015話:恋ヶ淵さんと親友の恋②
想川の後を追いかけ、辿り着いたのは体育館裏に設置されたベンチだった。
途中、まだ昼飯を食べていなかったことを思い出して購買に寄ったため、少し時間がかかってしまった。
校舎から少し離れたこの場所は、昼休みでも人の姿がない、地味にお気に入りのスポットだったりする。
「見つけた」
ベンチに座っていた陽大に声をかけると、彼はこちらへと顔を向ける。
「なんだ。追いかけてきたのか、裏切り者」
「だから、さっきから意味が分からん」
俺は陽大の言葉を適当に流しながら「お前、まだ飯食ってないんだろ?」と続ける。
「ん? ああ」
「ほら」
購買で買ってきたパンと紙パックの飲み物を放ると、陽大は危なげなく受け取っては、それらをを交互に見た。
「お、気が利くじゃん。なに? 奢り?」
「バカ。ちゃんと金は回収するわ」
「親友が傷心してるってのに金取るの?」
「何に傷心してるのかすら分からんからな」
「お前の裏切りにだよ!」
「だから何を裏切ったんだよ!」
いちいち付き合っていたら疲れる。俺は陽大の隣に腰を下ろし、自分の分のパンの袋を開けた。
それからしばらく、俺たちは黙って昼飯を食べ続けた。
こうしていると、中学時代を思い出す。あの頃も、こいつとはよく二人でどうでもいい話をしながら飯を食っていた。
「なあ、伊織」
「ん?」
パンを齧りながら返事をすると、陽大が妙に真剣な顔でこちらを見ていた。
「お前さ……逢ヶ埼のこと、好きだったりするの?」
その質問に、俺はようやく想川の気持ちを察しつつ、咀嚼していたパンを飲み込んだ。さっきからこいつが妙な反応をしていた理由は、どうやらそういう事らしい。
「逢ヶ埼さんってさ、可愛いよな」
「――っ!?」
あまりに露骨だった。俺の言葉を聞いて、陽大の肩がビクリと跳ね、持っていたパンが危うく手から落ちかける。
「な、なんだよ急に!?」
「いや? ただの感想だよ。普通に可愛いよなって」
「まあ……そりゃ……うん……可愛いと思うけど……」
ここまで分かりやすい反応をされたら、もう間違いないのだろう。こいつが前に言っていた気になる人とは逢ヶ崎さんのことだ。よくよく考えてみれば、陽大と逢ヶ崎さんは同じバスケ部か。
「……なるほどな」
「な、何が?」
「別に」
「お前、なんか分かったみたいな顔してない?」
「気のせいだろ」
「絶対なんか分かってるだろ!」
うるさいので無視して、残っていたパンを口へ運ぶ。陽大はしばらく俺の顔を疑わしそうに眺めていたが、やがて諦めたように息を吐いた。
「で、どうなんだよ。逢ヶ埼のこと」
「どうも何もないって」
「本当に?」
「何度も言ってるだろ。俺はもう、誰かと恋愛なんてするつもりないから」
「……ああ、はいはい。そうだったわ」
陽大はなぜか呆れたように言うと、紙パックのストローを咥えた。
それから、またしばらく沈黙が続く。俺も残っていた飲み物を口にしながら、明日のことを考えていた。
明日は、二人目の相談者と話をする予定になっている。その相談者こそ、今まさに隣で呑気にストローを加えている想川陽大なわけだが、こいつは俺が恋ヶ淵さんの恋愛相談を手伝っていることを知らない。
「そういえば、陽大」
「んー?」
「お前、明日の部活終わりって何してる?」
できるだけ何気ない調子で聞いてみると、陽大は一瞬だけ動きを止めた。ほんの一瞬だったけれど、その間を俺は見逃さなかった。
「あー、明日? 明日はちょっとなー、家族と予定あるわー」
「……へえ」
平然と嘘をつきやがった。明日の放課後、こいつが恋ヶ淵さんに恋愛相談をすることを、俺は知っている。
しかも、おそらくその相談内容は、逢ヶ埼さんについてだ。
俺は何も知らないふりをして、紙パックに残っていた飲み物を勢いよく吸い上げた。
明日はどうなることやら。少なくとも、俺がその場に現れた瞬間のこいつの顔は、ちょっと見てみたい。
「じゃ、俺そろそろ戻るわ」
「おう」
空になったパンの袋をビニール袋へとまとめて入れてから、ベンチから立ち上がる。
「まあ、がんばれよ」
「……何が?」
陽大が不思議そうな顔でこちらを見る。俺は少しだけ笑って、その肩を軽く叩いた。
「色々」
「……なんだよ色々って!」
その声には答えず、俺はそのまま校舎へ向かって歩き出した。
さて、明日の放課後。親友の恋愛相談とやらを、じっくり聞かせてもらうとしよう。




