014話:恋ヶ淵さんと親友の恋①
昼休み。午前の授業を終えた俺は、次の相談者について考えながら廊下を歩いていた。
片瀬さんに続く、二人目の相談者。
一年B組、想川陽大。
以前、陽大は俺に気になる人がいると話していた。恋が叶うジンクスの存在を教えてもらったとも言っていたので、その流れで恋ヶ淵さんへの相談に行き着いたのだろう。
陽大のことを考えているうちに、B組の教室前へと辿り着く。本人から事前に少し話を聞いておこうという考えだった。
教室の中を覗いて陽大の姿を探そうとした、その時だった。
「あれー? いおりんじゃん」
聞き覚えのある間延びした声が聞こえ、視線を向ける。ちょうど教室から出て行こうとしていた逢ヶ埼さんが、不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「逢ヶ埼さん」
「どしたのー? うちに会いに来たー?」
「いや、陽大に用があって来たんだ」
「陽大? あー、想川のことねー」
逢ヶ埼さんがぱちぱちと瞬きをする。
「いおりん、想川と知り合いなのー?」
「知り合いっていうか、中学からの友達だよ」
「えっ、マジー? 世間狭ー」
「同じ高校の同学年なんだから、そこまででもないだろ」
「それもそっかー」
納得したのかしていないのか分からない返事をすると、逢ヶ埼さんは教室の中へ顔を向ける。
「想川ー! いおりんが呼んでるよー!」
その呼び方で通じるのか? そう思った直後。
「――いおりん!?」
教室の奥から、聞き慣れた声が響いた。しばらくして、陽大が慌てた様子でこちらへ駆けてきては、ゼエゼエと息を吐いた。
「凄い勢いで駆け寄ってくるな。そんなに俺に会いたかったのか?」
「えー……そういう関係なん?」
「こいつの片思いだけどな。いつも熱く迫られて困ってるんだ」
「迫ってねえわ! 俺は女の子が好きだわ!」
「女の子ならみんな好きだもんな」
「想川チャラー」
「いやいやいや、誰でもという訳じゃなくて、好きな子には一途だよおれ! 誤解されるようなことを言うな!」
ん? なんだこいつ? もしかして、本気で慌てている?
いつものようなふざけた感じを陽大から感じないので、俺は不思議に思った。
「それより伊織! お前! いつの間に逢ヶ埼とそんな関係になったんだ!?」
「そんな関係とは」
「いおりんだよ! い・お・り・ん!」
何をそんなに興奮しているのか。助けを求めるように逢ヶ埼さんを見ると、彼女も俺と同じように首を傾げていた。
「逢ヶ埼が! なんでお前のことをそんな親しげなあだ名で呼んでるんだよ!」
「そりゃあ、友達だからねー」
逢ヶ埼さんがあっけらかんと答えると、陽大の動きが止まる。
「……友達?」
「そー。ねー、いおりん」
「まあ、そういうことらしいな」
つい最近まで、ほとんど話したこともなかった気がするけど。
そんな俺の内心など知る由もなく、逢ヶ埼さんが俺の肩へ腕を回してきた。
「うちら、マブダチだもんねー」
「え、俺たちってそこまで関係進んでたのか?」
「友情に時間は関係ないんだぜー」
「前にも聞いたな、それ」
俺たちがそんなやり取りをしていると、陽大がわなわなと身体を震わせ始めた。
「伊織……」
「なんだよ」
「お前……お前って奴は……!」
「だからなんだよ」
「この裏切り者おおおおおお!」
「はあ?」
絶叫した陽大が、勢いよく廊下を走り出した。
「伊織のバカ野郎おおおお!」
陽大はそのまま廊下の向こうへと消えていった。俺と逢ヶ埼さんは、呆気にとられたまま揃ってその背中を見送る。
「……なんだ、あれ?」
「さあー?」
逢ヶ埼さんも心底分からないといった様子でまたまた首を傾げている。
俺は陽大に用があってここまで来たのだが、まともな会話をするどころか、用件を伝えることすらできていない。
「とりあえず追いかけるわ」
「がんばってー」
陽大が消えていった方向へ向かおうとすると、呼び止めるように声をかけられる。
「あ、そうだー。いおりん」
「ん?」
振り返ると、逢ヶ埼さんはいつもの気の抜けた表情のまま、こちらを見ていた。
「真奈の手伝い、上手くやってくれたみたいじゃーん」
「ああ……まあ。一応な」
「聞いたよー。昨日の相談も、ちゃんと最後まで付き合ってくれたんでしょー?」
「半ば強制的にな」
「あははー。目に浮かぶー」
逢ヶ埼さんが楽しそうに笑う。
「でも、いおりんに頼んで良かったかもー。真奈も楽しそうだしねー」
「……恋ヶ淵さんが?」
「うん。だから、これからもよろしくねー」
なぜか最後の言葉だけ、少し意味ありげに聞こえた。
「ああ。まあ、引き受けたからには適当にやるよ」
「そんな感じで引き続きよろしくー」
逢ヶ埼さんがひらひらと手を振る。俺も軽く手を上げて返し、陽大が消えていった廊下へと足を向けた。




