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恋バナ大好き、恋ヶ淵さん  作者: 彩珠那由正
第一部:得恋のジンクス
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23/27

020話:恋ヶ淵さんの嘘と涙①

 あっという間に平日が終わり、約束の日となった休日。


 待ち合わせ場所に指定された新三郷の駅前。ロータリーに設置された掲示板の前では、約束の時間より少し早いにもかかわらず、すでに見慣れた顔がそこにあった。


「……気合い入ってんな」


 思わず、そんな言葉が口から漏れる。先に待っていたのは陽大だった。白いTシャツの上に薄手のシャツを羽織り、細身の黒いパンツに白いスニーカー。髪もいつもより丁寧にセットされている。


 服のセンスは良いんだよなーと感想が漏れそうになる。中身を知っているせいで、残念ながらイケメンには見えないけど。


「よう」


 声をかけると、陽大が勢いよくこちらを振り返った。


「お、おお! 伊織!」

「なんだよ、その反応」

「いや、別に? いつも通りだけど?」

「嘘つけ。めちゃくちゃ緊張してるじゃん」

「してねえよ!」


 声が裏返っている。分かりやすい反応だ。


 陽大は落ち着かない様子で周囲へ視線を向けると、自分の服装を確認するようにシャツの裾を引っ張った。


「なあ、俺の格好変じゃないよな?」

「別に、普通」

「普通ってなんだよ! もっとこう……格好いいとかあるだろ!」

「はいはい。かっこういいかっこういい」

「棒読み! 適当!」

「そもそも、ただ普通に遊びに行くだけだろ。そんな緊張することか?」

「お前なあ……俺がどういう状況か分かって言ってる?」

「好きな女子に好きだとバレた状態で、その好きな女子と遊びに行く状況」

「改めて言葉にすんな! 余計に緊張してきただろ!」


 陽大の気持ちがまったく分からないわけではなかった。ただ四人で遊びに行くだけ。そう考えれば、何も特別なことはない。


 それなのに、俺もさっきから少しだけ落ち着かない気持ちだった。


「おーい! 二人ともー!」


 聞き覚えのある気怠げな声が聞こえ、俺と陽大は同時にそちらへ顔を向けた。駅前の人混みの中から、恋ヶ淵さんと逢ヶ崎さんがこちらへと歩いてくる。


 逢ヶ埼さんは、普段の気怠げな雰囲気に良く似合う、ゆったりとした白いTシャツにデニムのショートパンツというラフな格好だった。足元もスニーカーで、いかにも動きやすそうな服装だ。肩まで伸びた髪も学校で見る時より少しだけ整えられていて、普段の印象を残しつつも、どこか女の子らしさが増して見える。


 その隣を歩く恋ヶ淵さんは、淡い色のブラウスに、足首近くまであるロングスカート。肩からは小さなショルダーバッグを下げていた。前にカフェで会った時も思ったけれど、やっぱり私服姿の恋ヶ淵さんは学校で見る時とは印象が違う。制服姿よりも少し柔らかく見える。


「おまたせー」

「ごめんね。待った?」


 二人が俺たちの前までやってくる。


「いや、俺はいま来たところ」


 そう答えてから、ふと隣を見ると、陽大は逢ヶ埼さんを見つめたまま固まっていた。


「陽大」

「おっ!? お、おう!」

「想川ー、どしたんー?」

「いや!? なんでもないけど!?」

「あははー、声デカー」

「ご、ごめん!」


 駄目だこいつ。緊張をそのままに、逢ヶ咲さんの私服姿を見て舞い上がってしまい、変な感じになっている。今日一日、本当に大丈夫だろうか。


「じゃー、全員揃ったことだしー」


 そんな陽大の心情など知る由もなく、逢ヶ埼さんが片手を高く上げた。


「今日は沢山遊ぶぞー!」

「おー」


 恋ヶ淵さんも楽しそうに片手を上げる。


 陽大も一瞬遅れて「お、おー!」と続いた。


 俺はというと、その光景を眺めながら小さく息を吐くのだった。


 ◇    ◇    ◇


 最初の目的地は、駅から少し歩いたところにあるボウリング場だった。


 久しぶりにボウリングやりたいーという逢ヶ埼さんの一言で決まったらしい。先頭を歩くのは、その言い出しっぺである逢ヶ埼さんと、その隣に恋ヶ淵さん。


 俺と陽大は、その少し後ろを歩いていた。


「なあ」


 前を歩く二人には聞こえない程度の声で、陽大に話しかける。


「ん?」

「あれから、逢ヶ埼さんとはどうなんだ?」

「どうって?」

「お前の気持ちがバレてから」

「ああ……」


 陽大の表情が少しだけ曇った。


「別に、そんな変わってねえよ。教室で会えば普通に挨拶するし、部活でも今まで通り」

「避けられたりは?」

「それはない」

「なら、よかったじゃん」

「まあな」


 そう答えたものの、陽大の表情は晴れない。もしかして何かあったのだろうかと思い、聞いてみる。


「なんかあったのか?」

「一回だけさ、二人で話すタイミングがあったんだよ。部活終わりに、たまたま一緒になって」


 陽大は前を歩く逢ヶ埼さんの背中を見つめながら、言葉を続ける。


「今までは普通に話せてたのにさ。俺は好きだってバレてるし、逢ヶ埼も俺が好きだって知ってるわけじゃん?」

「まあ、そうだな」

「だから、お互いに妙に意識しちゃったっていうか……なんか変な空気になった」


 告白したわけではない。けれど、好意だけは完全に伝わってしまっている。確かに、一番接し方に困る状況なのかもしれない。


「だから今日はさ、普通に楽しめたらいいなって思ってる。変に意識して気まずくなるんじゃなくてさ。前みたいに普通に話して普通に笑って……それで楽しかったなって思ってもらえたら、とりあえず今日はそれでいい」

「……そっか」


 陽大なりに、ちゃんと考えているらしい。それだけ、逢ヶ埼さんに対しては真剣だということなのだろう。


「そういうことなら、今日はちゃんと楽しめるように俺が盛り上げてやるよ」

「伊織……!」

「変な空気になりそうだったら適当に話振ってやるし、お前が緊張して何も喋れなくなったらフォローもしてやる」

「伊織い……!」

「だから、変に気負わず普通に楽しめ」


 陽大がその場で立ち止まった。俺も足を止め、振り返る。陽大は感極まったように両腕を広げて、俺に抱きつこうとしてきた。


「心の友よー!」

「抱きつくな! 気持ち悪い!」

「やっぱりお前は俺の親友だー!」

「分かったから離れろ!」


 抱きつこうとしてくる陽大の顔を、片手で押し返す。


「ちょっとー、二人ともー、何やってんのー?」


 少し先から逢ヶ埼さんの呆れた声が飛んできた。隣では、恋ヶ淵さんが俺たちを見ながら楽しそうに笑っている。


「なんでもない! いま行く!」


 そう返して、俺は陽大を引き剥がす。


「ほら、行くぞ」

「おう! 頼りにしてるぜ、親友!」


 まったく、世話の焼ける奴だと、そう思いながら二人のもとへ駆け寄る。


 今日一日、陽大と逢ヶ埼さんが気まずくならないようにしてやればいい。居心地の悪い空気が流れるのはおれもごめんだ。


 その為に今日は陽大を沢山弄り倒し......もとい、楽しませてやる事にしよう。


 気がつけば自然と、俺の口にはにやりとした意地の悪い……じゃなくて、自然な笑みが浮かんでいた。

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