第22話 死者の地図師
旧保守通路の入口は、酒場裏の石段のさらに下にあった。
昼でも薄暗い階段を降りきった先で、俺たちは革鞄をひとつ見つけた。壁際へ丁寧に寄せて置かれた、朽ちかけの鞄だ。
「最近のものじゃないわね」
セリアが膝をつく。
「でも埋まってない。誰かが触ってる」
鞄の金具へ指をかけた瞬間、青い光が走った。
未練の色だ。
『道は一本じゃない。間違った一本道に見せろ』
乾いた声が響く。
狭い机、広げられた地図、そして咳き込む四十一歳くらいの男。地図師だ。迷宮の測量をしていたのだろう。男は震える手で北壁周辺の線を消し、わざと偽の行き止まりを書き込んでいた。
『本当の搬送路は仮泊所の下……』
そこで映像は途切れた。
鞄の中には古びた測量盤と、半分だけ焼けた地図が残っていた。読める線は少ない。だが、北壁の裏へ回るための折れ角が、三つだけはっきり残っている。
「隠すための地図か」
俺がつぶやくと、頭の中へ不思議な感覚が残った。
ただの線じゃない。重なった通路の高低差が、立体で浮かぶ。
知らない男の仕事の癖が、少しだけ俺の中へ残ったのだ。
「何か見えた?」
ミーナが覗き込む。
「道の嘘が分かる。行き止まりに見える所ほど、壁の向こうへ余白がある」
鞄の持ち主は、死ぬ前に本当の道を隠した。
誰かに奪われないために。
地図の端には、かすれた文字でこう書かれていた。
『北壁仮泊所 税徴収所の裏』
「税徴収所?」
ダリオの顔が曇る。
「補給路に税なんて聞いたことがない」
ならそれは通行税じゃない。
誰かが、通る資格そのものを売っている。




