021話:恋ヶ淵さんの嘘と涙②
逢ヶ埼さんを先頭に歩くこと十数分。俺たちは駅からほど近い場所にあるボウリング場へと到着した。
受付を済ませ、シューズを借りてからレーンへ移動。それぞれが自分に合いそうなボールを選び終えると、あとは画面に名前を登録するだけとなった。
「名前、俺が入れとくよ」
そう声をあげると、三人から特に異論は出なかった。
俺は画面を操作して、順番に名前を入力していく。投球順は一番が陽大、二番が俺、三番が恋ヶ淵さん、四番が逢ヶ埼さん。
すべての入力を終えてゲームを開始すると、頭上のモニターに四人分の名前が表示された。
【ハルカちゃんラブ】
【イオリ】
【マナ】
【ミナモ】
「よし。これで準備完了だな」
「よし、じゃねえわ!」
ボーリング場内に陽大の声が響き渡った。うるさい奴だ、他のお客さんの迷惑になったらどうする。
「なんだよ、うるさいな。どうした?」
「どうしたじゃねえよ! なんだよこれ! 俺の名前だけおかしいだろ!」
「いや、おかしくないだろ」
「ハルカって誰ー?」
当然、逢ヶ埼さんが食いついた。
「ああ、ハルカちゃんっていうのは、こいつが中学の頃から好きなどきどきわくわくメモリアルって恋愛シミュレーションゲームのキャラクター」
「へえー。想川、そういうゲームやるんだー」
「やるけど! 悪いかよ!」
「別に悪いなんて言ってないけどー」
逢ヶ埼さんがケラケラと笑う。
「良いから早く投げろよハルカちゃんラブ」
「その名前で呼ぶな!」
文句を言いながらも、陽大がボールを手に取ってレーンへ向かった。俺はあいつがストライクをとれるように応援するため、ポケットからスマホを取り出した。
「何してんの、いおりん?」
「ちょっと待って」
ウェブブラウザの検索画面を開き【どきどきわくわくメモリアル ハルカ】と入力する。
すぐに目的の画像が見つかった。陽大が愛してやまない、明るい茶髪の美少女キャラクター……よく見ると、ちょっと逢ヶ崎さんに似てるか?
その画像を画面いっぱいに表示すると、スマホをソファ席の背もたれへ立てかける。もちろん、画面は陽大の方へ向けて。
「良し。頑張れー、陽大ー。ハルカちゃんも応援してるぞー」
「やめろぉぉぉ! 集中できないだろ!」
投球姿勢を保ったまま、こちらを振り向き叫ぶ陽大。
「えー、これがハルカちゃん? 可愛いじゃーん」
逢ヶ崎さんの感想を背に受けながら、陽大がボールを投げる。勢いよくレーンを転がっていったボールは中央付近へ入り、ピンを弾き飛ばした。残ったのは、左右に離れた二本。
「あー、スプリットー」
残念そうな声を上げる逢ヶ崎さん。俺はスマホを素早く操作し、ハルカちゃんが泣いているシーンの画像を表示する。
「見ろ、陽大。お前がストライクを取らないせいで、ハルカちゃんが泣いてるぞ」
「もうハルカちゃん弄りやめてくれませんかねえ!」
笑いを堪えているのか、口元に手を当てて肩を震わせる恋ヶ淵さん。その横で快活に笑う逢ヶ崎さん。
そんな二人の姿を背に、想川の二投目。残ったピンを狙いすぎたのか、陽大の投げたボールは無情にもレーンの端へ吸い込まれていく。
「あーあ、ガター」と反応する逢ヶ崎さん。
「想川くん、ドンマイだね」と励ます恋ヶ淵さん。
「スペアすら取れない男なんて嫌いだってさ、ハルカちゃんが」と煽る俺。
「伊織ぃぃぃ!」
「次、俺か」
「無視すんな!」
騒ぐ陽大と入れ替わる形で、選んだボールを手に取る。別に俺はボウリングが特別得意というわけではない。ただ、こういうのは余計なことを考えない方がいい。
「いおりんー。がんばー」
「愛葉くん、ファイト!」
「ガターガターガターガター」
2人の声援と1人の怨念を背中に受けながら投球姿勢を取る。とりあえず、狙ったところへ真っ直ぐ投げる。それだけを意識して助走をつけ、腕を振り抜いた。
ボールはほぼ狙い通りの軌道を描き、そのまま先頭のピンへ。次の瞬間、派手な音とともに十本すべてのピンが弾け飛んだ。
「愛葉くん、すごい!」
「ナイスー、いおりん!」
「ぐぬぬ……決めやがった」
戻った俺を三人が迎えてくれる。陽大、恋ヶ淵さん、逢ヶ埼さんの順に軽くハイタッチを交わした。
「こいつ意外となんでも卒なくこなすから、鼻につくんだよな。勉強もそこそこできるし、運動もそこそこできるし」
「もしかして、いおりんって意外と高スペック」
「ただ器用貧乏なだけだよ」
そんな会話を陽大、逢ヶ崎さんの2人と交わしている間に、次の順番である恋ヶ淵さんが準備に取り掛かっていた。ボールを手に立ち上がった彼女の背中を見つめる。
両手でボールを構え、投球動作へ入る。振りかぶった時点で、恋ヶ淵さんの腕が若干右の方へ寄れた。そのまま投げられたボールは、最初こそ中央付近を進んでいたものの、次第に右へ、右へと逸れていく。
「あっ、待って待って。そっちじゃないよー」
恋ヶ淵さんの願いも虚しく、ボールはガターへ落ちた。
「うーん……難しいな」
恋ヶ淵さんは悔しそうな顔で、髪を指に巻き付けてくるくる弄りながら戻ってくる。
「未萌、どうやったら真っ直ぐ投げられる?」
「んー? うちに聞くより、ストライク取ったばっかのいおりんに聞いたらー?」
恋ヶ淵さんの透き通った瞳がこちらを向いたので、俺は彼女の投球を見て気になった事を聞いてみた。
「恋ヶ淵さん、そのボール何ポンド?」
「えっと……これ」
示された数字を確認する。やっぱり……と俺は納得した。
「重すぎるんじゃないか? さっき振りかぶった時、腕が重さに負けて曲がってたから」
「重い方がパワーが出るかなと思って、持てるギリギリを攻めてみたんだけど」
「無理に重いのを投げると腕を痛めるし、もう少し軽いのに変えた方が投げやすいと思う」
俺は椅子から立ち上がり「ボールを取ってくるよ」と言ってボール置き場へと向かう。
「あ、じゃあ、私も行く」
振り返ると、恋ヶ淵さんが小走りで追いついてきた。
「愛葉くんに選んでもらうなら、私もいた方がいいよね?」
「ああ……まあ、そうだな」
「うん。じゃあ、一緒に行こ」
にこりと笑って、恋ヶ淵さんが俺の隣に並ぶ。
こうして俺たちは二人でボールを選び直すことになった。




