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ヤクザと召喚師  作者: 緑一色
ガラム武術大会編
37/38

怪物

久し振りに続きを

ジルの両手のナイフが宙を舞った。


一瞬の隙を突かれてジルはライアックに武器を弾き飛ばされた。



ジルはそれでも怯まずに思考し、ライアックの両腕が左右に開かれている、つまり隙が出来た事に気付く。


「やあっ!」


ジルのミドルキックがライアックの腹に入る。

ライアックは少し顔を歪ませたが、追撃を避ける為に後ろに下がった。


「油断したよ、まさか蹴り技まで使えるとは」


「まあね。

勝負はこれからだよ」



と、ジルは強がってみせたが実際のところナイフを落とした時点でジルの負けは確定している。


少し前に戦ったイワン、彼に勝ったとはいえども彼の攻撃でどうやらジルは臓器の幾つかに傷がついたらしく動きが鈍い。



それに気付かないライアックではなく、先ほどから深入りはせずに徐々にジルの体力を削るような攻撃を仕掛けてきている。


自滅を狙っているのは明白だった。



ライアックが動く。

しかし、狂助がその出鼻を挫いた。


狂助はライアックの腕を背中側にねじってそのまま押し倒した。


「ジル、助けが遅れて悪かったな」



ジルは安堵した表情を浮かべた後に笑いながら言う。


「遅すぎだよ、キョースケ。

悪いけどあたしはちょっと休ませてもらうよ」



右手をひらひらと振りながら歩み去っていった。



それを見送り、狂助はライアックに語りかける。


「さて、これでお前の得意の召喚も出来ない。

しかし、この態勢のままだと俺もお前もガードに捕まっちまうんだな。

それならばこの腕を放してお前を開放しなきゃいけない」


ライアックはゆっくりと頷く。



「その通り。

だからさあ、僕を開放しろ。

その瞬間にお前の体は僕の余りのナイフ全部を使って蜂の巣になるのさ」


「おいおい、誰がこの腕を離すなんて言ったよ」



ライアックがはっと気づく。


先程からオレンジの髪の少女がいない。


今、ライアックの目に映っているのは召喚師の少女、魔法使いの少年、それに壁にもたれ掛かっているナイフ使いの少女のみ。



サーベル使いの少女はどこに消えたのか。



「やれ、ネイク」


狂助の呼びかけと同時にライアックの体に激痛が走った。


「ぐっ・・・・・・お前、何を?」


「俺は死なない。

例えサーベルを突き刺されようが、何をされようが。

でも、お前はどうだ?」



再びライアックの体に激痛が走った。


ライアックが短い悲鳴を上げる。



「いつまで持つかな?」


ネイクが連続でサーベルを狂助の背中に突き立てる。

その度にライアックの悲鳴は大きく苦しいものになっていく。



「おい、ネイク」


狂助がうつ伏せたままネイクに呼びかける。



「次は傷口を抉れ。

そろそろ単純な悲鳴にも飽きてきた」


ネイクは少し目を細める。

そして、狂助に尋ねる。



「私は構わんのだが、狂助殿は大丈夫なのか?」


「自分の苦痛なんぞこいつの悲鳴を聞くだけで吹っ飛ぶぜ」



そう言って下卑た笑い声を上げる狂助にネイクは恐怖した。


味方に剣を突き立てられる自分よりも危険な化け物が狂助の中にはいると悟った瞬間だった。



それでも躊躇っているネイクにエレナがそっと歩み寄り、口を出す。


「無駄ですよ。

狂助さんは私達の誰よりも狂っていて、それでいて強いんですよ。

理解しようとすることは時間の無駄だし、従わないのも命の無駄です」


狂助にはエレナの言葉は聞こえていないらしく狂助は未だに下卑た笑い声を上げ続けている。

ネイクは目を背けながら狂助の体に剣を突き立て、そしてその傷を抉った。

抉る度に呂律が回らないのかライアックの悲鳴が途切れる。


思わず剣を離して両耳を塞ぎたい衝動に駆られたが、寸でのところでネイクは耐えた。


体の震えが止まらない。


恐怖によるものなのか、それともサディスティックな快感にも似た高揚感からなのかはネイクには理解しかねた。









ネイクが剣を刺すのを止めた時に既にライアックの精神はズタボロだった。


口角を僅かに上げて、顔の筋肉を震わせている。

しっかりと握っていたはずのナイフはとっくに地面に落ちていた。



「まあ、こんなもんだろうな」


狂助は言い終えてライアックの頬を殴った。


倒れ込んでも尚ライアックの笑顔は消えていなかった。



狂助はネイクに目を向けた。


ネイクは息を荒げており、とっくに抜いたはずのサーベルを何度も何度も空に突き刺すように振っていた。

狂助はネイクの肩を軽く叩く。


ネイクは急に我に帰ったようにサーベルをしまった。



「どうだ?突き殺す感触ってのは気持ち良かったろ?」


ネイクは狂助をキッと睨みつけた。


「ふざけるな!

人の気持ちも知らずに・・・・・・私は、1人の人間に何度も剣を突き立てた」


「1人ってのは俺か?あいつか?

別に大した話じゃない。オーバーキルってのは良くある話さ」



狂助は一同を見渡し、口を開く。


「さあ、逃げようぜ。

急がないとあのストーカー野郎に捕まっちまう」



ちらりとライアックに目を向ける。


彼は未だに他のガードの援護に回っていた。

だが、もうすぐ終わるだろう。



狂助が言い終えると片桐組の面子は1人また1人と歩き出した。


そして、部外者のジルと狂助のみがそこに残った。



「お前はどうする?

行くか?逃げるか?」


ジルは逃げなかった。

自分の体の寄生虫も取り除いてもらわなければならない。


しかし、ジルはこの時に既に気付いていた。

狂助が自分に目を付けている事を、そして自分を見逃すつもりが無い事も、そしてジル自身この男についていくのが楽しみな事も、その方が利益がある事も。



「勿論」


ジルはそう言って狂助を追い抜いて片桐組の輪の中へと潜り込んでいった。

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