m8.白狼
「じゃああとは頼むわなー!」
そう言ってウチは明るい日差しの中オークとゴブリン達に手を振る。
ウチらはゴブリンとオークを無事に仲間にした後、次の種族に会うために山のふもとを目指しとった。
なんでも族長達が言うには山のふもとにはオーガっちゅう種族がおるらしい。
ウチらはこれからそのオーガっちゅうののところに、ゴブリンとオークを襲わんように頼みに行くとこや!
ペルは風を裂き、山を一気にくだって、聞いていたオーガの集落まで駆ける。
思ったよりも結構近くてすぐ着いた。
少し開けた場所にいくつかの家らしきもの。そんなオーガ達の集落の真ん中へ速度を殺さず突入し、急に立ち止まると砂埃がまう。その砂埃の奥から何事かと次々にオーガ達が現れた。
「すんませーん!!族長さんっていてはりますー!?」
大声でそう叫ぶと奥からやっぱり一際でっかいのが現れた。
「俺はウルド。ここの族長だ。一体なんの用か?」
ウルド?名前あんのか!
ペルが無かったからてっきり無いもんやと思っとった。
ほんじゃあゴブリンとオークにもあったんか!
聞きそびれてもうたなー……!!
そんなことを考えるもすぐ気を取り直す。
「ウチはアヤ!今日はお願いがあって来たんや!」
ウチは山の上でゴブリンとオークが協力して暮らしていく事。
あとそこに争い仕掛けに行かんといて欲しいってことを一生懸命ウルドに伝えた。
「ふむ。興味深いな。良いだろう。約束する。
そもそも俺達は今攻めたくても攻められない。狼共が厄介でな。停戦は願ってもないぐらいだ。」
なんか拍子抜けなぐらいすんなり受け入れてくれたな。なんかよっぽど困ってんのか。
「狼?オーガ程の種族がそんな獣に苦戦していると?」
ペルが不思議そうに言う。オーガってそんな強いんか。
「ただの狼じゃない。どうやら知性のある個体が最近この山に来て動き出したらしくてな。
群れの奴等も、そいつに引っ張られるように進化して今じゃ言葉も話す。
もう立派な魔物だ、あれは。たまにここを襲撃して食料を奪っては自慢の足ですぐに逃げる。困ったもんだ。」
ウルドは心底困っていると言った感じで話してくれた。
そーなんや、大変なんやな。
よし、なんとかしたるか!
「じゃあウチらが行って、やめるように言うてきてあげるわ!!」
「無駄だ、やめておけ。俺達も何度か話そうとしたがダメだった。
あの狼共、会話は出来るが話の分かる奴等じゃない。」
ウルドが諦めたように首を横に振りながら言う。それに向かってペルが言った。
「残念だったな、ウルド。このアヤもまた、その話の分からん奴だ。」
諦めたような、微笑んでるような顔でペルがそう言い終わると
「そういうこと!!はよ行くでペル!」
そう言ってウチは笑顔でペルに飛び乗った。
「まったく……朝から山を駆け回る身にもなって欲しいものだな。」
ペルは呆れた様子やったけど、ウチらはそのままウルドに大体の場所を聞いて狼に会いに行った。
ウルドに聞いた場所は木々が濃くて光が入りづらく、暗い。
「この辺りからやってくるらしいが……いないな……。」
「やっぱあそこ右やってんって!ペル方向音痴やなあ!」
「お前は少し黙っておけ。」
しばらく軽口を叩きながら周囲を歩いていると、大きくて黒い影がいきなり飛びかかってきた。
ペルを飛び越えて背中に乗ってるウチの方に飛んでくる。
ウチに当たるギリギリの所でペルがステップで躱してくれて助かった。
「あっぶな!!なにすんねん!!」
黒い影の方へとウチが叫ぶと
「ニンゲン、ナニシニ」
そんな声と獣の低い唸り声が辺りから聞こえてきた。
気付いたらウチらは黒い影、いや、、狼達に囲まれとったみたいや。
「囲まれたか……まずいな……。ここまで気配を消せるとはオーガ共が手こずる訳だ。アヤ、こいつ等の狙いは私ではなくお前だ。
こう囲まれると無傷で守りきれるか分からん。」
隠しとるけど少し焦った様子でペルは言った。
「やるって決めた時から危ないんはわかっとる。
それでも、、、やるって決めたんや。」
ウチは決意を込めて言い放つ。
「そうか……。だがここは一度退くべきだろう。体勢を立て直して出直すべきだ。」
そう言うペルにウチは一歩も譲らない。
「大丈夫やって!なんとか説得するわ!
それにウチにはペルがおるしな!だって最強なんやろ?」
そう言って笑顔を見せるとペルが折れた。
「まったく……危なくなればすぐ走るぞ。
いつ走っても落ちないように構えておけ。」
軽口を叩いたあとウチは頷いて叫ぶ。
「ウチはアヤ!!なんでオーガを襲うんや!!」
すると奥から唸り声をあげながら一回り大きくて他の黒い狼とは違う白い狼が出て来た。
「人間。何故人間がここに。ここで何をしている?
とっとと失せるかその首噛みちぎらせろ!!」
まるで咆哮をあげるようにその狼は叫んだ。その眼光は睨むだけで人を殺す勢い。でもウチも引かれへん。
「聞いてんのはこっちや!なんでオーガ襲うねん!!
答えへんのやったらウチも答えへん!!」
強気で切り返す。それに対して
「そうか、その首要らんらしいな!!」
白い狼がそう言った瞬間、周りの狼が一斉に飛びかかってきた。
ペルは一気に加速し、その勢いで前方の二体を体当たりで弾いてそのまま距離をとる。
「狼共よ。この人間に傷一つでもつけてみろ、私の爪と牙で、貴様等一匹残らず引き裂いてくれるぞ。」
ペルが白狼に負けない眼光で周囲を威圧するようにそういった。
「……何故ヘルライガーが人間の味方をする。
人間は我等の敵であろう!!」
今すぐにでも飛びかかってぶつけたいであろう怒りを押し殺して白狼が返す。
「………この人間は違う。それだけだ。
現に私達の言葉も理解し、上のオークとゴブリン共も従えてみせた。」
ペルがそう言い放った途端、白狼は押し殺した怒りを剥き出しにした。
「なんだと!?恨みを忘れた引きこもりが珍しく外に出たと思えば人間等と共にいる。その上さらにデタラメを……。魔物が人間に従う訳がない!
それに人間は人間であろう!言葉を理解したからなんだと言うのか!」
怒り狂う狼を諭すように静かな声でペルが告げる。
「言葉が分かれば……会話ができよう。」
その言葉を聞いてか少しの沈黙が訪れる。
ペルが会話のチャンスをくれた。すかさずウチは
「なんでオーガを襲うんや?食べ物に困ってる訳でも無いんやろ?」
そう尋ねた。
「…………従えるためだ。オーガの力は役に立つ。食料を奪い、衰弱させれば簡単に道具となろう。我等がこの山を制圧するためのな。」
白狼はしぶしぶと言った感じで答え始める。
「制圧?なんでそんなんすんの?」
ウチが聞くと驚きの答えが返ってきた。
「我等が魔物共を統一し頂点に立つ。そして、魔物同士の争いを無くし!憎き人間を始末する!!」
ウチは呆気にとられた。そらそうや。
途中までウチがやろうとしてる事とまったく一緒。
ただ最後のセリフは見過ごせん。
「人間を始末やてぇ?途中まではわかるわ!でもなんで人間襲うんや!?」
「人間は魔物の敵だ。かつての友好を一方的に裏切り、そのあげく自らの利益の為に、いや、それだけにならず我等魔物を見かければ特に意味は無くとも襲ってくる。
そして、我等の住処を好き勝手荒らし、侵略するのだ。
もはや許せぬ。かつての我等が魔物の王の望みは重々分かっておるがこのまま見過ごせば数に負け、必ず我等は滅びゆくであろう。」
白狼がそう言うとペルがほんの少し、ほんの少しだけ寂しそうに言った。
「そうか。人間に住処を追われここまで来たのか。」
「そうだ!かつての王の言葉に従い散々堪えて来たが住処を奪われ、同胞も殺された。もはや許せん。
そこの人間もヘルライガー、貴様さえ居なければ、今すぐにその喉笛、引き裂いてやるものを……」
そう言いながら最後までこちらを怒り狂った瞳で睨んで狼は去っていった。
ウチには狼を呼び止めれんかった。
あの狼とウチ。違うところは人間への怨みだけで魔物の争いを無くして助けたい、それは一緒や。
でもウチは人間……どないしたら……
ひとまず交渉に失敗したウチらはオーガ達の集落に戻る事にした。戻ってきたウチらをウルドが出迎えてくれる。
「無事だったか。狼共はどうだった?」
聞いてくるウルドになるべく明るく答える。
「全然あかんわ!人間嫌いすぎやろ。あれは説得しんどいなー……!」
ウルドはやはりそうかといった感じで続けた。
「まあ魔物の中では珍しくは無い。過去のこともある。
むしろ人間が好きな魔物の方が珍しいだろう。」
「そうなんか……。せやけどどうするかなー……あれはほんまに大変やで…。」
「そうだろう。倒すにも素早くて簡単では無い。
俺達も手を焼いている。」
作戦会議をしながら時間が過ぎる。
これといった良案がでんと時間だけが過ぎとった。
そんな行き詰まったウチらの元に突然1人のゴブリンが走ってきた。
「アヤ、オオカミガキタ、タスケテ」
ゴブリンは息も絶え絶えに必死にそう告げる。
「なんやて!!すぐ行く! ペル!!!」
「とばすぞ。しっかり掴まれ。」
ウチが呼ぶのとほぼ同時にペルがウチを背中に乗せてそう言う。
ペルは一気に加速して木々をすり抜け、山を駆け昇る。
全速力で向かった先には狼達と睨み合うオークとゴブリン達がいた。
「おいあんたら!!今度はこっちか!!なんのつもりや!!」
叫ぶと同時にゴブリンとオーク達から声が上がる。
「おお、アヤ殿、ペル殿よくぞお戻りに……」
何人か傷を負ってるみたいや、その中にいた族長が声をかけてくれる。
「……しつこい人間だ。」
走ってきたペルとウチを見てそれだけ言い残し、狼達はまたすぐに去っていった。
こりゃたまらん……やっと追い付いたらまた逃げられるんかいな……。
しばらくするとウルド達が援軍に来てくれた。
戦闘になっとったら手伝ってくれるつもりやったらしい。
ウチらは狼達についてみんなで頭を悩ませるばっかりやった……。




