m14.古き魔物
渇いた大地に出来た大きなヒビのような谷。アタシらハーピィはそこを住処にしているが厄介な隣人が居る。グリフォンだ。渇いた大地には食べ物が少ない。向こうも減った頭数が徐々に増えてよっぽど苦しいんだね。毎回追い払うのに苦労するよ。
「レイラ様!また奴らです!グリフォンが攻めてきました!」
アタシの部下がそう叫ぶ。やれやれ、面倒な事だね。サクッと追い払おうかい。
「戦える奴は全軍迎撃するよ!でも無理はしないように、死んだら何も残らないさね。」
アタシはみんなにいつも通りの指示を出してグリフォンとの戦闘の為谷から飛び出した。
正直グリフォンの先代は戦うとなると辛かったけどね。昔と比べると頭数も減ったし今の族長は相手にならないさね。
アタシはサクッとグリフォン達を追い払い、住処へ帰る。と思ったんだけどまた部下から報告が入った。
「レイラ様!新手です。どうやら我らの谷にヘルライガーと人間がやってきた模様!数は二、どうなさいますか?」
おやおや、これは珍しいお客さんだね。話は聞いてた。会ってみたかったところだよ。
「このまま迎える。谷へ降りるよ。」
アタシは全軍にそう告げ、谷へ向かい降下していく。
すると懐かしいヘルライガーの姿とその背中に乗る人間が目に映る。これはなんとも面白い組み合わせだね。
珍しい客の姿に、つい数日前に来た、また珍しい客を思い出す。
数日前、白狼がアタシの元へ来た。こいつは昔っからの知り合いでね。腐れ縁ってやつだがあの日以来、怒りで狂っちまったのか姿を消していた。そんな奴がいきなりひょっこり現れたんだ、あれは驚いたね。その口にした内容にも驚いたが。
「白狼、アンタ一体今まで何してたんだい?急に姿を消したと思ったら急に現れて。言っとくが見ての通り食料なら分けてやれないよ。」
「勘違いするな。腑抜けた貴様と違って食料には困ってない。今日は貴様にとって面白い話を持ってきてやった。」
こいつは明日槍でも降るのかね。昔から馴れ合わない奴だったがわざわざ話をしにここまで来たのかい。
「面白い話?珍しい事もあるもんだね。姿をくらましてる間に冗談でも覚えてきたのかい?」
「茶化すならこのまま帰るぞ。貴様は聞くと喜ぶと思ったが。」
なんだい、相変わらずつれないね。
「冗談が通じないのは相変わらずだね。どうやら覚えてきた訳じゃ無さそうだ。それで、その面白い話ってのを聞かせてくれるかい?」
そう言ってアタシは白狼に自分のクセでもある両手を上げるジェスチャーをして話を促すと白狼は気が乗らなさそうに話し始めた。
「最近ヘルライガーと一人の人間がこの辺りの魔物を制圧し、傘下に収めている。近い内、ここにもやってくるだろう。」
ヘルライガーと人間…。まさかまた人間がヘルライガーを利用しようとしてるってのかい。
「その目的は?まさかあのヘルライガーは結局人間の手駒にされたってのかい?」
アタシは過去を思い出し、少し表情が険しくなった。だが白狼がそれを否定する。
「違う。どうやら特殊な人間でな。魔物の言葉を理解し、話す。双方話した上で決めたらしい。また、人間と魔物の平和を作るんだと。」
こいつは驚いた。にわかには信じ難い話だね。魔物と話せる人間なんてのは。そしてその希少な人間がかつての王族、ヘルライガーと手を取り、またかつての平和を築こうとしてるってのかい。
アタシが思考を巡らしていると白狼が続ける。
「信じ難いだろうが直接この目で見て実際に話してきた。大層な理想論を掲げた愚か者だ。だが、既にいくつかの魔物達を傘下に収め大勢力となっている。それも、言葉だけで説き伏せてな。そして……我等一族はその理想を見届ける事にした。」
な、人間に対して抑え切れない怨みを持ったこいつが。一体どういう風の吹き回しだい。人間と魔物との平和を唱える人間なんてすぐに噛み殺すとか言って飛んでいきそうな勢いだったってのに。
アタシは驚きを隠せなかった。でも少し話を聞いて何か、こう上手く言え無いけど感じるものがあった。
「その人間、信用出来るのかい?」
アタシは真剣な顔で白狼にそう言うと白狼は少し鼻を鳴らして答えた。
「近い内ここにも来ると言っただろう。その目で見極めるがいい。我はもう行く。ワイバーンとドラゴノイドにもこの話を伝えにな。」
ワイバーンとドラゴノイド。ジルとキアナのとこかい。なるほど、こいつは魔物達にこうやって先に話を伝える事でその人間を手助けしてるって訳だ。すっかり人間の味方だね。
「食い殺されないように気を付けるんだね。あの二人はこんな話聞きたくも無いだろうよ。」
アタシはそう言って白狼を見送った。
そして今、ついにその人間とヘルライガーがあたしの縄張りへとやってきたらしい。用件は分かってる。見極めさせてもらうよ。
「見ない顔だね。グリフォンの手の者じゃあ無いみたいだけど。ヘルライガーと人間か。話だけは聞いた事あるね。さて、大体の予想はつくけどアンタ達は何しに来たんだい?」
アタシの質問に来客者が谷に響く大きな声で答えた。
「ウチはアヤ!ハーピィの族長に会いたいねん!」
アヤってのかい。どうやら魔物と話せるってのは間違いないらしいね。
「族長に?それは今アンタと話してるアタシだよ。
ハーピィの族長、レイラ。
それで、アタシになんの用だい?」
アタシの言葉にアヤが答える。
「グリフォンとの争いをやめて欲しいんや!
あとウチらの仲間に……」
アタシはそういうアヤの声を遮った。言い出しといてなんだけど立ち話ってのもね。
アタシはアヤ達に谷の奥に来るように促し、先へ住処へと戻った。正直言って第一印象は悪くない。臆する事無くハキハキと話し、真っ直ぐな瞳を向けてくる。何故か味方をしたくなってしまうような、そんな不思議な雰囲気を纏っていた。
アタシは網膜に映った人間とヘルライガーの姿を思い返しながら谷の奥で待っていると二人はやってきた。
向き合ってこれまでのいきさつ、目的を話すアヤ。魔物を統一して人間と平和を作る手伝いをして欲しい か。
答えは一目見た時から決まってる。何より、魔物の言葉を理解する人間と人間の言葉を理解する魔物、この二人が協力して平和な世界を作ろうとしてる。かつての平和な時代を知る者の中にこれを聞いて何も感じない者は居ないだろう。
でも、たった一つだけ聞きたい。
「話は分かった。見た通りここは何も無くてね。アタシ達も苦しくなって来てたところさ。
そこにグリフォン共を追い払う手間が無くなる上に食料を分けてくれるなんて言うなら大歓迎さね。
でも一つ気になる。ヘルライガー、アンタはそれでいいのかい?
今更人間と仲良くしようだなんて。」
アタシはかつての平和が崩れ去った日を思い、ヘルライガーにそうたずねた。そして、その答えは一切の間を置くことなく返ってくる。
「無論だ。今アヤと共にいる事が答えだろう。」
ヘルライガーはアタシを真っ直ぐ見つめてそう答えた。アタシはヘルライガーとアヤを交互に見る。この二人はきっと人間と魔物だなんて境界は全く気にもしてないんだろうね。
こんな二人ならきっと、きっとやってくれます。王様。貴方の意思はきっとアタシ達が。
今は亡き、王とその妃の姿が二人に重なる。微力だけど、アタシも少し手伝うよ。
「…………どうやら愚問だったようだね。
良いだろう!アタシ達ハーピィもこれからアンタ達の傘下に加えてもらう!!
よろしくね、アヤ様。」
アタシはそう言ってウインクと笑顔を投げかけるとそれに応えるように満面の笑みを浮かべて
「ありがとう!助かるわ!
こっちこそよろしくな!レイラ!!」
と言った。これは可愛い王様だね。アタシがしっかり守ってやらないと。もう二度と同じ事は繰り返さない。今度こそ理想を現実に変えてやるよ。だから、どうか見守っていてください。王様。
アタシは新たな王に忠誠を誓い、古き王にも再び誓いを立てた。




