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怪力乱神

アレスが敵のボスの元を目指し全力疾走を始めた頃。

地上にあるアジトの出入り口付近に辿り着いていたゼギンは、兵士たちを後ろに控えさせながら木陰に身を隠していた。

地上の出入り口は静まり返り、異変の兆候は見えない。


「ゼギン様!周囲に異変は見られません!」

「よし。時間はかけられない。即刻突入を……」

「どうされました?総軍団長殿……」

「黙れ。来るぞ」


一時的に身を隠したゼギンだが、敵に逃げられないよう即座に突入を開始しようと指示を出す……その時だった。

それまで静かだった敵のアジトの出入り口から慌ただしい足音が聞こえ始めたのだ。


「に、逃げろ!!」

「下はダメだ!!早く!!」


直後、地下へと続く入口から数人の影が雪崩を打つように飛び出してきた。

顔には焦燥と恐怖が浮かび、振り返りながら必死に地上へ駆け上がってくる。


「て、敵が出てきました!」


兵士たちの間にざわめきが走る。


「火事か何かでしょうか?」

「中で事故でも――」

「それを考えている時間はない」


予想外の事態に兵士たちの間にわずかに動揺の色が漂ったが、それを拭うようにゼギンは悠然と前へと踏み出した。


「作戦通りだ!壁を越えていく奴は任せる!」

(岩獄――)

ゴゴゴゴゴッ!!


短く、冷徹な命令。

同時に、ゼギンの姿は大地からせり出してきた分厚い岩の壁によって兵士たちの視界から消える。


「もう王国軍が近くにいるはずだ!早く――」

「な、なんだ!?」

「くそっ、囲まれた!?」


散り散りに逃げ出そうとしていた敵を全員取り囲むように、大地が盛り上がり巨大な岩の壁が出現する。

隆起した岩は瞬く間に出入り口の周囲を囲み、逃走経路を断ち切った。


「こ、このスキルは……」

「そこまでだ貴様ら。全員無駄な抵抗はやめて降伏しろ」


完全に包囲されパニックになる男たちの前に、ゼギンが剣を抜き堂々と姿を現す。

口調は柔らかいが彼が纏う雰囲気はまさに戦場の悪魔と呼ぶにふさわしいものだった。


「ゼギンだ!くそッ……大人しく捕まってやるわけねえだろ!」

「奴を殺せば俺たちの任務は終わりなんだ!」


追い詰められた男たちは、開き直ったのか武器を手に取り一斉にゼギンに襲い掛かったのだ。

だがゼギンの表情は一切変わらない。


「ふんっ」


次の刹那、ゼギンは無感情な瞳のまま指をくいっと跳ね上げた。

それに合わせて敵の足元の岩が左右から隆起する。


ドンッ!!


「ぎぃあ!?」

「ぎゃああっ!!」


岩が万力のように男たちを挟み込み、骨の軋む音が辺りに響く。

さらにそれを見て戸惑う周囲の男たちの地面が波打ち始めた。


「な、なんだ!?」

「まともに立ってられ……」


立っていられないほどの地面の動きに男たちが取り乱した瞬間――

ゼギンの姿はすでに目前にあった。


一閃。


「ぎゃああ!!」

「がはッ!?」


剣が振るわれ、容赦のない一撃が男たちの体を斬りつけたのだ。

致命には至らない。

だが立ち上がることは不可能なほどの傷が瞬く間に男たちの体に刻み付けられた。


「や、やっぱりだめだぁ!」

「逃げろぉ!!」

「逃げろったってどこに!?」


残った男たちは完全に取り乱し、逃げ場のない岩の牢獄の中で騒ぎ出す。

そこから先はもはや一方的な戦い――戦いとも言えぬほど一方的な蹂躙だった。

数秒後、岩のドームの中で立っていたのはゼギンただ一人。


「地上の制圧完了。建物内の制圧に移る」


地上に出てきた敵をすべて制圧したゼギンは、すぐさま彼らが出てきたアジトの出入り口へと向かった。


しかし瞬間――


「ッ!?」


天から垂れ落ちたねっとりとした悪意がゼギンの背筋にどろりと冷たい感触を与えたのだ。

それは軍人としての経験の長いゼギンですら感じたことのない、人ならざる気配。


「何者だ!?」


直後、ゼギンは警戒心を全開にし剣を構える。

その姿を見る前からゼギンの脳内にはかつてないほどの警鐘が鳴り響いていた……




「敵はたった2人だ!殺して進めぇ!!」


一方アレスから非常口の封鎖を任されたセレナとカララは、追い詰められ死に物狂いで襲い掛かってくる敵の相手をしていた。


「甘いですわ!!」


率先して戦うのはセレナ。

自身の愛刀はルークに折られてしまったため、使っているのは護衛が落とした剣だったが、それでも基本を忠実にこなしてきた彼女は剣の種類に左右されず手堅く敵の攻撃を捌いていったのだ。


「ガキが調子に乗んなよ!!」

「ッ!?しまった!」


だが多勢の無勢。

さらに死をも恐れぬ捨て身の特攻にセレナは対応が遅れ、敵の1人に懐への侵入を許してしまったのだ。


「死ねぇ……げばぁ!?」

「そんな汚い言葉使っちゃダメだよぉ」

「っ!カララ様!」


だが男の凶刃がセレナの腹を抉る直前、後ろで酒を飲んでいたはずのカララが、セレナの隙をカバーするようにその男を強烈にビンタしたのだ。

その一撃は軽く手が振るわれたように見えたが、男は顔面が陥没し雑巾のように捻じれながら大きく吹き飛ばされていく。


「あ、ありがとうございます……」

(直前まで後ろ手お酒を飲んでただけだったはずなのに、一瞬で私の助けを……)

「セレナ様、だったよね?戦場に常識は持ち込まないほうがいいよ。戦いじゃ腕の1本や2本どころか、相打ち覚悟で勝ちに来る頭のおかしな奴も多いからねぇ」

「そう、そうですね……」

(あの剣士に言われたことと同じ……)


カララの忠告は実際の戦場に出た経験の極端に少ないセレナの問題点をついたもの。

それは先程刃を交えたルークにも言われたものであり、自身の課題を改めて突きつけられたセレナは歯を食いしばる。


「おいおいおい!何をもたもたしているのだ貴様らは!?」

「っ!」

「おやぁ?なんだかうるさそうなやつが来たね」


カララのビンタで強烈に吹き飛んだ仲間の姿に怖気づく男たちだったが、そこへ凄まじい声量を響かせ1人の男が姿を現したのだ。

それは暗殺組織の幹部であるテランダ。

筋肉質で巨体な彼は、そんな自分よりも大きな斧を担いでセレナたちの前に姿を現したのだ。


「て、テランダ様」

「なんだ!?まさか貴様ら、たった2人に苦戦させられてたんじゃないだろうな!?」

「申し訳ありません……」

「あんな豆粒共。俺の斧で一振りで終わってしまうわ!」


自信満々に踏み出したテランダ。


「厄介そうな敵が出てきましたわね……って、カララ様!?」

「あたいがやるから、大丈夫だよ~」


それを見たセレナは自身を圧倒したルークと似た強敵の気配を感じるテランダに、緊張した面持ちで剣を構える。

だがその時そんなセレナを制し、カララがゆらりと前に歩み出たのだ。


「なんだ?貴様が俺の相手をしてくれるのか!?」

「君はちょっとセレナ様には荷が重いだろうからね~。お姉さんが守ってあげないといけないんだよ~」


カララはそう言うと、腰の左からぶら下げていた瓢箪を手に取った。

ぽんっという気持ちのいい音と共に、カララは瓢箪の蓋を開ける。


「それが何だというのだ!?早く武器を取らねばこのまま終わるぞ!」

「まあまあ、慌てなさんなよ……っと」

「何ッ!?」

「嘘!?」


直後、細い瓢箪の口にカララが手を近づけると、なんとそこから巨大な棍棒が出てきたのだ。

それはカララが愛用している棍棒、黒棘砕棍(こっきょくさいこん)

細身で小柄なカララに見合わない数百キロもある棍棒を、彼女は軽々と取り出したのだ。


「カララ様!?なんでそんな小さな瓢箪に武器が!?」

「うん?ああ、これね。これはマジックバッグの一種だよ。この棍棒は持ち歩くには大きくて邪魔だからね」

「な……ふ……ふははは!!そんなこけおどしがこのテランダ様に通用すると思ったのか!?」


暴力的な質量を誇るその武器を取り出したカララに、テランダは一瞬言葉を失ったがすぐに調子を取り戻したのだった。


「俺様と力比べがしたいようだが、俺様はそこらの脳筋とは違うのだよ!貴様が鈍重なその武器を振り上げてる合間に、俺様のスピードで貴様を真っ二つに――」

グシャァ!!

「ッ!?」

「えっ……」


カララの武器をハッタリだと笑うテランダ。

だがその次の瞬間、瞬きすら許さぬ一瞬の間に距離を潰したカララは、振り下ろしたその棍棒でテランダを一瞬で潰してしまったのだ。

周りで見ていた男たちはおろか、セレナですら何が起きたのか理解できない。


「おっとごめんよ。まだ喋ってる途中だったね」


そう気怠そうな様子で揺れるカララの足元には、ただ地面にこびりついた赤いシミが広がっていただけだった。


「て、テランダ様が……」

「化け物だァああ!!」


少しの沈黙の後、男たちはあまりに衝撃的な光景にただ叫び声を上げることしかできなかった。

カララはそんな男たちなど一切意に介することなく、腰からぶら下げていた瓢箪を手に取り傾けていたのだった。

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