m15.樹人
俺達オーガ、ゴブリン、オークの軍勢はアヤ様の理想の為、森へと行軍を行っていた。
トレントの説得、上手く行けばいいが……
ジキトは大丈夫だろう、だがゴルだ。
こいつは普段から仕事はきっちりこなすが礼儀と世間と言うものを知らん。
敵対はアヤ様の望む所ではない、俺がしっかり見張らねば……。
「おいジキト!いつになったらトレントとやらの所に着くんだ!!」
「さっきからもう少しだと言っているでしょう。
辛抱出来ない方ですね……これだから豚頭は……」
「てめえ!もう1回言ってみろ!!」
ほら、目を離すとすぐこれだ。
「やめろ、お前達。
争わない為の交渉に向かう途中で俺達が争うなど笑い話にもならん。」
まったくこの二人は仲が良いのか悪いのか…。
アヤ様はよくおまとめになられたものだ。
こんな調子でしばらく森を歩き続けていた。すると少し空気、とでも言おうか森の雰囲気が変わった。
「きましたね。ここから先の木はトレントが混ざっています。」
ジキトも何かを感じたのか真剣な表情を浮かべてそう言った。その時。
「やっとか!!おおおおおおいいい!!!!
トレント共ぉぉぉぉ!!族長を出せぇぇえええ!!」
この馬鹿者……やりおった……。
「何の挨拶も無しに族長を出せだと?」
「何様のつもりだ!!」
「失せよ」
口々に罵声が森の奥の暗闇から飛んでくる。
「すまない!非礼を詫びさせてくれ!!
この者にはきつく言い聞かせる!!我等はアヤ様の使いで参った。族長殿に会わせて頂きたい!!」
俺は素早く馬鹿の変わりに頭を下げ声を張った。
「まったく……ゴル……貴方のせいで必要以上に下手に出なければならなくなりましたよ…。」
ジキトも頭を下げながらゴルを横目に見て言った。
「め、面目ねえ…。」
ゴルも不味いとは察したのか頭を下げ俺達にも謝罪する。
こいつの憎めないところは妙なところが素直だ…。
俺達がそうしている間も木々はざわついていた。
すると奥の大樹が割れ、メキメキと音をたてながら徐々に人型になっていく。やがてそれはとても、とても大きなトレントとなった。正直恐怖を感じる程の大きさと不気味な形相。まるで大樹がそのまま人になったような。
「我が族長、イーファである。お主らは何用で参った?」
そのトレントが声を発する。どうやら族長らしい。
「申し遅れた!俺はアヤ様傘下のウルドと言う。
こっちのゴブリンがジキト、オークがゴル。
今日はそちらに話を持ってきたので聞いて頂きたい!」
「なるほど、噂の人間の…。
傘下に入れと言う話か?ならば受けさせてもらう。」
な、何!!?
まさかこんなすんなり!!何か企んでいるのか…。
「失礼ですがイーファ殿、何故お受けして下さるのですか?」
ジキトが口を開いた。どうやら同じ事を思ったらしい。
「疑うか、簡単な事だ。
元々我等は食料が要らぬ。太陽と土、あとは雨があれば生きていけるのだ。
つまらぬ争いに巻き込まれたく無いだけよ。」
トレントの返答にジキトはすかさず返した。
「私達の仲間となれば行軍していただく事もあるでしょう。
それでもよろしいのですかな?」
「構わぬ。言ったであろう。つまらぬ争いに巻き込まれたく無いのだ。
お主等の噂は聞いておる。つまらぬ争い等ではなく、かつての2人の王の様に大儀の為に争うのならば力を貸したいと思っておった。それが前王の遺言故。
近い内にいずれ我の方から出向くつもりだったのだ。」
ジキトはこちらを見て頷く。トレントの言葉に嘘は無いと踏んだのだろう。俺も同感だった。その立ち振る舞い、言葉や口調は堂々としており嘘を言ってるような気配は無い。
「了解した!感謝する!アヤ様もそろそろ戻られる筈だ!
俺達も戻る!良ければ一緒に来られるか?」
「ああ、無論だ。だがその前にアルラウネの所に寄らせてくれ。
あれ等も力になってくれるだろう。
見た目は可憐だが強力なトゲがある。」
アルラウネ、実物も見た事無ければ話もそんなに聞かないが。まあ力になってくれると言うなら喜ばしい事だ。
「分かった!ではそちらへ向かおう!!」
そう言ってそれからトレントに案内されて向かったのは森の奥の湖だった。
「クラン、噂の者達が来おったぞ。」
イーファが湖の前でそういうと湖の近くに咲いていた大きな花々が動き出し、花弁から人の上半身が生えてきた。
「まあ!あなた達が!?待っていたわ!!
トレント達から話を聞いてから、いつ来るのか、いつ来るのかと楽しみにしていたの!」
大きな花弁から生えた人の上半身はとても愛らしい少女のような見た目だった。フワッとしたショートカットにクリクリとした大きな目。そして少し薄めの唇から可憐な声が漏れそう言った。
「貴女がアルラウネの族長で?」
あまりに華奢な見た目の為思わず確認を入れてしまう。
「ええ!そうよ!これから噂の人間の元へ行くの?
私も是非ご一緒したいわ!!」
アルラウネの族長、クランと呼ばれていたか。クランはほんとうにとても嬉しそうな仕草でそう言う。
俺は本当に連れて行っていいものか少し不安になってさりげなくジキトに視線を向けた。するとジキトが耳打ちをしてくる。
「まあ構わないでしょう、敵意をまったく感じません。」
まあ確かに敵意は感じないが……。いや、もう連れて行くしかないか。
「分かった!ではこれから向かうとする!着いてきてくれ!!」
あっさり過ぎたな、軍も要らなかった。
まあ簡単に進むに越したことは無いか。でも少し気がかりな事がある。トレント達は噂を聞いていると言った。俺達は新体制での生活や今後の軍備、その他様々な準備で多忙だった為山からは誰一人出ていない。噂が流れるにはあまりにも早すぎるのだ。まあその噂のおかげで今回は助かったのだが。もし戦力も知られているのだとしたら他の地方の交渉も楽になるだろう。何せこっちにはペル殿がいらっしゃる。とは言え噂の出処が分からないのは少し危険な気がする。俺達以外に勢力合併を知り、尚且つ噂を流せる者…。
俺は少し思考を巡らせ、思い当たる連中に辿り着いた時少し頬が緩んだ。
なるほど。敵対していた時は鬱陶しくて仕方無かったが存外気が利くものだな。流石に長く生きていないか。
俺は考え事が解決し、イーファやクランと簡単な決まり事等を話しながら森から山へ戻ってきた。
「アヤ様はまだ戻ってねえみたいだな!手こずってんのか!」
「あちらは地形が地形です。会うだけでも一苦労でしょう。」
「すまない、アヤ様はまだ戻っておられないようだ。
今日はここでゆっくりしてくれ。」
ゴルとジキトの言う通りアヤ様はまだ戻っていないらしい。俺は一言詫び、夕食を用意させる。
どうやらアルラウネは食事が出来るらしい。
まあトレント同様必要はないみたいだが……。
そしてトレントはやはり夕食は食べられなかった。
食事のあと族長で集まり話し合いを行う。
「アヤ様が成功して戻ってこられれば、これで俺達の勢力は7種族となる。
そうなれば魔物の統一もトントン拍子に進むだろう。」
「そうですね。他のゴブリンやオークは完全に時間の問題。
近場で厄介なのはリザードマン、ワイバーン、ドラゴノイド辺りでしょうか…。」
ジキトにクランが明るく返す。
「あら!リザードマンはきっと大丈夫よ!
彼等は私達に大きな借りがあるわ。恩返しがしたいと言ってたからきっと力を貸してくれるよ!」
「おお!それは助かりますな、クラン殿!」
本当に助かるな。それだけでもクランを連れてきた甲斐があった。
「じゃあリザードンは解決か?後はそのワイバーンとドラゴノイドぐらいか?
まあそれも楽勝だろう!」
ゴルがガッハッハッと笑いながら大声でそう言うのを俺が窘める。
「調子に乗るな。ワイバーンとドラゴノイドは個体こそ少ないが強力な力を持つ者が多いと聞く。古くから生き、人間への恨みを強く覚えている奴等も多いだろう。説得には骨が折れそうだ。その他にも一応和解し、どうやら影で手伝ってくれているみたいだがまだ白狼も仲間になった訳ではない。少ないとはいえ他の種族もまだいるのだ。」
自分で言ってて気が遠くなる…。一体後どれだけかかることやら。
頭を抱える俺にイーファとクランが頼もしい言葉をかけてくれる。
「森の方は任せよ、我等がなんとかしよう。」
「私もリザードマンを説得した後、森の方を手伝うわ。」
やはりトレントとアルラウネ。二種族一気に増えたのは大きいか。少しだが兆しが見えてきた。
アヤ様も喜ばれるだろう。無事だといいが。
少し心配をしながら話し合いを続け、
俺達は王の帰りを待ちながら眠った。




