第14話 英雄アークの名が残る部屋
正式許可の朝、第五横穴の入口には珍しく人が少なかった。
ギルドがわざと時間帯をずらしたのかもしれない。余計な目を入れたくないのだろう。
「逆に怪しいわね」
ミーナは地上で待機だ。
もし俺たちが戻らなければ、預けておいた複写記録を外へ流す手はずになっている。
「死なないでよ」
出発前、彼女は本気の顔でそう言った。
「そっちこそ」
俺とセリアは第五横穴を抜け、搬送路の先へ進む。
魔力視で見ると、封鎖の筋が今までよりはっきり見えた。誰かが古い壁に後から術式を足している。しかも一度じゃない。何度も補強されている。
「そんなに隠したいのか」
最後の封印を解いた先には、円形の広間があった。
中央の台座には折れた剣。
壁には大量の刻文。
そして、そのどれにも同じ名前が繰り返し刻まれている。
アーク・ヴァレント。
英雄の名だ。
「……本当にあった」
セリアが息を呑む。
台座の下には記録水晶がひとつ残っていた。
俺が触れると、古い映像が立ち上がる。
鎧姿の男。三十代半ば。傷だらけだが、まっすぐ立っている。
『記録番号、第三封鎖前夜』
男が言う。
『俺はアーク・ヴァレント。以後の記録が改竄された場合に備え、ここへ残す』
俺たちは顔を見合わせた。
英雄自身の記録だ。
『迷宮深層から持ち帰ったものは魔物の遺物ではない。人の都合で封じられるべきものでもない』
そこで水晶が大きく乱れる。
背後から誰かが叫ぶ声。
『アーク、記録を止めろ!』
映像はそこで途切れた。
祈りでも遺言でもない。
これは、口封じされる直前の証言だ。
セリアが低く呟く。
「英雄は、迷宮で死んだんじゃない」
広間の空気が変わる。
俺の魔力視に、台座の奥へ続くさらに細い封印線が見えた。
第三封鎖は、ここで終わりじゃない。
英雄の“本当の最後”は、もっと先にある。




