表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤクザと召喚師  作者: 緑一色
ガラム武術大会編
35/38

泣き笑い

憤慨した直久がライアックとの距離を詰めた。

そのまま俊敏な動作で剣を袈裟に振り下ろす。


ライアックは後ろに跳んで直久の剣をかわした。


無防備な姿の直久に2本のナイフが飛んで行く。


1本は直久の剣によって、もう1本は直久の服に着いた血によって弾かれた。


直久は服に着いていた血を鉄に変えたのだ。



「血の鎧か!」


直久はその場で剣を振るう。


すると、剣に着いていたグリフォンの血がライアックの方へと飛び散る。


「そんな安い手に・・・・・・」


ライアックは目の前に1匹のオークを素早く召喚した。

急ごしらえの召喚だったので体は小さいが、それでも盾としての役割は十分に果たされた。


直久の剣から飛んだ血はライアックのナイフ並みの鋭さを持っており、オークの顔面へと突き刺さった。



オークはこの世のものとは思えぬ悲鳴を上げて絶命した。






直久の能力はこの短時間でかなりパワーアップしていた。


血の鎧やオークへと飛ばした血のナイフ。


彼は先ほど血に触れることなく能力を行使できた。

しかも自分の手を離れた状態でも能力の効果が持続されるようになった。


これによりさっきのような鉄と同じ強度を持った鋭い血を相手に飛ばしたり、自分の服に着いている血で鎧を作ることが可能になった。




この間、エレナ達とてただ突っ立ていた訳ではない。



ライアックの頭上に雷の矢の雨が降り注いだ。


ライアックは避ける間もなく串刺しになったというのに平気な顔をしていた。


狂助ほどではないにしろライアックはジン以上の身体回復能力を持っている。

所々で火花放電が起きている傷口は見る見るうちに元の皮膚に治っていった。



最も傷の深かった左肩に触れようとライアックは右手を伸ばした。


次の瞬間、ライアックの肘から下が消えた。



「おっ?」


すぐにライアックはまだ痛む左手でナイフを持った。

すぐそこにネイクの軍刀の刃が迫っていたが、ギリギリ受け止められた。



ネイクは自分の剣が片手で受け止められた事に少しばかり目を丸くした。


ライアックはナイフの刃先を返すことでネイクの力のベクトルをずらした。

突然、反発がなくなった為ネイクはバランスを崩した。



その隙にライアックの腕ならばネイクの命を刈り取る事も出来たが、彼は右腕の回復に努めた。


その甲斐あってか彼の右腕は元に戻った。



「ゼブラスの雷矢らいしでも私の剣でも動じずか・・・・・・」

「そうら!さっきの剣でこいつを倒せるかな?」


ライアックの目の前に魔方陣が描かれる。

魔方陣が光ると同時にグリフォンが現れる。


「させません!」



エレナがグリフォンの足元に魔方陣を描く。


すると、グリフォンの姿はエレナの魔方陣の光と共に綺麗さっぱり消えてなくなってしまった。


エレナがグリフォンを逆喚したのだ。




そして、ライアックの目の前にはかなり大きな空間が出来上がった。


ネイクがその空間に割って入ると同時にライアックに切りかかる。

ライアックは寸でのところでネイクの剣を受け止めた。


「うぐう!!」



ライアックの腹部を氷の刃が貫通していた。

ゼブラスの氷刃ひょうじんである事はライアックにも良く分かった。


腹に刺さった氷を引き抜こうとしたその瞬間、再びライアックの右腕は宙を舞った。




















直久が喉のナイフを引き抜いた事によって狂助はようやく口を利けるようになった。


しかし、確かに狂助の発声器官は復活したものの、だからといってすぐに自由に喋れるという訳でもない。

狂助の喉を襲う痛みはまだ止みそうにない。

途切れ途切れの空気の通るような音が出るだけだ。



「大丈夫か?

すぐに自由にしてやる」


直久は右腕、左腕と時間をかけてナイフを抜いた。


幸いライアックは他の3人の相手が忙しくて自分たちはノーマークであるように見えた。



狂助がまともに喋れるようになったのは左腕のナイフを直久が引き抜き終えてからだった。



「1本取るのに何分かかってんだよ」


「は!ようやく口を開いたと思えばそれか」



直久は左足のナイフを力を込めて素早く引き抜こうとした。


狂助は苦痛に耐えかねてうめき声を上げた。



「ゆっくり抜けって言うんだろ?」


「良く分かったな」


「短い付き合いだが一応舎弟だしな」


「なら敬語くらい使え馬鹿」



狂助は直久にそう悪態をつきながらも直久の手に自分の自由になった手を据えてナイフを抜く手助けをした。




左足のナイフを抜き終え、直久は手の汗を拭った。


右足のナイフを抜くのは直久の休憩が終わってからでも良い。

狂助にしては珍しい呑気な考えだった。



「あいつらは大丈夫か?」


狂助の居る位置からは直久の体が邪魔でライアックと3人の子供たちが見えない。


しかし、時折ネイクの掛け声やライアックの呻きが聞こえるのでこちらが優勢ではあるのだろう。



「3対1だし、心配無いさ。あいつら強いな」


「俺の組の組員だぜ?当たり前だ」


何時の間にか狂助の子供たちへの心配は減っていた。

当初は彼らの戦闘能力を知らなかったからというのもあったが、狂助は昔見た戦争映画で少年兵が戦うのを見て心を痛めたクチだった。


その為か彼はいつも子供たちに危険な目に遭わせたくないと思い、自分が前線に立っていた。



それが今ではもしかしたら二宮組の仲間達よりも信頼しているかもしれない。


狂助はそう思うとこっちに来てから随分と時間が経ったと今まであった事を追想した。

そして、いつものように自嘲気味に微笑んだ。




狂助は直久が長い息を吐き、項垂れたのに気づき、追想を止めた。


直久は急にしみじみと語り始めた。



「エレナは良い子だな。

気も回るし頭も良い。ちと腹黒いけど。

あの3人娘の中で一番俺好みなのはこいつだ。

良い女になるぞ、あいつは」


「は?頭でも打ったか?」



直久は狂助の問いには答えずに右足のナイフに手をかけた。


「もう少し休憩してろって」



狂助は軽く直久の肩を押した。

しかし、何の反応も示さずに直久はナイフを抜きにかかり始めた。


その間も彼の口が閉じる事はなかった。



「ゼブラスは人見知りが激しいのか?

俺、結局まだあいつとまともに会話してないな。

まあ、あいつの人見知りを治すのは組長のお前の仕事か。

優しくしてやれよ」


「あいつのは人見知りってもんじゃねえよ。そ」


「ネイクの剣の腕は凄いよな、ありゃ。

俺のにわか剣術じゃ100年経っても勝てないだろうな。

で、こいつも少し人見知り・・・・・・と言うよりは・・・・・・何なんだろうなあれは。

とりあえず女の子なんだからもうちょい可愛らしい口調で話せば良いのに」


直久の耳に狂助の言葉は届いていなかった。

その証拠に狂助の言葉を遮って、ずっと口を動かし続けている。


ただ伝えたい事のみを伝える、まるでロボットのようだった。


しかし、人間は機械じゃない。



機械には出せない温かみのある声が狂助の鼓膜を伝う。


「ジルか・・・・・・あいつも何だかんだ言って寂しがり屋だな。

かと言ってあんまり直接的な優しさをぶつけても反発されるだけだ。

そういう意味ではゼブラスと似てるな。

まあ、あいつがお前に着いていくと決まった訳じゃないが」


「お、おい直久」



直久は右足のナイフを完全に引き抜いた。


これで狂助は晴れて自由の身となった訳である。



ナイフを引き抜くと同時に直久はそのナイフを取り落して倒れ込んだ。


その時になって狂助はようやく気付いた。




直久がもうすぐ死ぬという事に。


彼の背に4本ものナイフが突き刺さっていた。

そのどれもが致命傷になり得る程、深々と突き刺さっていた。



「直久・・・・・・お前、もしかしてさっきからずっと」



「狂助!!」


直久は一際大きな名前で自分の認めた男の名を呼んだ。

狂助は無言で続きを待った。



「別に俺はお前に会ったからこんな痛い思いをすることになったとか、お前のナイフを抜くのを手伝っていたせいで油断していた隙にナイフが突き刺さってそれでも放っておいて逃げる事が出来なくて腹立たしいとか、逃げられたらもうちょい長くこの世界に居れたとか・・・・・・。

そんな事はどうでも良い。

ただお前のピンチを救ったお前の何倍も勇敢で格好良くて強い男としてお前の歴史に名を刻みたいと思ってる」



「直久・・・・・・。

違う、まだお前を歴史年表に載せるつもりはない。

お前は俺と最後の最後まで兄弟として一緒に戦った男として俺の歴史年表に載せるつもりだ!

勝手に歴史を書き換えるんじゃねえ!!」


「馬鹿、何倍も勇敢で格好良くて強い男ってのが抜け」


言い切る前に直久は言い切る前に咳き込んだ。

塞いだ両手にはおびただしい量の血がこびりついていた。


「あーあ・・・・・・喋り過ぎたな」



直久はゆっくりとそのまま目を閉じた。



狂助はその目を無理矢理開かせようと瞼に手をかけた。

だが、寸でのところで止めた。


仕事を終えた直久の顔は後悔など微塵も感じさせないような笑顔だった。



この表情を壊してはいけない。


狂助の中の本能がそう告げていた。























ライアックは背後からの殺気を感じ、振り返った。


殺気の正体は自身の愛用のスローイングナイフだった。

直久の背中を射抜いたものでもあり、狂助を磔にしていたものでもあった。



ライアックがそれを確認した瞬間、それは喉元に突き刺さっていた。



声が消える。


ライアックの一瞬の狼狽と恐怖の表情が結果として狂助を怒らせる引き金となった。


狂助の上段前蹴りがライアックの顔面を潰す。



だが、狂助はライアックを仰向けには倒させない。


ライアックの体を抱き寄せると俯せに思いきり押し倒す。



地面を槌代わりにしてナイフという名の釘はライアックの喉の更に奥へと突き進んだ。


ライアックが悲鳴を上げようとしてもそれは叶わなかった。

発声器官が機能していないのだから。



「喉を切り裂かれたくらいで狼狽えてんじゃねえよ。

こちとらそれ以上の痛みを体験してきたってのに自分はその痛みを知らないってのか?おら、何か言ってみたらどうだ?」



ライアックが垣間見た狂助の表情は泣き笑いだった。



兄弟を失った悲しみとその復讐を自分が行える喜び。

2つの感情が混ざり合っていた。


「どうしたんだよ?来いよ、俺が死ぬまで殺してみろ」



ライアックの恐怖心を煽るように狂助は言い放った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ