第6話 銀翼の牙の裏切り
「セリア・アルヴェンが死者名簿に入ってる?」
空き部屋に戻ってそれを見せると、当の本人が一番冷たい顔をした。
「やると思った」
寝台に腰かけたまま、彼女は包帯の巻かれた脇腹を軽く押さえる。
「生きて帰った臨時雇いは邪魔だったんでしょうね」
「他の二人は?」
「トーマは荷物持ち。フィオは斥候。どっちも、あの区画で余計なものを見た」
セリアは目を閉じ、思い出すように言った。
封鎖区画の奥には、古い祭壇と崩れた石碑があったらしい。
そこに残されていたのは、英雄アークを讃える記録ではない。誰かが意図的に壁を積み、通路を閉ざした痕跡と、複数人分の白骨。
「ガルドは、それを見た瞬間に態度を変えた」
銀翼の牙のリーダー、ガルド。
「回収して終わりにするはずの遠征だったのに、急に“証拠になるものを全部集めろ”って言い出したの」
証拠。
その言い方が引っかかった。
英雄の遺品が欲しいなら、証拠なんて言葉は出てこない。
「ガルドたちは何を隠したい」
「さあ。でも、あいつらの後ろには上の人間がいるわ」
セリアはきっぱり言った。
「あの場でガルドは“記録班にだけは見せるな”って言ってた。単独犯なら、そんな言い方しない」
なるほど、と思う。
なら敵は銀翼の牙だけじゃない。
ギルド内部にも手が回っている。
その時、扉が二度叩かれた。
セリアが剣を取ろうとするのを手で制し、俺は慎重に扉を開ける。
立っていたのはミーナだった。
「差し入れ」
紙袋を差し出してくる。中身は黒パンと干し肉だった。
「なんでここが分かる」
「回収屋の寝ぐらいくらい、記録係は知ってるの」
知りたくなかった。
だが助かる。
ミーナは部屋の中を覗き込み、セリアを見て目を丸くした。
「わ、本当に生きてた」
「死んだことにされてたみたいだけど」
セリアが刺々しく返す。
ミーナは肩をすくめた。
「私じゃないわよ、消したの。むしろ見つけたから持ってきた」
彼女はもう一枚の紙を取り出した。ギルド提出用の荷物一覧だ。
そこには回収品として、鍵、黒縁ゴーグル、石版の欠片、記録筒と書かれている。
でも実際に死体置き場に残っていたのは、鍵とゴーグルだけだった。
「記録筒がない」
俺が言うと、セリアの顔色が変わる。
「それよ」
「何だ」
「トーマが運ばされてたの。封鎖区画で見つかった記録筒」
部屋が静かになる。
じゃあ、トーマの鞄に銀翼の牙の徽章が混ざっていたのは偶然じゃない。あいつは奪われる前に、何かを誰かへ渡そうとしていた。
ミーナが息を潜めるように言った。
「ガルドたちは今夜、東倉庫を押さえるみたい」
「どうしてそんなことまで」
「聞いちゃったの。記録係って、みんなが油断してる前で帳簿いじるから」
彼女は苦笑した。
「多分、まだどこかに記録筒が残ってると思ってる」
俺とセリアは目を見合わせた。
今夜、相手も動く。
なら先に見つけるしかない。




