vsグリフォン
ジルを見送ったエレナもすぐに自分の仕事を始めた。
彼女の仕事は召喚によるサポートと実験だった。
「ネイクさーん、ちょっと戻って来てくださーい」
ネイクは少し顔をしかめたが、すぐにエレナの呼びかけに応えるかのように走り出した。
しかし、グリフォンもそれを黙って見てはいない。
ネイクの方に顔を向け、口を開く。
すると真っ青な炎がネイクに向かって放射された。
「え?」
ネイクはその場に一瞬立ち止まった。
だが、すぐに再びさっきより早く走り出す。
しかし、彼女の努力も虚しく炎は段々とネイクに迫っていく。
ネイクのすぐ後ろにあった炎だったが、突如土の壁がネイクとの間に割って入り、炎をかき消した。
その間にネイクはエレナの元に辿り着いていた。
「ゼブラス、すまない!」
「流石に2つ同時はきついな・・・・・・」
ゼブラスは苦々しげにそう返した。
ゼブラスはグリフォンへ氷刃を飛ばすと同時に土壁も発動した。
その負担は普段の魔法の時に掛かるもののほぼ倍だった。
その隙に直久の剣がグリフォンの右足を切った。
しかし、グリフォンの右足には傷はついたものの大した事では無いようで、グリフォンは足元の直久に向けて火炎放射を行う。
直久もそれをかわして再び硬直状態が出来上がった。
ネイクはグリフォンに一瞥をくれると、エレナに話しかけた。
「エレナ殿、どうしたのだ?」
「ちょっと実験台になってくれませんか?」
そう言ってエレナは地面に書かれている魔方陣を指差す。
「何なのだ?これは?」
「まあ、それはお楽しみということで。
それよりグリフォンに弱点みたいなものはありますか?」
「弱点・・・・・・首の辺りは良く刃が通った気がする」
「分かりました」
エレナはネイクの答えを聞くと、グリフォンの首辺りにも自動書記で魔方陣を描いた。
描き終えるまでにかかった時間はおよそ5秒。
その間にネイクはこれから何が行われるかという問いに一つの仮説を立てた。
「なるほど。
あそこに何か重い物を召喚して、グリフォンにダメージを与えるという事か」
「残念ながら違いますね。
前に言った様に重い物でも下手したら法律に違反して罰せられる可能性があります」
「しかし、これも前にエレナ殿が言っていた事であるが今回の場合は特例とされて許されるのでは?」
「その可能性は半々ってところでしょうね。
もしあの悪魔・・・・・・ここではライアックと呼んでおきますが、彼がもし全ての召喚獣を逆喚したとしたら物的証拠は残りません。
ガードの人たちは私達、特に狂助さんを捕まえたいと思っています。恐らく酒場の一件もあるでしょうし、捕まえたいと真に願っているはずです。
よって、ガードの人たちはきっと『テロリストを捕まえたのには感謝しますが、貴方がたの犯罪とは関係ありません』とか言うでしょう。
私ならそうします」
「ではあの魔方陣は一体?」
ネイクがそう言い終わらない内にエレナは彼女の背中を押した。
バランスを崩したネイクは魔方陣へと倒れこんだ。
次の瞬間、彼女はグリフォンの背中に移動していた。
「へ?」
ネイクは珍しく可愛らしい声を上げた。
だが、驚いたのは彼女だけではない。
ゼブラスに直久、それどころかグリフォンですら目を丸くしている。
一番に冷静になったグリフォンは叫びながらネイクを振り落とそうと暴れはじめる。
「うわっ、ちょっ」
ネイクは必死にグリフォンの羽にしがみ付き、腰に挿してあるサーベルを抜いた。
そして、サーベルをグリフォンの首筋に突き立てる。
グリフォンが悲鳴を上げ、更に苦しみ、暴れだす。
踏みつぶされないように直久とゼブラスはすぐにその場を離れた。
さしものネイクも今度の反抗には耐えられずにグリフォンの背中から振り落とされた。
ネイクの落下地点におおよその予想を付けたゼブラスはそこに土壁を出す。
土壁にゆるやかな傾斜をつけることも忘れずに。
ネイクは土壁のお陰で安全に地面に着地できた。
ネイクはまだグリフォンの首に刺さったままのサーベルを名残惜しげに見つめながらもエレナの元へと戻った。
「い・・・・・・一体、何をしたのだ!?」
ネイクは自然と声を荒げていた。
エレナは得意げにその問いに答えた。
「私、逆喚覚えたんですよ」
「そ、それが?」
「つまり今やったのは逆喚と召喚を上手く使い分けたものです。
まずネイクさんのDNAが分かる物、今回は髪の毛を一本頂戴しました。こういうDNAが分かる物を魔方陣に置くと、その人を召喚出来るんですよ。
それで先にネイクさんをどこか別の世界にコンマ一秒だけ逆喚する。
次にネイクさんの髪の毛をゼブラスさんに頼んでグリフォンの背中に描かれている魔方陣の所に置いてもらいました。風の魔法で。
後はあそこにネイクさんを召喚するだけ。分かりました?」
「分かったような分からないような」
「つまりは簡易テレポートです。
ああ、安心してください。犯罪ではないので」
エレナはそう言って赤い舌を悪戯っぽくペロリと出した。
その仕草自体は可愛らしいものだが、ネイクはきっとエレナはこの行為が違法だとしても上手く言い逃れる手段を何十通りも用意しているのだろうと深読みしていた為か寒気がした。
「うおっ!!」
グリフォンの右前足が直久の右わき腹を狙う。
その攻撃を直久は愛用の剣で受け止めたのだが、何度もグリフォンの攻撃を受けて、ひび割れていた剣はついに折れてしまった。
剣によりグリフォンの攻撃の勢いは殺されていたので直久は軽く吹き飛ばされただけで済んだ。
それでも腹部にはグリフォンの手入れの行き届いていない長く鋭い爪による生々しい傷跡が残されていた。
「いててて・・・・・・」
「大丈夫か?」
ゼブラスはグリフォンの両足に氷刃を刺し、動きを止めてから直久の元へと向かう。
「負傷し、剣も折れたんじゃ戦えないな。下がれ」
「あ?誰が負傷して誰の剣が折れているって?」
直久は腹部から流れている血を手一杯に掬い取る。
ゼブラスは怪訝な表情をしながらも黙って直久を見守っていた。
直久は掬い取った血をそっと剣の断面に垂らす。
すると不思議な事に血が垂れていくのに比例して剣は元の形を取り戻していった。
少しずつだが、剣は元の形へと修復されていく。
1つだけ違う点は修復された部分の剣の色は鉄特有の白色ではなく、濃い赤色ということだけだ。
「あとは出血か」
そう呟き、直久は負傷した箇所に手を置く。
あっという間に出血は止まった。
ゼブラスは驚いた顔でそっと直久の傷口に触れる。
「血が・・・・・・固まっている?」
「その通り。俺だって召喚獣としてここに来たからな。
能力の名前は鉄血とか言ったかな?
こうやって触るだけで血を鉄並みの強度に変えるんだよ」
言い終えると、直久は立ち上がり、グリフォンの首に切りかかっていった。
刃が2回ほど通ると、グリフォンは両足に突き刺さっている氷刃を破壊した。
直久とゼブラスが話をしている間にも常に氷を壊そうと奮闘していたグリフォンの努力がようやく実った。
グリフォンは炎を直久に向かって吐きだすが直久は野性的な勘で攻撃を察知し、うまく炎を避けた。
ゼブラスはグリフォンと直久の動きを注意深く観察しながらエレナに狙撃声で呼びかけた。
「直久の能力見てたか?あれをうまく使えば仕留められる。一度こっちに来い」
ゼブラスはエレナが傍に来るとそっと耳打ちをし始めた。




