことに驚きを隠せなかった。

そんなセレナがカララに詰め寄ると、彼女は自身のスキルに酒は無関係であることを明かした。


「じゃあなんですか!?仕事に関係ないのにずっとお酒を飲んでたって言うんですか!?」

「関係ないなんてことないよぉ。お酒は私の原動力そのものなんだからね」

「冗談じゃありませんわ!私はスキルに関係することだからとずっとお酒を飲んでいても仕方ないと思ってたのに、それはあまりにも不真面目ですわ!!」


ダンジョンという場所はどこまでいっても命の危険が伴う危険なものであり、そんな場所で酒を飲んで酔っ払っていたカララに怒りを隠し切れないセレナ。

しかしその言葉が全く響いていない様子のカララは、なおも真面目に話を聞こうとしなかった。


「まあまあセレナ様。ずっと気を張ってるといざという時に動けなくなっちゃうよ。もっと自分にも他人にも優しくしなきゃ」

「あなたはずっと気を抜きすぎなんですよ!ダンジョン探索は命がけなんですよ!?」

「セレナ様、さてはお酒がどれだけ素晴らしいものか知らないな?ちょっと飲んでみればあたいの気持ちが分かるってもんよ」

「私まだ未成年ですよ?それなのに飲酒を勧めないでくださ……」

「ッ!?」


しかし2人がそんな言い合いをしていたその時、地上から伝わってきたただならぬ気配に2人は同時に視線を天井に向けたのだ。

それは地下に居ながら空気が震えるような圧迫感を感じるほど。


「カララ様、これは!」

「そうだね。ちょっとまずいかもしれないね」


異常事態を感じ取った2人は即座に気を引き締め直すと、急いで地上を目指すことにしたのだった。



そしてその気配はこの暗殺組織のボスの元に向かっていたアレスも感じ取っていた。

セレナたちが地上を目指して移動を始めた数分前、アレスは下っ端の男に案内させボスの元に辿り着いていた。


「はぁ……はぁ……なんなんだてめぇは!」

「お前らが殺そうとした奴の友人だよ。てめぇらには地獄を見せてやる」


アレスを視界にとらえたボスの男は侵入者を排除すべくナイフを抜いた……しかし、そんなものでアレスを倒せるはずがなく、男は素手のアレスに手も足も出せずにいたのだ。


(くそッ!なんなんだこの男は!攻撃が全部見切られてる……)

「最強のナイフ使い、とか言ってたな。一体どこで最強だったんだ?ごっこ遊びでの話か?」

「舐めやがってぇ……」

「暗殺者とか得意になってるが、所詮不意打ちで粋がってるだけの雑魚ばっかだ。おら、お得意の不意打ちで俺の心臓を貫いてみろよ」


敵のプライドをへし折ろうと、アレスはあえて男に背中を向け攻撃するよう仕向けたのだ。

ここまで馬鹿にされてしまえば敵も黙ってはいられない。


「このガキが!!地獄で後悔しやがれぇ!!」


直後、男はアレスの挑発に乗せられ猛スピードでナイフを突き立ててきた。

狙いは一直線にアレスの心臓。


「そんなんじゃだめだ」

「なッ!?」


しかしアレスはその突きを振り返ることなく、最小限の動きで躱してしまったのだ。


「右腕貰うぞ」

「ぐぁああああ!!」


さらにその突きを躱したアレスはそのまま男の右腕を脇で抱え込み、肘を逆方向に折り曲げた。

乾いた音とともに、男の腕は完全に破壊される。


「このぉ……」

「その動きも見えてる」

「ぎゃぁああ!!」


それでも心までは折られていなかった男は、右腕が死んでも怯まず左手で持ったナイフでアレスの首を狙ったのだ。

しかしその横薙ぎも、アレスに手首を掴まれ簡単に止められてしまう。

そして流れるようにアレスは男の左手首も折ってしまったのだ。


「ぐ……あ、がぁ……腕が……」

「まだ終わりじゃないよな?腕が使えなくても足で戦えよ」

「無理……です。もう降参しますので、許して……」


両腕が使い物にならなくなり地面に蹲る男に、アレスは冷たい声を響かせ歩み寄る。

その無慈悲な視線に男は完全に戦意を喪失してしまった。


「何都合がいいこと言ってんだ。てめぇはもう寝とけ」

「ぐはぁ!!」


ぶるぶると震える男に、アレスは容赦なく前蹴りを食らわせる。

その一撃は完膚なきまでに男の顔面を破壊し、意識を手放した男はぐしゃりと仰向けに倒れたのだった。


「ったく……張り合いねえな。だけどこれですべてが終わり……ッ!?」


男の沈黙を確認したアレスだったが、その時カララたちが感じたものと同じ邪悪な気配を感じ取ったのだ。

その気配を感じ取ったアレスはすぐに身構え、気配がした地上の方向へ視線を向ける。


(なんだこの気配は!まさか……あの壺と同じ!?だが今までよりもずっと濃い気配だ……)

「くそ!一体何もんだ!」


その邪悪な気配が悪魔が封印された壺と関係があるものだと考えたアレスは、血相を変え即座に駆け出した。

その額には汗が浮かび、胸騒ぎを抑えられず自然とその表情が険しくなる。



「誰だ!!ここに来たのは偶然じゃないだろう……ッ!!」


地上へ飛び出たアレスがそこで見たもの。

それは目を疑いたくなるような衝撃的な光景だった。


「ゼギン様ぁ!!」


そこには悪魔の気配を放つ黒いローブの男と、その足元に血塗れで横たわるゼギンの姿があったのだ。

倒れているゼギンの右腕はなく、地面に大きな血だまりを作っている。


「てめぇ……!!」


直後、アレスは頭で思考するよりも先にゼギンの傍らに立つ男に斬りかかっていた。

敵はアレスが来たことを気配で感じ取ると、慌てて地面に落ちていた仮面を拾い装着した。


「左右に両断されとけぇ!!」


アレスが放ったのは大地を両断するかのような鋭い唐竹割り。


「なにッ!?」

(躱された!?)


だがローブの男は、仮面を拾う隙を見せていたにもかかわらず、アレスのその攻撃をサイドに飛んで回避したのだ。


「……!」

「うぉ!!」


アレスの攻撃を回避した男は、その振り終わりに合わせアレスの首めがけて腕を真横に走らせた。

黒い影のようなオーラを纏ったその攻撃は生身の人間を葬るには十分な威力。


「ぐッ……がぁああああ!!」


だがアレスはその薙ぎ払いを剣で受け止めたのだった。

男の腕を受け止めたアレスは、そのまま全身に力を込め男をゼギンの傍から吹き飛ばす。


「はぁ……はぁ……てめぇ!!一体何者だ!!」


意識のないゼギンを庇うように、男との直線上に立ちはだかったアレス。

だが男はその問いに一切答える様子はなく、アレスもろともゼギンを始末しようと邪悪な気配をみなぎらせていったのだ。

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