表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤクザと召喚師  作者: 緑一色
ガラム武術大会編
34/38

イワンの馬鹿

先に動いたのはジルだった。


右上段回し蹴りをイワンの側頭部に放つ。


「へっ!」



イワンは涼しい顔でジルの足を受け流す。

しかし、ここまえはジルの計算通りだった。


往なされた右足をそのまま地に着ける。

そして、右足をそのまま軸にして左足で綺麗な弧を描いた。


ジルの左の踵がイワンの蟀谷に当たり、イワンは体勢を崩した。


その隙を突いて、ジルは右のナイフをイワンの腹に突き刺した。



イワンは不思議そうにナイフの刺さっている箇所を見つめている。


「ガードってのも案外名ばかりみたいね。さようなら、イワン」

ジルは冷やかにそう告げた。


しかし、一向にイワンは動かない。

本来ならば後ろに倒れこむはずだというのに。


それどころかイワンは何が可笑しいのか笑っている。


最初は小さかった笑い声も次第に大きくなり、遂には通路全体に響き渡る大声に変わった。



黙って聞いていたジルも段々と不安になってきた。


「その品のない笑いを止めて」


苛立ちを含んだ声でジルはイワンに言った。


「やめる?嫌に決まってんだろ!」



絶命寸前の男の声にしてはかなり元気があった。


ジルは更に体の奥深くにナイフを突き刺す。

しかし、どれだけ奥に刃先を刺し込んでもイワンの笑い声は止まなかった。



ジルはようやく違和感を感じた。

イワンの体を見て。


イワンの腹部はまるでゴムのように後ろに伸びていた。


伸びた腹部に写るシルエットは言うまでもなくジルのナイフだった。



「そうら!」


イワンの裏拳がジルの額を叩いた。


元から華奢な体つきのジルは腹部からの謎の反発も加味されて、大きく飛んだ。


地面を転がりながらジルは吐血した。



イワンはジルを見てサディスティックな笑いを浮かべていた。


「ナックルダスター・・・・・・」



ジルは呟いた。


ナックルダスターとは拳にはめて打撃力を強化するための武器であると誰かに聞いた事があった。


それが誰だったかは意識が朦朧として思い出せそうにない。



それでもジルは立ち上がった。

体中に激痛が走っており、本来ならば起き上がるだけでもかなりの労力を使うと言うのにジルはそれを感じさせない程素早く起き上がった。

体の動きは少しぎこちないが目だけは活きが良く、じっとイワンを見据えている。


イワンが少し機嫌を悪くしたようにジルには見えた。



「その通り。

じゃあ次の問題。俺の体を確かに貫いたナイフ、それなのに俺が生きている理由は?」


ジルは短く咳き込んだ。


口を抑えた手には血がべったりと着いていた。



「それも答えは分かってるよ。

護謨体ウィンピーの能力でしょ?

確か体の一部をゴムのように伸び縮みさせることが出来るものだったはず」


「正解。

まあ分かったところで意味は無いんだけどな」



イワンはジルとの距離を詰める。


ジルは接近してくるイワンへの牽制の意味を込めて、蹴りを放った。

イワンはそれをかわして左拳を後ろに引いた。


咄嗟にジルはイワンの攻撃を受け止める為に右のナイフを構えた。

しかし、ジルが痛みを感じたのは左のわき腹だった。


「いっ・・・・・・?」

「若いなー、お嬢ちゃん!

こんな安いフェイントに引っかかるなんてよ!」



そのままイワンはジルの顎にアッパー気味の拳を浴びせる。


ジルは再び地面に倒れ込んだ。



イワンはそこからマウントポジションを取ろうと考えたが、ジルの立ち上がりが早かった為それは叶わなかった。

イワンが一歩下がった所を狙ってジルは顔面に蹴りを入れた。


しかし、イワンはその衝撃を自分の顔をゴムの様に柔らかくすることで吸収してしまった。


ジルは素早く足を引き、イワンと距離を取った。


イワンは敢えてそれを追わなかった。



「・・・・・・かかってこないの?」

「そんな安い手に乗るかよ。カウンター狙ってるのがバレバレだ」


しばらく2人はそこから動かず黙っていた。


やがてイワンが右回りに動きながら口を開いた。



「そういえば時間は良いのか?

早く俺を倒して賞金を持って帰らないとお前の体の中はグチャグチャになるぞ?」


ジルはそれに対応するかのごとく左回りに動き出した。

自然に両手のナイフを腰に差した。


イワンはそれを見逃さなかったが、ジルが素手にした理由が分からなかった。



「こんな美少女がグチャグチャになるのが見たくなかったらさっさと消えて」

「誰が嫌だなんて言ったよ?

俺はそういうのは大好きだぜ?」

「変態」


イワンは進展の無い押し問答に苛立ちを見せ始めた。


「良いから来いよ」

「嫌って言ったら?」


両手に着いたナックルダスター同士を何度もかち合わせる。

それがイワンの腹が立った時の癖だった。



ジルはそんなイワンを馬鹿にするように相変わらずイワンの動きに合わせてしか動かない。

決して自分から先に動こうとはしない。



イワンの馬鹿



口に出さずともジルがそう言っているのは明白だった。


ジルは口角を吊り上げ、宣言した。



「よし、行くよ!」


その顔はまるで喉に詰まっていた魚の骨が取れたような、そんなすっきりとした顔だった。



ジルはイワンに向かって走る。

イワンは両腕を少し前に出し、構えた。


左からの蹴りは右のナックルダスターで、右からの蹴りは左のナックルダスターで、正面からの蹴りは体をゴムに変える事で対処できる。


イワンはそう高を括っていた。



事実、イワンの構えには死角が無いように見えた。


「やっ!!」



ジルの攻撃手段が蹴りのみならば。


ジルの放ったアッパーがイワンの顎に突き刺さった。

イワンのだらしなく垂れていた舌が地面に落ちた。


イワンは声にならない叫びを上げながら、口から滴り落ちる血を必死に両手で掬った。




サバットの基本戦術は何も蹴りのみにある訳ではない。


その神髄はむしろ両拳にある。

離れた位置から蹴りで相手を圧倒し、混乱している相手の懐に飛び込み拳で確実に相手の体力を削る。



イワンはそれを知らなかった。



ジルは静かに微笑んだ。


「こんな年端もいかない女の子にボコボコにされて悔しい?

リベンジならいつでも受けるよ。だから今は早く止血を」


ジルは言葉を切り、上体を右に反らした。

イワンの拳は空を切った。


「動かなければもう少し長生きできるのに」


これがジルの最後の忠告だった。



しかし、怒りのみで動いているようなイワンの今の頭では今の言葉は挑発としてでしか取ることが出来なかった。


血走った眼をジルに向けるとイワンはジルに我武者羅に拳を突き出した。


ジルにはイワンの考えの感じられない拳の行き先が手に取るように分かった。




ジルは前へ大きく跳躍した。


イワンの頭を飛び越えた直後に後頭部へと蹴りを入れた。

1度倒れ込んだイワンだが、再びジルへと血と涎を吐き散らしながら走ってきた。


「・・・・・・仕方ないか」


ジルの右上段回し蹴りがイワンの側頭部に入り、イワンはよろけた。

そこからジルはイワンの懐に入り込み、腹にワンツー。

イワンはより盛大に吐血した。

更にイワンの喉に綺麗なハイキックが入り、ついにイワンの目には白しか映らなくなった。


ジルはイワンの頭を両手で掴み、それを自分の元へ引き寄せる。

と同時に右膝を突き出した。


ジルの最も得意とする技、膝蹴りだった。



骨が砕ける音が響いた。


それっきりイワンは動かなくなった。



「・・・・・・やっぱり人を殺すのはどうしても好きになれないな。

いくら自分の身を守る為といえども」



ジルはふとそう呟き、宝物庫の扉を開けた。


ふとジルの頭に死んだはずのイワンの体が突然動きだし、後ろから襲い掛かってくるという子供じみた考えが浮かんだ。



その考えを消し去るかの如くジルは中に滑り込み、わざと大きな音を立てて扉を閉めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ