第29話 返した指輪、残った誓い
アルマの酒場は、北門近くの静かな通りにあった。
三十一歳の店主アルマは、昼の仕込み中だった。仮泊所で見つけた手紙と指輪を見せると、彼女の手が止まる。
「……ギドの」
声は小さかったが、確かだった。
俺は黙って箱を差し出す。
アルマはその場で泣かなかった。ただ、指輪を掌に包み、しばらく目を閉じていた。
「あの人、荷役だったんです」
椅子へ座ると、彼女はゆっくり話し始めた。
「英雄アークの遠征にもついて行った。剣を振る人じゃなくて、食料と予備具を運ぶ側。三十五歳で、腰が悪いっていつも言ってた」
ギドは帰還後まもなく死んだことにされ、正式な説明もないまま荷だけが消えたらしい。
「死ぬ前に一度だけ言ったの。“ロムさんは最後まで運ぶつもりだった”って」
「補給長ロム」
アルマは頷いた。
「それと、もし誰かがちゃんと取りに来たら渡してくれって」
彼女が持ってきたのは、床板の裏に隠してあった小さな封筒だった。
『墓標番号七番。荷札を忘れるな』
短い走り書きと、古びた木札が一枚。
そこには『受取人 アーク補給班』とある。
「返してくれてありがとう」
アルマが言う。
「これで、あの人を“売られた荷物”のままにしなくて済む」
帰り道、セリアがぽつりとつぶやいた。
「返すって、やっぱり強いのね」
戦って勝つより、返して終わらせる方が難しい時がある。
回収屋の仕事は、多分そこにある。




