m3.最強ツンデレ
とてつもない空腹に襲われ目を覚ます。
昨日溜まりに溜まった疲労のせいで嫌がっとる体を無理矢理起こして洞窟の入口の方に目をむける、そこには昨日のライオンが戻ってきとった。
なんかちょっとだけ、夢やったんちゃうかなって、そんな気もしとったんやけど、やっぱ現実らしい。
それにしてもでっかいライオンやなー。
その気になったらウチなんか一口で喰われそうや……。
それでも何でかあんまり怖いとは思わんかった。
ライオンはウチが目を覚ましたんに気付くとアゴで洞窟の端を指した。
ライオンが指した方を見てみたら、これまたでっかいトカゲの死体が転がっとった。
なんやこれ。ライオンといい、このトカゲといい、この辺りにはこんな化物みたいな生き物しかおらんのかとウチが呆気にとられていると
「食え。」
ライオンの方から突然そう聞こえた。
!!!!?
なんやこのライオン!喋れんのか!!異世界ってみんなそんな感じなんか!?
次々起こる突然の出来事に戸惑っとったらライオンはトカゲを咥えてこっちに向かってくる。そして早く食えと言わんばかりにウチの目の前に落とした。
「い、いやちょっと待って!わざわざ獲って来てくれたとこ悪いけど、ウチこんなん食えへんって!」
呆気にとられとったけどなんとか我に返って慌てて断った。
「そ、そうか。ならば人間は何を食う?」
ウチが断るとライオンはなんだか戸惑いと少し残念そうな表情で問いかけてきた。
「せやなー、まあ焼いたりしたらこれも食えるかもしれんけど……。」
ウチが答えたら今度はライオンが呆気にとられて硬まった。
しばらくの沈黙のあとライオンが言葉を紡ぐ。
「人間……私の言葉が分かるのか?」
ありえへんもんを見るかのような失礼な視線。
「分かるも何も普通に喋ってるやん。」
「「……?」」
ウチが返すとまたしばらくの静寂。
どういうことや、話が噛み合わん。
ライオンが言うには今まで人間に話しかけても言葉を理解されず、怖がられて逃げて行くだけやったらしい。
それどころか他の知性があって会話出来る魔物にも避けられとったとか。
てかこの世界にも人間おんねんな、良かった。
とりあえずウチがここに来た経緯と、ウチがもらった能力について喋ったら半信半疑みたいやけどいちおう信じてくれた。
「あ、そうや!まだお礼言うてへんかったな!
助けてくれてありがとう!ほんまあん時は死ぬかと思うたわ!」
ウチは笑顔を浮かべて話す。
「べ、別に助けた訳ではない。
ただの………暇潰し! そう、暇潰しだ!」
こいつまさか、この見た目でツンデレなんか?
話しかけるだけで逃げられるような見た目でツンデレなんか?
あー、まあしっかし腹減ったぁぁ……。
もうずっとなんも食ってへんもんなー……。
腹がぐぅ~って悲鳴をあげとる。
「焼けば食えるのか?」
ライオンはウチの腹の虫を聞いてかそう尋ねてきた。
「あー、多分。毒とか無かったらやけど。」
でも火なんか起こされへんしなー。
「そうか。」
ライオンはそう言うとトカゲの肉を噛みちぎり、
ちぎった肉に向かって、その大きな口から火を吹いた。
その火が肉を焼き焦がしていく。
「う、うわあぁぁ……。す、凄いやん……!かっこええなあぁ……。」
あかん、ビックリしてちょっと引いてもうた。
「ふふふ、この程度、最強種たる私には造作もない。
さあ、食え。食い終わったら人間がいる所まで乗せてやる。」
引きつったウチの言葉に得意げに喉を鳴らすとそのライオンはそう言い放った。ていうか最強種って。
「あ、ありがとう。」
ちょっとどもりながらお礼を言ったものの…。
いやトカゲ焦げてんねんけど
そもそもこれほんま食えんのか?まあでもしゃあない……。もう腹も限界や、食っとくか。
そ、そうや。こういうゲテモノは大体意外と美味いねん。
意を決して一気に齧り付く。
まっずうううう!!
ちゃんと火通ってないし、表面は焦げてるしでめっちゃまずい。
いやでも、なんかあのライオン、ウチがこれ食べてんの見て喜んでるみたいや…。
横目に見ながら尻尾バンバン振っとるで……。これ食い切らんとあかんやつか……。
ウチは覚悟を決めて一気に食い切った。そして……
「ご馳走様!めっちゃ美味かったわ!!ありがとうな!!」
少し涙目になりながらも満面の笑みで告げる。
「そうか、そうか。まだ肉はある。もうひと…」
「あー!待って待って!!
もうおかげさんで腹いっぱいや!食い切られへんわ!」
ライオンが言い終わる前に速攻で阻止する。
「そうか……人間は胃袋が小さいな。」
あっぶな!
あんなまずいもん、もう一個出されても食えんかったわ……。
「ならもう行くか……。」
ライオンはまた急にウチのセーラー服を咥えて空中に放り投げ、背中で受け止めた。
「ちょっと!この乗せ方なんとかならんの!?」
ライオンの毛がクッションになるとはいえ普通に怖いわ。
「ワガママなやつだ……。連れて行ってやるだけありがたく思え。」
そう言うとライオンは駆け出し、洞窟を抜けた。どうやらさっき話してた人間がいる町に連れていってくれるらしい。
「なー、町ってどんぐらいで着くん?」
洞窟を出て少ししてから聞いてみた。
「人間の町までかなり遠い、私の足でも結構かかるぞ 。」
遠いんかー。まあそら人間はこんなとこ住めへんわな。
「そうかー……。あ! そうや!あんた名前なんて言うの?」
いつまでもライオンじゃ不便やし命の恩人や。ちゃんと聞いとかな。
「名前などない。あっても呼ぶ者もいないしな。
種族名はある、ヘルライガーと言われてる。」
「へー、そーなんや。呼ぶ人おらんって家族とかは?」
「…………いない。」
しまった、なんか悪い事聞いてもうたか……
話題変えんと……。せや!ええ事思いついた!
「あ、せやせや!ほんならウチが名前付けたるわ!」
ウチの提案にライオンは驚きつつも馬鹿にしたような口調で返す。
「何を馬鹿な……呼ばれる事も無い名前になんの意味が……」
ライオン言い終わる前に強引に話を進める。
「まあええやん!!えーっと…ヘルライガーやろ?
ヘルライガー…ヘル……」
すぐ思いついた
「よし!じゃああんたの名前は今日から『ペル』な!!
よろしくな!ペル!!」
「はあ……。まったく、好きにしろ。」
呆れながらも承諾してくれた。
話してみたら、いや初めて見た時からなんとなくあの子と似てる気がしたからあえて、おんなじ名前にした。
初めて会ったんもおんなじ大雨の日や、なんか縁があんのかもしれんな。
「なあペル、なんでウチの事こんな面倒みてくれんの?」
そう言えば初対面やしここまでする義理なんかないはずや。
「言っただろう、暇潰しだ。」
どこまでツンデレやねん。
「暇なん?最強種とか言うとったのに?」
「最強だから暇なのだ。私が他の種族に近づくと皆怖がってしまう。
だからあの誰もいない荒野を住処にしていた。
そこに急に現れたのがお前というわけだ。」
なんや!ただの寂しがりやん!!よし!決めた!
「じゃあウチがこれから一緒におったるわ!!
町行くんやめよ!どっかちゃうとこ連れてってや!」
ウチもペルともっと一緒にいたい。完璧な提案や!
「バ、バカな事を言うな!お前は人間だろう。
人間と暮らすのが一番だ。」
秒で断られた…いや、そうかもしれへんけど…。
「でもペル、寂しいんちゃうん?」
「寂しくなどないわ!そ、そもそもお前は私が怖くないのか?」
表情は背中の上からは見えへんけどそう聞くペルはやっぱり寂しそうに見えた。
だからウチは全開の明るい声で応えた。
「怖ないで?ペルめっちゃ優しいやん!」
ウチがそう言うとペルは少し照れてるのか詰まりながら返してくる。
「や、優しくなど……
まったく……変わった人間を拾ってしまったものだ……。」
なんかちょっと可愛いな!怒りそうやから言わんけど。
「だがダメだ。やはり人間と暮らすべきだろう。」
ウチがすっかりその気で浮かれとるとまた拒否された。
「えー、嫌なん?独りより絶対楽しいで!!」
「い、嫌な訳ではないが…「じゃあ決まり!はい決定!!もう今更嫌や言うてもついてくからな!」
ここぞとばっかりに言葉を強引に遮った。ウチの得意技や。
ペルは漸く観念したのか
「………まったく、好きにしろ。」
呆れたながら、でも少し嬉しそうな、そんな不思議な声色でそう言ってくれた。
「やったああ!!ウチの名前彩って言うねん!
よろしくな!ペル!!」
こうして、ウチらの旅は始まった。
もう雨なんかとっくに止んでる。霧も晴れた。
ウチの心はまるでこの晴れ渡った空みたいに清々しかった。




