第16話 死者の声を聞く資格
アークの記録水晶は、一度きりしか起動できなかった。
だが、残された言葉は十分すぎるほど重い。
“人の都合で封じられるべきものでもない”
英雄がそう言ったものは何なのか。
俺たちは再び広間へ向かった。
今度の目的は、台座の奥に見えた細い封印線の先へ進むこと。
だが封印は単なる鍵ではなかった。
魔力視で見ると、三つの異なる印が重なっている。剣、足跡、眼。
「これ、偶然じゃないわね」
セリアが呟く。
俺もそう思った。
これまで俺が死者から受け取ってきた欠片――荷重歩法、索敵、魔力視。その三つに対応しているようにしか見えない。
「まるで、死者の技を継いだ者だけに開かせるみたい」
ミーナが地上で解析した結果も同じだった。
封印は生きた強者ではなく、“記録を継いだ者”を選別している。
俺は壁に手を置いた。
トーマの足。フィオの目。名もなき魔術師の視界。
誰にも覚えられなかった死者たちの技が、今ここで鍵になる。
じわりと封印線がほどけた。
開いた先は、狭い祭室だった。
中央には石棺ではなく、一本の大剣が突き立っている。
その周囲を巡るように、鎖と封印札。
剣の柄に触れた瞬間、今までとは比べ物にならない濃い未練が流れ込んできた。
アークの声だ。
『俺の剣を継ぐ者へ』
視界に、血の海が広がる。
アークは瀕死だった。それでも最後の力で剣を地面へ突き立て、何かを封じている。
その背後にいたのは魔物じゃない。
人間だ。
上等な外套を着た男たち。ひとりは剣を握り、ひとりは封印札を持ち、ひとりは記録官の衣をまとっていた。
『真実を地上へ運べ。見捨てられた者に道を残せ』
そこで映像は途切れた。
未練ははっきりしている。
英雄の望みは、自分の名誉じゃない。
封じられた真実を、地上へ持ち帰ることだ。
「資格、十分みたいね」
セリアが静かに言った。
だが、その祭室の奥で、重い鎧の軋む音が鳴った。
眠っていたものが起きる音だ。




