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異世界ALIVE  作者: 路地裏
23/41

m10.相思


 最悪や……やってもうた。

 ウチは人質、周囲には狼の群れ。


 前足で腕を抑え込まれて動く事もできん……。



 ペルが白狼に向かって牙を剥き、喉を鳴らして威嚇の唸りをあげる。


 「安心しろ。傷付けるつもりは無い。

 貴様が動かなければな!!」


 白狼がペルにそう言うんと同時にペルに向かって周囲の狼達が飛びかかった。


 狼達がペルに噛み付き、爪をたて、また噛み付く。



 ペルはされるがまま、一切動かんと白狼を睨むばかりだった。




 そのままどれぐらい時間が経ったか。日が完全に沈み辺りが暗闇に包まれる頃、ウチを人質にとられて抵抗もできんペルはボロボロで、でもそれでもまだ立っとった。



 「ペル!ペル……!!もうええって!!

 やってまえ!!そんな奴ら一瞬やろ!!

 なんでやり返さへんの……!!



 ……やり返してや……お願い……やから……。」



 ウチは泣きながら叫び続け、疲れて枯れた声で途切れ途切れになりながらもずっと叫んどった。ついに喉が切れ、血の味が口の中に広がる。それでも叫ばずにはいられなかった。



 「ふふふ、、アヤ、なんて顔をしている。

 そんな顔で魔物を束ねていく気か?

 しっかりしろ。この程度私はなんともない。

 それに、お前も言っただろう、私は、最強なんだ。」


 白狼を睨み続けていたペルはウチに視線を移し、優しい声でそう言って少し笑った。





 その身体には無数の傷、ウチが好きなかっこええ黒い毛並みも血でドロドロ。


 痛いはずや、苦しいはずや、やのに微塵もそんな素振り見せんとただ、、真っ直ぐに立っとった。


 喉に、足に、胴に、翼に、あらゆる所に狼が噛み付く。

 でも静かに、真っ直ぐこっちを見て堂々と立っとった。




 ウチは涙越しにその姿を見ることしかできん。




 悔しい悔しい悔しい悔しい

 ウチの、ウチのせいや。会話がしたいとか、両方に犠牲が出んようにしたいとか、あまっちょろい事言うとったせいで……。


 最初っから話し合いなんてせんと倒す気でみんなで来てたら、きっとこんな事にはならんかった。


 あげくに敵に捕まって、一番の親友を……



 自分が許されへん。覚悟が足りんかった自分が。








 ウチが溢れて止まらない後悔に流され続けているその時、ペルが少し……ほんの少しだけよろけた。



 白狼はそれを見て気が緩んだのか、ウチの手を抑える力を少し緩めた。



 ウチはすかさず白狼の前足から右手を外し、近くの石を掴んで白狼の目に叩き付けた。


 唸り声をあげ白狼が上半身を反らす。

 白狼が怯んだ、その隙にウチはすぐ立ち上がって距離をとった。



 その瞬間、少し距離の空いたウチと白狼の間に真紅の炎が走った。

 ペルがウチらを引き離そうとして吐いた炎。


 ウチも炎に怯んで思わず顔まで腕を上げる。でも腕を下ろしたそのすぐあとには、気付いたらペルはもうウチの隣におった。



 「よくやった。アヤ。」


 ペルはそう言って微笑みかけてくれる。


 「ごめん、ごめん……!ごめんな……。

 ウチのせいでこんな……ボロボロに……。」


 ウチは泣きながらペルのたてがみに顔を埋めてて言った。


 「大丈夫だと言っているだろう。それよりも、


 狼共。まだやる気か?」


 ペルが鬼の形相で睨む。



 「…………。」


 たじろいで周囲の狼達は少し退る。

 そしてそのまま何も言わず走り去って行った。






 狼達が見えなくなって少ししてから、ペルが倒れ込んだ。


 「ペル!?大丈夫!?待っとって!!今からすぐみんな呼んでくるから!!」


 ウチは慌てて駆け寄る。


 「待て。少し休めば大丈夫だ。」


 「で、でも……」


 「大丈夫だと言っている。それよりアヤ、お前ひどい顔だぞ、みんなに見せてやりたいぐらいだ。」



 ペルはそう言って笑う。





 ウチは……その酷い顔でペルの事をじっと見つめてた。

 ペルもそんなウチを見つめて言った。



 「……無事で……良かった……。」


 ペルのその言葉でウチの中の色んなもんが爆発した。

 自分への苛立ちとか、悔しさとか、恐怖とか、申し訳なさ、


 そしてペルの優しさ、色んな感情が混ざって堪えきれんかった。


 ウチはペルに顔を(うず)めて子供みたいに大泣きした。











 枯れたはずの涙がまた枯れるまで泣いてようやくウチは落ち着いた。

 ウチが泣いてる間、ペルはなんも言わんかった。


 「ごめんな!もう大丈夫や!守ってくれてありがとう!」


 そう言って笑顔を作ってみせる。


 「………アヤ。何故お前はそんなに争いが嫌いなのだ?

 所詮は他人事であろう?普通は放って置きそうなものだが。」


ペルがそんなウチを見て真剣な声で聞いてくる。あんまりしたい話やないけど答えへん訳にはいかんな。

 ウチはポツリポツリと話し始めた。


 「………ウチのオトンとオカンな、死んでもうたんや。

 オトンはいっつもウチとオカンに暴力振るっとった。

 昔は優しかったらしいんやけどな。


 ほんである日オトンがいつもみたいにオカンを殴ったんや。

 ほんならとうとうオカンは怒って包丁持ち出してオトンの事刺してまいよった。

 刺されたオトンは血を流しながらオカンから包丁奪ってオカンの事刺した。


 まだウチは小さかったからなんも出来んとずっと泣いとった。

 近所の人が気付いて来てくれる頃には……もう……二人共……」


 今でもその光景は目に焼き付いて離れへん。感受性の高い幼い頃の強烈な記憶。思い出すだけで言葉に出来んいろんな感情が湧き出てくる。


 「その事件が広まってな。ウチは学校ではイジメられて二人が死んでもうてから引き取ってくれた親戚にも冷たい扱いされとった。鬼の子、殺人者の子ってな。



 ただ、ただ…。そうやな。寂しかったんや。

 だから、みんな仲良くできるんやったら仲良くしたい!

 もう誰かが争うんは……二度と見たくないんや。」


 ウチは事件以来だれにも言った事ない過去と心の内を明かした。


 「そうか………そうだな。」



 ペルはそれだけしか言わんかった。


 「なあペル、ウチも聞いていい?」


 「なんだ?」


 「羽、怪我したんやろ?なんか気になって……」


 あの時はなんとなく気まずくて話逸らしたけどウチはもう一回聞いてみた。



 「………私もアヤと少し似ている。

 私の種族は昔、私の他に二体いたのだ。それが私の父と母。

 当然人の言葉を理解でき、人間と交流もあったらしい。


 そして、魔物の頂点。全ての争いを収めた平和の象徴だった。」


 「それって……今ウチらが……」


 驚いた。ウチらがやろうとしてた事をペルの両親がやってたなんて。


 「そうだ。魔物を束ね、人間を襲わせなかった。

 そして人間にも魔物を襲わせなかった。


 ……だが、私が生まれた事でそれも終わった。

 愚かな人間達が父と母を罠にかけ、私を捕獲しようとしたのだ。

 まだ生まれて間もない私なら言いなりに出来るとでも思ったのだろう。


 力に目が暗み、平和を捨てた。


 いくら最強種とはいえ所詮生き物。汚い罠にかけられ、為す術もなくボロボロにされてしまった。

 だが父と母はそのボロボロの身体で私を逃がし、そしてその後に死んでしまった。

 その時に負った傷で私は今も飛べないのだ。


 それから人間は自分達の暮らしを豊かにするべく森を焼き、資源を奪い、領土を広げた。魔物達は怒り、怨み、人間を襲った。人間もそれに反撃するべく魔物を襲った。

 かつて一つになっていたはずの魔物たちは人間に奪われて減った少ない自然と食料を求めいずれ仲間内でも争いを始め、今に至るという訳だ。」


話してくれたペルの表情は少し、ほんの少しだけ曇っていた気がする。


 「だから、、ウチとペルが一緒におんのに驚かれたり、

人間が嫌いな魔物が多いんか……」


 「そういうことだ。」


 なんて、なんて悲しい話や。ウチら人間は欲張り過ぎてせっかくの平和も捨ててしもうたんやな。


 「ペルは……人間を憎まへんの?」


 

 「憎んだ。だがそれも昔の話だ。お前と出会う頃には憎み疲れてたんだろう。助けてやろうと……そう思った。」

 

 優しい。ペルはほんまに優しい。親の仇のはずやのに見殺しにもせんかった。きっと親譲りの優しさなんやろう、そう感じた。


 「ペルは……優しいな……ウチいっつも助けられてばっかりや……。」


 ウチはまた少し罪悪感に見舞われた声でそう言った。

 するとペルは首を左右に振りながら予想外の答えをくれた。


 「そんなことは無い。むしろ助けられたのは私の方だ。」


 

 「なんでや、ウチはペルが居らななんにも出来ひんし……

今日やって……」


 迷惑かけてばっかりの自分に嫌気がさしてくる。

 そんな私を諭すようにペルが少しづつ話し始めた。


 「私はな……孤独だった。


 幼いままに両親を失い、魔物に話しかけても相手にされず、人間にも相手にされない。

 平和を終わらせたきっかけは不吉で……恐怖だ。

 私が生まれて来なければずっと平和な世界が続いた。皆そう思っただろう。

 だから誰も口を聞いてはくれなかったしこの力を恐れていた。


 だが私はそれでも構わないと思っていた。このまま独りで死んでいくのだろうと。」



 違う、ペルは不吉とか、恐怖とかそんなんちゃうのに。平和が終わった時一番悲しかったんはペルやのに。

 ウチは話しているペルを抱きしめるようにギュッと掴みながら聞いていた。


 

 「だがな、その長い孤独の時間の中、妙な人間と出会ったのだ。

 その人間は私を怖くないと言い、笑顔を見せ、私をも笑顔にしてくれた。


 初めてだった。私と対等に話し、相手をしてくれる者は。


 それから様々な場所に連れて行かされ、おかげで様々な奴等と仲間になれた。



 独りでただ彷徨うだけのあの時は分からなかったが孤独とは、地獄だったのだ。


 そして……お前が私をあの地獄から連れ出してくれたのだ。


 改めて礼を言う。アヤ、助けてくれてありがとう。」



 ペルはそう言って微笑んだ。



 その言葉でウチはまた泣いた。

 もうとっくに泣き尽くしたはずなのに涙が止まらない。

 いっつもワガママばっかり言うて迷惑かけて、今日やってこんな怪我させてもうた。

 ウチはペルになんにもしてあげれてない、それどころか邪魔なんやって思っとったから。


 嬉しかった。ペルがそう思ってくれてた事が。それを話してくれた事が。



 「これからもずっと!ずっと一緒や!!

 ウチがペルを独りになんか二度とさせへん。」


 ウチは涙を拭いて満面の笑みを浮かべてまた約束した。





 「……ああ。私もたとえ何があろうとアヤの味方だ。」





夜も深く、月が笑い、冷たい風が吹く。それでもここは暖かかった。




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