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第28話 ミーナの帳面

封鎖室の前で役に立ったのは、剣でも監査印でもなく、ミーナの帳面だった。


 仮泊所と偽帳場から拾った帳簿を並べると、表記ゆれが妙に多い。


「これ、わざとよ」


 ミーナが指で行を追う。


「同じ会社なのに、日によって母音が違う。音で合わせるんじゃなく、送金先の手癖で追うの」


 しばらくして彼女はひとつの名前を拾い上げた。


「バレスタ家直営じゃない。全部、三つのダミー商会を経由してる」


 その中にあった品目を見て、俺は息を止めた。


『英雄遠征隊 剣鞘片』

『第七荷受領証』

『未返却遺品 一二件』


 英雄アークの遺品だけじゃない。


 名前すら帳面から消された遺品が、まとめて売られている。


「公売に見せかけた私売ね」


 リゼットが低く言う。


「監査記録がなければ、あとから誰も追えない」


 ミーナはさらに一枚、小さな引換札を抜き取った。


『アルマの酒場 保管品一件』


「これ、さっきの手紙の宛名と同じだ」


 偶然じゃない。


 返すべき物を返さないまま、売り払えなかった分だけ街へ押し戻している。


 死者の荷が、帳面の都合で右へ左へ流されているのだ。


「まずはアルマに会おう」


 俺が言うと、ミーナは頷いた。


「うん。帳面だけじゃ人は動かない。ちゃんと顔のある話にしないと」


 情報屋らしい、でも少し優しい結論だった。


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