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突入

「うしっ!見えてきたな、ブラルトルイン!」


ティナを傷つけた敵を自分の手で捕まえようと、馬車を飛ばしたアレスは日暮れ前にはブラルトルインに到着していた。


「うぉえっぷ……アレス君~……操縦が荒いよぉ。お姉さん気持ち悪くなっちゃった……」

「ずっとお酒なんて飲んでいるからですわよ。本当に大丈夫なのですか?」

「いよいよだ……待ちくたびれて頭がおかしくなると思ったよ」


敵のアジトを目前にして、ティナを傷つけられたことに対する怒気を爆発させるアレス。

その後ろ姿は熱気を帯び、大きく膨らんでいるようにさえ錯覚させられる。


(アレス様……先ほどよりも闘気が膨れ上がっていますわ)


そんなアレスの後ろ姿を見て、セレナは緊張感を走らせる。


「……今日はまた一段と霧が濃いな。2人とも、はぐれないように俺についてきてください」

「はい!どこへでも!」

「あいよ~!」


濃い霧が流れ出してくる森の入口付近に馬を止めたアレスは、そのまますぐにブラルトルインへと入っていったのだ。

今日のブラルトルインは普段よりも霧が濃く、少し侵入した時点で十数m先の視界はほとんど確保できない。


「アレス様、敵のアジトがどこにあるのかこれじゃわかりませんよ?」

「大丈夫です。ここに来る途中で道しるべを見つけましたから」

「道しるべ?」


霧の中を進んで行く3人。

あまりに悪い視界に敵のアジトなど見つけられないのではないかとセレナは心配したのだが、アレスはそれに対し地面を真っ直ぐ指さしたのだ。


「これは……足跡?それも結構な人数の……」

「ブラルトルインに着く直前で発見した。付けられてまだ時間の経ってない足跡……そんでもって四級ダンジョンにこの人数で踏み込んでくるのは初心者冒険者かあるいは……」

「っ!王国軍の部隊、というわけですね!さすがはアレス様!」

「ただこのまま後ろを歩いてたら辿り着く頃には全部終わってるだろう。なのでもう少し急ぎますよ!」

「うぇ~!早いよ2人とも!」


道中で王国軍の通った痕跡を発見していたアレスは、その後を辿り敵のアジトを目指していた。

もちろんそれでは先に敵の元に辿り着くのは王国軍の方。

アレスは頃合いを見て先回りをすべく、徐々に歩く速度を速めていったのだ。


「ま、待ってよぉ~……!お姉さんもう若くないから、若者のスピードについていけない……」

「酔っぱらってるだけじゃないですか?アレス様、あの人を置いて2人で先を急ぎましょう?」

「……や、やだってば!置いてかないでよぉ……うぷっ……!」


しかし先を急ごうとしてすぐ、カララがふらふらと足元をもつれさせ速度を落とすよう声を上げたのだ。

カララは吐き気を催しながら口元を抑える。


「やっぱ馬車で酔っちゃった……おぇ……」

「はぁ……アレス様、やっぱりあの人は置いていきましょう」

「そうだな。これじゃさすがに……っ!」

「ん?なんだい、今の音は?」


呆れてカララを置いていこうと再び話すセレナに、アレスも同意しようとした……その時だった。

吐き気を催しよろよろと道を逸れたカララが、何か不審な音が聞こえたと言い出したのだ。


「何を言ってるんですか。酔っ払いすぎて幻聴まで聞こえ始めましたか」

「いや、ほんとだって!ごご……ん、みたいな……」

「いや、俺も聞こえた」

「えっ?」

「重たい扉が閉まるような音が遠くから」


完全にカララのことを信用していないセレナは呆れたように肩をすくめたが、それに対しアレスも不審な音が聞こえたと言い出した。


「そうそう!やっぱり聞き間違えじゃなかったんだよ!」

「さすがアレス様ですわ!私では一切感じ取ることができない異変を見逃さないなんて!」

「ちょっとぉ~?あたいが言い出したんですけど~……?」


アレスは地面に残る足跡から視線を外し、音のした方角へと身体を向ける。


「ダンジョンであんな音……明らかに不自然すぎる」

「王国軍の部隊ではないんですか?」

「彼らが通った道は、こっちです」

「魔物じゃぁないだろうね。となると考えられるのは……」


何とか立ち直ったカララと共に、アレスは音がした方向へ歩き出す。

この霧の中で一度足跡を見失えば、王国軍を追うことは不可能になるかもしれない。

それでもアレスの足取りに迷いはなかった。


「行きましょう。目的地はたぶん、この先だ」

「いっひっひっ。急に盛り上がって来たねぇ~」

「アレス様の足を引っ張らないように頑張ります!」


戦闘が目前だと張り切り出すカララに、アレスの役に立とうと意気込むセレナ。

3人は道のない濃霧の中を走り出したのだった。




「おい!早くアジトから避難しろ!!王国軍がすぐそこまで迫って来てるぞ!!」


それはブラルトルイン内にある暗殺者組織、サイレント・エッジのアジトでのこと。

見張りをしていたメンバーから王国軍がやってきたことを聞かされた彼らは、慌てた様子で脱出の用意を進めていた。


「地上はダメだ!非常通路を使え!」

「物資は持ち出せるだけでいい!急げ!」

「俺は先に非常口の方に行って鍵を開けて来るわ!」


男は松明を掴み、誰よりも早く通路へと駆け出した。

非常通路はブラルトルインの地下深くへと伸びる、一本きりの長い通路。

湿った石壁に反響する足音が異様なほど大きく響く中、男は息を切らせながら全力疾走していく。


(奴らが地上の入り口から入ってくる頃には、俺たちゃこの非常口から脱出して入れ違いって寸法さ)


地上の出入り口が全て押さえられても、離れた場所から外に出られるこの通路を使えば安全である。

男はそう考えながら長い通路を走り切り、通路の奥にあった巨大な鉄の扉の前に辿り着いた。


「……よし」

(俺1人じゃこの重い扉はビクともしねえが、他の奴らが来る前に鍵だけでも開けておかねえと)


男は息を整え、腰の鍵束に手を伸ばす。

その扉はあまりに重く、肉体強化系のスキルを使用しても1人で開けることは困難だった。

しかし男が扉の施錠を解除しようとした次の瞬間――


ギギ……ギギギギ……ッ!!

「……っ!?」


なんと分厚い鉄の扉が耳障りな金属音を放ち出したのだ。

それは鍵のかけられた扉が強引に開かれようとしている音。


「な、なんだ……!?鍵は……かかってるはずだろ……!?」

バギィィン!!


鉄が悲鳴を上げ、蝶番ごと捻じ曲げられる。

そしてその次の瞬間、重く分厚い扉が信じられない力でこじ開けられたのだ。

呆然とする男の視界に、扉の向こう側から三つの影が現れる。


「いやぁ~。どうやら鍵はかかってなかったみたいだね」

「いや絶対かかってましたって。カララ様が力尽くで破壊しただけで」

(なんて怪力なの!純粋なパワーだけでここまでのレベルは見たことないわ……)


それは自宅のクローゼットを開くような仕草で鉄の扉をこじ開けた細身の女性と、その後ろに控える2人の剣士。

王国軍ではなさそうなアレスたちの風体に、男は戸惑いと不安を顔に滲ませていた。


「だ、誰だ貴様ら!!ここがどこだかわかってんだろうな!?」

「ここがどこか、だと?」

「ひぃ!」


腰から短剣を抜いて威嚇しようとした男だったが、殲滅態勢に移ったアレスに気圧され、思わず一歩退いてしまう。


「クソ共のたまり場だろうが。手始めに気を失っとけ」

「ぐべぇ!!」


直後、吐き捨てるようなセリフと共に、一瞬で距離を詰めたアレスは石のように固めた拳で男の顔面を撃ち抜いた。

壮絶に吹き飛ばされた男は大きく弧を描いて冷たい地面に倒れてしまう。


「いいパンチだね、少年!」

「アレス様、この先が敵のアジトですね!?」

「ああ。行くぞ、地上から来る王国軍と挟み撃ちだ!」


こうして非常口を塞いだアレスは、そこからアジト内にいる敵を一網打尽にすると宣言したのだ。

勢い良く駆けだしたアレスに続いて、カララとセレナも続いていく。


「ッ!なんだあいつら!?」

「王国軍か!?」

「ったく。中にこんなにいやがったのか」


長く暗い通路を走っていくと、そこに非常口から脱出しようと移動してきた敵が押し寄せてきた。

王国軍から隠れ、ダンジョンに潜んでいた悪党がこんなにいたのかと、アレスは呆れながら剣を構える。


「消し飛べ――波濤突牙!!」

「ぎゃああ!!」

「ぐぁああ!!」


次々に武器を構える男たちだが、アレスの敵では全くない。

衝撃波のような斬撃が通路を満たし、一瞬で男たちを吹き飛ばしていった。

そうして長い通路を駆け抜けたアレスは、その先で開けたフロアへと出る。


「あぁ?想像以上に広いな」

「どうやら、一時的な仮拠点ではないようですね。ずいぶん長い間使われている様子」

「おいこらてめぇ!おめぇらのボスがどこにいるか吐きやがれ!」


そこは地下に作られた広い基地であり、地上から迫ってくる王国軍から逃れようと十数人の敵組織の人間たちが突如現れたアレスたちの姿を見て混乱していた。

アレスはこの拠点が想像以上に広かったと知り、地面に転がっていた男の胸ぐらをつかんでボスの居場所を吐かせようとした。


「ひぃ!い、言えません……」

「そうか。俺は別にお前に拘る理由はないんだ。てめえを殺して次の奴に聞くよ」


剣を突き付けられても黙秘しようとする男に、アレスは冷たい視線を浴びせながら容赦なくその首に刃を押し当てる。

その殺気に男の震えは止まらなくなる。


「ま、待って殺さないで!ボスはこの下のフロアに居ますから、命だけは助けて!」

「おし……セレナ、カララ様!俺はここの頭にけじめをつけに行ってきますから、こいつらが逃げないようにここで食い止めといてください」

「分かりましたわ!」

「走らなくていいのは助かるねぇ~。気を付けて行ってくるんだよ~」


男から敵のボスの居場所を聞き出したアレスは、その男の胸ぐらを掴んだまま走り出したのだった。

アレスにこの場所を任されたセレナとカララは、まだ残っている敵の兵士たちと向かい合う。


「ひ、一人減ったぞ」

「上からは王国軍が来てるんだ。あいつらを突破して逃げるしかねえ」

「カララ様、敵が来ますよ!」

「なんだか楽しくなってきたねぇ」


アレスがこの場を離れたことを確認した敵は、王国軍から逃げるため敵が2人しかいないこの通路を突破することを選択したのだ。

それを食い止めるべく、セレナは落ち着いた様子で刀を正眼に構えたのだった。

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