第5話 回収屋は死体置き場で嘘を拾う
セリアを運び込んだのは、俺が寝泊まりしている倉庫裏の空き部屋だった。
立派な場所じゃない。雨が降れば壁際から水が入るし、寝台もひとつしかない。
「最低」
傷を縫いながらセリアが言う。
「知ってる」
「でも、死ぬよりはマシね」
憎まれ口を叩けるなら、まだ大丈夫だ。
翌朝、俺は死体置き場へ向かった。探したいものがあった。
中層遠征の遺体はまとめて運び込まれる。銀翼の牙が口封じをしたなら、トーマ以外にも“余計なものを見た死人”がいるはずだった。
積まれた荷の中から、割れた黒縁のゴーグルを見つけたのは三列目の奥だった。
手に取った瞬間、濃い灰色の残光が走る。
『記録を……残せ』
今度は男の声。息を殺し、壁の陰から何かを書き留めている。
『上に知られたら、消される……』
短い幻の中で、男は銀翼の牙のリーダー格が誰かと口論しているのを見ていた。話題は英雄の遺品じゃない。“記録”だった。
幻が消える。
ゴーグルの内側に、小さく刻まれた名があった。
フィオ。
たぶん斥候だ。
俺は他の荷も漁った。壊れた革帳、折れた短剣、血で濡れた地図片。
繋げていくと、ひとつの形が見えた。
遠征隊は本来、第五横穴の調査が任務だった。
だが実際は、その先にある封鎖区画へ向かっていた。
しかも、ギルドへの提出記録にある参加人数と、死体置き場へ運ばれた人数が合わない。
三人、足りない。
「おい、何を探ってる」
振り返ると、昨日の坑道責任者が立っていた。
笑っていない。
「仕事だ」
「回収屋の仕事に、記録漁りは入ってねえよ」
面倒だと思ったその時、ひとりの女が責任者の横からひょこりと顔を出した。
「あー、やっぱりここにいた」
薄茶の髪を後ろで束ねた、小柄な受付嬢。ギルド記録係のミーナだった。
「この人、さっきから提出書類の控えを勝手に持ち出そうとしてて」
責任者が言うと、ミーナはむしろ俺の方を見て眉を上げた。
「ふうん。じゃあ、面白いものを見つけたの?」
「……何の話だ」
「昨日の遠征記録、妙に修正が多いのよ。死者の数も、回収品も」
責任者の顔がわずかに強張る。
ミーナはそれを見逃さなかった。
「私、記録係なんで。数字が嘘ついてると気持ち悪いの」
彼女はにこっと笑った。
可愛い笑顔なのに、責任者は露骨にたじろぐ。
「この人、私が借りるわ」
「は?」
「書類整理。そういうことにしておけば問題ないでしょ?」
半ば強引に引っ張られ、俺は死体置き場を出た。
人気のない廊下に入ったところで、ミーナが小声になる。
「銀翼の牙を探ってるんでしょ」
俺は答えなかった。
「別に告げ口しない。むしろ、私も気になってる」
彼女は胸元から薄いメモ片を取り出す。
そこには、正式記録から削られた三人分の名前が書かれていた。
フィオ、トーマ、そして――セリア・アルヴェン。
生きている人間が、死者名簿に入れられていた。




