m19.折れない力
何回立ち上がったか……何回吹っ飛ばされたか……
視界の端ではペルが、今にも飛びかかりそうな勢いでキアナを睨みつけていた。
ごめんな、ペル。心配かけて。
でもウチはまだまだ大丈夫や。
軋む体にムチを打って無理矢理体を起こす。
手加減しとる言うてもこんな何回も吹っ飛ばされたら堪えるわ。
「まだ立つか…。」
ウチが立ち上がると同時に、キアナが突っ込んできてまた吹っ飛ばす。
「もう諦めたらどうだ。人間にしては良くやった。すぐに帰ると思ったが。
アタイが人間を褒めたのはこれが初めてだ。」
「そら光栄やな。でも、今頃みんなも頑張ってくれとる。
ここでウチが諦めたらみんなに笑われてまうわ。」
そう言ってまた体を起こそうとする。
もうあかん、ギリギリや、次は多分立てん。
ウチがゆっくり立ち上がるのに合わせて、キアナはウチの方に今度はゆっくり歩いてくる。
やっと立ち上がると同時にキアナはウチの目の前に来てまたウチを吹っ飛ばす。
為す術もなく吹っ飛ばされたウチはまた必死に立ち上がろうとする、けどあかん……体が動かへん。
なんでや、諦めきれん。まだや、まだまだや。動け!動け……!
ウチの意志とは裏腹に、地面に這いつくばって、もがくばっかりで足が立たん。体が言う事きけへん。
悔しい……こんぐらいで…
「…………終わりのようだな。
そこの人間を連れて帰るがいい。」
ついに立ち上がれなくなったウチからキアナは視線を外しペルにそう言った。
悔しい、悔しい……!!
痛みと悔しさで涙が止まらへん。
ペルがキアナを睨み、うつ伏せに倒れるウチにゆっくり近付いてきてボロボロのセーラー服の襟を咥える。
「ペル……待って…
まだ……まだまだ大丈夫や。もう……ちょい待って……」
「ああ。分かってる。余計なお世話だとは思うが少し手伝ってやるだけだ。」
背中に乗せられると思ってウチは精一杯声を絞ってペルを制止しようとした。けど、ちゃうかった。ペルはいつになく優しい声でウチにそう告げ、ウチのセーラー服の襟を咥えたまま、その大きな首を持ち上げてゆっくり立たせてくれた。
おかげでなんとか立ち上がれたけど足元がふらつく。
でも倒れはせんかった。ペルがその大っきい体で背中を支えてくれとったから。
ペルにもたれるように背中を預けたまま、涙を拭い、はっきり言い放つ。
「まだや、ウチは立っとる。」
「…………呆れて言葉にもならん。」
キアナは歩いてウチの目の前まで来て腕を振り上げた。
それに対してボロボロのウチはもう身構える事もできひん。その代わり、反射的に閉じようとする瞼を必死に抑え込みキアナの瞳をただ真っ直ぐ見つめた。
少しの静寂。結局キアナの腕がウチを襲う事は無かった。
ゆっくりとキアナは振り上げた腕を降ろし、じっとこっちを見てる。
「なるほど……。他の魔物が従うわけだ。
アタイにはもうあんたに手を出す事は出来ない。
アタイの、負けだ。お前達の要求を飲もう。」
キアナはウチを見つめていたその真紅の瞳を閉じそう言った。
「ほ、ほんまか!ありがとう!
これで……あともうちょっと……」
ウチはそれを聞いて緊張の糸が切れたのか、言い終わるのと同時に気絶するように眠りに落ちた。
眠りに落ちたせいで地面へ倒れ込みそうになるウチの体をキアナがパッと支え、ペルに尋ねる。
「………これから戻るのか?」
「ああ、他の仲間の報告も気になる。」
「アタイも行こう。上手くいってない所は手伝ってやる。」
「ふふ、、人間嫌いでは無かったのか?」
ペルは少し皮肉に笑ってそう返す。
「……そいつは別だ、人間でありながら力を示してみせた。
条件を出したのはアタイだ。この人間はそれをクリアして見せた。今後は全力で協力しよう。」
「心強いものだな。状況は歩きながら説明しよう。
アヤを私の背に乗せてやってくれ。」
ペルがそう言うとキアナはウチをお姫様抱っこの形で持ち上げる。
「ああ。……抱き上げるとよく分かる。
よくもまあこんな華奢な体で……」
「その華奢な人間が、もうじき魔物の王だ。」
ドラゴノイドを味方につけ、魔物統一まで王手をかけた。
少女の願いは、世界を徐々に変えていく。




