m18.大儀
ウチらはドラゴノイドとの交渉の為に渓谷に来とった。
水源が豊富で木々も豊。
ドラゴノイドは危険やって聞いたけど、ほんまにこんなのどかなとこにおんのか…。
「この穴の下だ。」
ペルがそう言った場所の目の前にでっかい地面の裂け目がある。
ウチらはその裂け目を下に向かって行く。
裂け目を下に進んでいくに連れてちょっとずつ気温が上がっていってんのが分かる。
いや、ていうかあつ!!めっちゃ暑いわ!!
「私が初めてアヤと話した洞窟もここの地脈と繋がっている。」
「あー、あの暖かいとこか!暑いわけや…。上はあんなに涼しいのにな…。」
ウチが快適で自然が綺麗な裂け目の上に思いを馳せとるその時。
「何者だ!!」
急に奥から声が聞こえた。
暗闇から足音が聞こえ、徐々にその姿を表す。
額から2本の角が生え、肌には鱗、鉤爪に尾をたずさえた人型だった。
「ドラゴノイドだな、族長と話がしたい!」
ペルが現れたその異形の人物に臆する事無く声を掛ける。
「族長は忙しい。無駄な時間をとらせる訳にはいかん。立ち去れ!」
ドラゴノイドはすぐさまそれを拒否した。
「ちょっと話がしたいだけや!
こっちも退けへんねん!頼むわ!!」
ウチがそう言うもドラゴノイドはこちらを睨んで動かない。
「話をするだけだ。ほんの少しでいい。族長に話してもらえないか?時間が取れないのなら日を改めて伺う。」
ウチを後押しするようにペルも丁寧に言うとドラゴノイドは少しの沈黙のあと口を開いた。
「……ここを動くな!伝えるだけ伝えてやる!!
待っていろ!!」
そう言ってドラゴノイドは暗闇の奥へと消えていった。
それからしばらく。待てども待てどもだーれもこうへん。
「なあ、ウチら忘れられてんちゃうか?」
「いや、そんなはずはない。多分。」
ペルまで弱気になってきた、あいつら一体なにしてんねん。
「奥まで行ってみる?」
「あまり望ましくないな…。だがこのままでは埒が明かないか。」
そう相談しているといきなり大きな影が暗闇から現れ、猛スピードでこっちへ突っ込んできた。
ペルはすぐさま反応し、その大きな黒い影を前足で受け止める。
するとギイィィン!という音が響き、火花が少し散る。黒い影の爪とペルの爪がぶつかっているのが見えた。黒い影は止められたと判断すると同時に素早いバックステップで距離を空けて口を開く。
「とりあえず合格だ。
アタイはキアナ、ドラゴノイドをボスをやってる。話を聞こう。」
動いていると早く、薄暗さもあって目が追い付かなかったが止まって話しているのを見てようやく姿が見える。他のドラゴノイドと比べて特に変わった所は無いが女性のようだ。真紅のセミロングの髪と眼光は薄暗いこの場所によく映えている。異形ながら美しい姿に似合わぬその身から出る覇気が百戦錬磨を感じさせた。
「合格か、弱い奴とは話もせぬと言うことだな。酔狂なことだ。」
ペルが呆れたようにそう返す。
「当たり前だ。弱い奴の言葉に大儀は無い。
ここに来た目的は分かってる。そこの人間に従えだな?」
キアナは吐き捨てるように言った。
「ああ、そうや!!ウチと一緒に来て欲しい!」
正直ちょっとビビっとる。今までとは違う好戦的な魔物や。それでも引き下がる訳にはいかん。ウチはキアナに向かって腹から声を絞った。
「ならまずヘルライガーの影に隠れるのをやめて前に出ろ。アタイとタイマンだ。」
キアナはこっちを指差し挑発するような仕草で言う。それに対しペルが怒りを露にした。
「なんだと!人間だぞ!出来るはずなかろう!!」
「言ったはずだ、弱い奴の言葉に大儀は無い。
お前は受けて見せたが、そこの人間にアタイらが従うならその人間が力を示せ。」
キアナは当然と言わんばかりに引き下がる様子はない。
「何を馬鹿な!ドラゴノイドに人間が勝てるはずが…。」
「受けたる!ペル!ちょっと下がっといて!」
ウチは心配してくれるペルの言葉を遮ってペルに下がるよう促す。いつまでも頼ってばっかりじゃウチはダメなままや。
「ダメだ。見てなかったのか?さっきのをアヤが受けたら即死だぞ。」
ペルが真剣な顔で前に出ようとするウチを引き止める。
「……大丈夫や。あいつは、キアナはなんとなくやけど多分そんな事せえへん。……はずや。」
そう、ほんまになんとなくやけどキアナは悪いやつやない。ウチが逆立ちしてもキアナに勝てる訳無いことも分かっとるはずや。だからなんか意図があるはず。そう感じるだけやけど…。
「それも能力とやらの勘か……。お前は言い出したら聞かない奴だったな。
だが少しでも危険なら割り込むぞ。」
ペルは呆れと不安が混ざったような複雑な声色でそう言って少し横に動きウチに道を空ける。ウチはペルが空けた道を真っ直ぐキアナの方へと向かいキアナの正面で立ち止まり、目を真っ直ぐ見つめる。
「本当に出てくるとはな、少し見直した。
でもアタイはワイバーンの連中と同じく人間が嫌いでな。
受けた事、後悔するぞ。」
「ウチは、たとえ後悔しても前に進む。
過去に縛られていつまでも人間嫌いなアンタらとはちゃうんや!」
「…….そうかい。なら行くよ。」
ウチの言葉にキアナは少しつまり、そう言うと同時に軽く構える。
どうしよう、めっちゃ怖い。
心臓が鳴り止まん…。死ぬかもしれん…。
そう思いながらもウチもしたことも無い格闘技の見様見真似で構えをとった。
「忘れるな、この子を殺せば貴様らは皆殺しだ。」
ペルが唸り声と共に鋭い眼光をキアナにとばす。
「過保護な事だ。」
それを受けたキアナはやれやれと言った表情でそう言い終わると視界から消え、気付いたらウチの正面にいた。
と思った時にはもう吹っ飛ばされて地面に横たわる。
「痛っ……」
尋常じゃない痛みがウチの体を襲う。キアナが追撃してくる様子は無い。やっぱりや、殺す気やったら今ので死んどる。
「立て。それじゃあ話にならない。」
キアナはそう言ってまた横たわるウチに手で挑発するようなジェスチャーを送る。
「貴様!!まだやる気か!!」
ペルは呆気なく吹き飛び、地面に横たわるウチを見て黙ってられなくなったのかキアナに向かって吠えた。
「嫌ならその人間を連れてさっさと帰ればいい。」
キアナはそれを意に介さずペルにシッシッと言わんばかりに手を振って見せた。
「ああ、そうさせてもらう。この報いは……」
「ペル……大丈夫や……。ちょっと擦りむいただけ。それにまだ一発もろうただけや。勝負はこっからやで。」
ウチはペルの言葉を遮って立ち上がり、精一杯の強がりと笑みを向ける。
痛いけど立てんほどやない。
「ほう……根性だけはあるらしい。続けるぞ。」
大丈夫、大丈夫や…。思った通りキアナは手加減しとる。
殺そうと思っとったらもう死んでるし、生きてても立てるはずない。
そう考えてる間にキアナはまた視界から消えウチの懐に飛び込んでくる……




