第21話 北壁の先へ続く印
祝杯の翌朝、俺たちは東区画の倉庫街ではなく、北壁の保守門へ集まっていた。
英雄アークの記録水晶に残っていた一文。
『第五封鎖が最後ではない。深層搬送路、北壁の先へ』
あれがただの暗号じゃないなら、迷宮都市グランゼルのどこかに、まだ生きた道がある。
「北壁の搬送路は三年前に閉鎖されたはずよ」
二十四歳の女剣士セリアが、錆びた門を見上げて言った。
「閉鎖された“ことになってる”道ほど、誰かが使ってるものだよ」
二十六歳の情報屋ミーナは肩をすくめる。
俺の横では、三十四歳の荷役組合長ダリオが渋い顔をしていた。
「昔は補給用の荷車が通ってた。戦う連中より、運ぶ連中の足の方が多かった時代だ」
門の脇の石壁へ手をつく。冷たい。けれど、ただの石じゃない。指先にかすかなざらつきがあった。
削られた荷印だ。
埃を払うと、かろうじて読める刻印が浮かび上がる。
『補給長 ロム』
「補給長?」
「アークの遠征隊にいた男だ」
ダリオが短く答えた。
「俺より十は上だった。四十五か、今生きてりゃそれくらいだ」
その荷印に触れた瞬間、視界がぶれた。
狭い搬送路。汗まみれの大人たちが木箱を担いで走っている。先頭にいるのは、鎧じゃなく革前掛けをつけた男だ。
『第七荷は北へ回せ。あいつらに見せるな』
低い声だけが耳へ残った。
幻が切れる。
俺は壁から手を離した。
「北に回した荷がある」
セリアがすぐに剣の柄へ指をかける。
「誰に見せるなって?」
「分からない。でも、この門の先にまだ何か残ってる」
門そのものは開かなかった。だが蝶番の下、割れた石材の裏に、細い矢印が刻まれているのをミーナが見つけた。
北壁の外じゃない。壁の内側を迂回して、旧保守通路へ入れという印だ。
「死んだ補給長が、まだ道案内してる」
ミーナが笑う。
俺は頷いた。
回収屋の仕事は、こういう小さな印から始まる。




