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異世界ALIVE  作者: 路地裏
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y18.告白


 窓の外は暗くなり、冷たい夜風が吹く頃。コンコン、と部屋にノックの音が響いた。

 私がどうぞ、と言うとノックの主は部屋の扉を開けて中に入ってくる。


 「すまないね。わざわざ夜中に。

 でもどうしても話しておかなきゃいけない気がして。」


 ノックの主、フレイはそう言って申し訳なさそうに微笑む。

 こんなイケメンならいつでもウェルカムだと言うのに。


 「全然大丈夫だよ!座って!それで、話って?」


 プレイは椅子に座って少し言いづらそうに、ポツリ、ポツリと話始めた。


 「……僕の、いや、僕らの父さんと母さんは昔この町に住んでいたんだ。僕が生まれる前の話だけどね。


 二人はこの町の護衛騎士、町を守る仕事をしていた。僕と同じだね。

 二人とも腕が良くて母さんなんか女性なのに男でも(かな)う人は居なかったらしい。

 でも、父さんだけが唯一(ゆいいつ)、同等の強さを持っていた。それもあって二人は若い頃から修行仲間で仲が良かったんだって。


 ただその頃は魔物達とは平和に過ごしていた。町の護衛の仕事なんて知性のない怪物や野盗の相手ぐらいだった。でもそれも滅多に起きなかったらしい。」


 「デルセンさんから聞いた事があるよ。平和だったのに魔物が急に襲ってきたんだよね?」


 そう、事実私も港町で何度か襲ってくる魔物を見たし攫われかけた事もある。


 「……それは違う。

 この町じゃ、いや、この国じゃそう伝えられてるけど実際は先に手を出したのは僕達人間の方だ。」



 フレイは暗い顔で私の言葉を否定し、そのまま言葉を紡いだ。


 「僕も聞いた話だけれど昔、人間と魔物の平和を作っていたのは二匹のヘルライガーという魔物だった。その魔物はとても強大な力を持っていた。人間は勿論、他の魔物達でも到底及ばない力を。


 でもその二匹の魔物はとても優しかった。人間の言葉を理解して、時に野盗や知性のない怪物から人を助けたりもした。

 他の魔物達とも交流があったみたいで、人間を攻撃させないように、魔物を襲おうとする人間にも攻撃させないようにその容姿と力で脅して追い払っていた。上手く共生関係を作っていたんだね。」


 フレイの言葉に私は少し驚いた。昔話の平和にそんな立役者が居るなんて思いもしなかったから。


 「そんな魔物が居たんだね。そのヘルライガーって魔物は今はいないの?」


 私は疑問を口にしたが正直大体察しはついていた。そのヘルライガーって魔物がなんらかの理由で姿を消したんだろう。いればわざわざこんな兵器を作って戦争を仕掛けなくても良かったはずだ。


 「そうだね、今はもういなくなってしまった。人間が罠にかけて殺してしまったんだ。それに魔物達は怒って人間を襲うようになってしまったんだ。」


 暗い顔でフレイはそう言った。だが妙だ。確かに強大な力を持つ魔物は脅威かもしれないが人間に友好的で魔物との争いの抑止力になっていたならば殺すよりも生かしておいた方が人間の利益に繋がる。現に今、その抑止力が無くなったせいで森や鉱山、その他の資源を取りに行こうとすれば魔物に襲われるリスクが付き纏う。


 私は頭に浮かんだ疑問をそのまま口にした。


「魔物が襲ってくるのを止めてくれるなら生かしておいた方が人間にとって有益だったはず、どうして殺してしまったの?」


 フレイは私の疑問に丁寧に答えてくれた。


 「確かにミサキの言う通りだね。ヘルライガーは平和をもたらす存在で人間にとって有益。でもその反面魔物にとっても有益な中立の魔物だったんだ。人間が街から出て資源を取りに行こうとする時、必要以上に取ろうとすればそれを許さなかった。魔物達の分が無くなってしまうからね。

 そこにその時の国王や大臣達は疎ましさを感じていたんだろう。ヘルライガーを始末すればより人間は豊かな生活を送れると考えた。」


 なるほど。確かに一理ある。でもリスクが高過ぎる。ヘルライガーを殺した所で他の魔物に襲われるのは目に見えていたし、そもそも魔物も人間もたった二匹で止めてしまうその強大な力を持つヘルライガーとやらを殺す事自体が難しいように感じる。まあ結果的に殺せたから今に至っている訳だけど。


 フレイの話を聞きながら思考を巡らせる私にフレイは話を続けた。


 「そんな中ある情報が入った。ヘルライガーに子供が生まれたと。王や大臣達は焦った。二匹でもどうにもならない魔物がもう一匹増えるのかってね。でも、それを逆手にとった作戦を思い付き、実行した者がいた。作戦の全貌はシンプル。ヘルライガーの親を毒殺して子供を攫い、育ててあわよくば人間の言う事を聞くようにすりこみを行う。無理ならば殺す。」


 いやいやいやいや、都合が良すぎる。殺したかったのならその毒殺ってのが出来る時点でとっくにやってたんじゃないのか。

 いや、そうか、子供が生まれた事によって急ぐ必要が出来たのか。その子供へのすりこみ教育とやらも成功すれば他の魔物も蹴散らせる。無理でもヘルライガーさえいなければどうにでもなると考えて実行に踏み切ったんだ。


 私は思考を巡らせ、もう一つ気になる事を尋ねた。


 「なるほど。でもその肝心の毒殺ってどうやったの?」

  

 私の質問にフレイは暗い声色のまま答えた。


 「ヘルライガーは魔物ながら人間を好んだ。積極的に人間とコミュニケーションをとろうとしてたんだ。恐らく平和を保つ為じゃないかなと思う。そこにつけこんだ。

 子供が生まれた事を祝いたい、いつも平和を守ってくれる礼がしたいと言って親子3匹を人間との食事会に誘ったんだ。ヘルライガーは言葉を理解出来る。それに応じて親子三匹で食事会にやってきた。後は親の食事に毒を混ぜ、子供を攫うだけだったんだけどそこで誤算が生じた。


 毒入りの食事を口にして倒れたヘルライガーを見て人間達は子供が逃げられないように翼に傷を付けた。だけどその瞬間、本来死ぬはずの毒を口にしたにも関わらず倒れた二匹のヘルライガーは立ち上がって暴れ狂った。でも流石に最強の魔物と言えどダメージは計り知れない。弱りきった体に今でも珍しいありったけの鉄製の武具を突き立てられて遂に息絶えた。そして、その隙に子供は逃げ去った。最後の力で我が子を守ったんだね。これが人と魔物の争いの発端の真相だよ。国がかつてのこの街に箝口令を敷き、徹底的に隠しているから都市伝説のような扱いで知ってる人は少ないけどね。」


 国が隠した。フレイはそう言った。その発言に新たな疑問が生じる。腕が良いから階級は上の方とは言え街の一兵士が何故こんな事を詳しく知っているかだ。まあ薄々察しはつく。この話には登場人物が少な過ぎるから。


 私はフレイにまた尋ねた。ここが話の肝だろう。


 「国が隠している事実をどうしてフレイはそんなに詳しく知っているの?」



 フレイは少しだけ深呼吸をして口を紡いだ。


 「父さんと母さんから聞いたんだ。この作戦の立案者で実際に指揮もとった責任者だった僕達の父さんと母さんに。」


 フレイの答えは私の予想通りだった。正直外れてて欲しかったけど。あの優しい二人がまさかって感じ。複雑だ。

 私は襲ってくる魔物を倒し、人々を救う。正義だと思って兵器を作り続けてきた。でも蓋を開けてみたらどうだ、人間が私利私欲の為、魔物に戦争を仕掛けたんじゃないか。魔物達が怒るのも当然。そしてその発端の張本人がおじいちゃんとおばあちゃんなんて。



 「……フレイは、なんでこの話を私にしたの?」


 私は尋ねた。正直心の中はぐちゃぐちゃだ。私は今気が進まなかった殺す為だけの兵器を覚悟を決めて作っているんだ。それはこんな私でもみんなの役に立てるんだと、みんなを守る正義の為なんだと思ってた。生まれて初めてやりがいを感じ、生まれて初めて私は真剣に生きたんだ。


 でも、これじゃただの略奪者。悪党だ。自分の中の覚悟が揺らぐのを感じる。別に、知らなくても良かった。いや、知らない方が良かったんじゃないか。そう思わずにはいられない。だから、尋ねた。


 私の質問にフレイは重い口を開く。


 「僕がこの話を父さんと母さんに聞いたのは僕がこの仕事に就く頃だった。魔物と相対するこの仕事に。父さんと母さんはこの話を魔物と戦う僕に知ってて欲しかったんだ。ミサキも今同じだ。準備が整い次第、魔物達を攻撃しに行く。それに今回は訳が違う。掃討戦だ。父さんと母さんなら話した。僕も君に知ってて欲しかったからそれに習ったんだよ。」

 

 フレイはそう言った。正直私はフレイに怒りすら感じる。私がここまでどんな覚悟で歩んで来たと思ってる。今更後戻りなんて出来ない今、後ろ髪を引っ張られるのがどんなに鬱陶しいか分からないのか。


 私は思いの丈をぶちまけた。


 「それで私にどうして欲しいの?今更そんな話を聞いた所で引き返せない。遅いんだよ。私はもう、作ったんだ!魔物を一度に大量に殺せる兵器を!

 フレイは…今回の作戦反対だったんだろうね…。その話を知ってたから。私も今聞いて辞めたくなったよ。でも出来た兵器は完成した、兵士も揃ってる。もうやるしかない。私は、私は、こんな気持ちで戦いたくなかった!知らない方が良かったのに!」


 私は怒りを隠さずフレイに怒鳴った。フレイは静かに下を向いたまま聞いていた。


 部屋に少しの間だけ静寂が訪れる。


 静寂を切り裂いたのはフレイの細い声だった。


 「ごめん。僕も話すか迷ったんだ。でも、後で知るより良いかと思って今話した。それでも確かにミサキの言う通り遅すぎたね。今更話した所で何も変わらないし変えられない。ミサキの心を掻き回してしまっただけだね。本当にごめん。」


 フレイは少し俯いてそう呟いた。



 私は返す言葉が無かった。そのまままた二人を静寂が包む。




 もういいか。例え昔がどうだろうと、正義がどちらにあろうと今、魔物が人間を襲うのは事実だ。そのヘルライガーがいないなら魔物との意思の疎通は難しい。今更手を取り合うなんて夢物語だろう。なら、私はきっと、先にこの話を知っていても今の道を選んだ。


 「もう、いいよ。話してくれてありがとう。私はその話を知った上で魔物を殺す。フレイは反対なんだよね、今なら作戦から外れれるんじゃない?どうするの?」



 私の質問にフレイは軽く首を横に振りながら答えた。


 「僕の役目はミサキを守る事だ。ミサキが行くなら例え地獄でも着いて行って守ってみせるさ。」


 フレイはそう言って立ち上がる。


 「明日も行軍準備だ。そろそろ寝よう。時間をとらせて悪かったね。後、話すタイミングも。でも、これだけは覚えてて欲しい。僕は何があっても君の味方だ。」


 少しだけ微笑んでフレイはそう言った。


 「ありがとう。じゃあ、おやすみなさい。また、明日。」


 私も少しだけ微笑んでそう返し、部屋から出るフレイを見送った。


 寝る準備を済ませてから私は力無くベッドに横たわり、魔物の事を考えていた。


 でも、もう考えても仕方ない。やるしかないならやるだけだ。瞼を閉じ、揺らいだ覚悟を固め直し、眠った。





 私達の進軍の日はもうすぐそこまで来ている。



 

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