第10話 迷宮都市の入場試験
あの場を切り抜けられたのは、勝ったからじゃない。
逃げ切れたからだ。
ガルドの槍は重く、速く、まともにやれば俺たちに勝ち目はなかった。だが、搬送路は狭い。セリアが前を押さえ、俺が索敵で死角を読み、崩れかけの支柱を落として時間を稼いだ。
結果、記録筒だけ持って逃げることには成功した。
「最悪」
地上へ戻った瞬間、ミーナがその場にへたり込む。
「死ぬかと思った」
「次は多分、本気で殺しに来る」
セリアの言葉に冗談はなかった。
だから俺たちは、正面から潜る資格を取る必要があった。
第五横穴のさらに先は、今のままだと無許可侵入扱いになる。銀翼の牙に見つかる前に、正式な探索許可証を手に入れなければならない。
「つまり、昇格試験ね」
ミーナが書類を机に並べる。
回収屋の俺が探索者の試験を受ける。
普通なら笑い話だ。
実際、試験場へ行った瞬間に笑われた。
「おいおい、死体漁りが前に出てくるぞ」
「荷物持ちは荷物持ちしてろよ」
試験場の待機列には、若い冒険者たちが何人もいた。鎧も立派だし、武器もいい。俺の短剣なんて子供の玩具に見えるだろう。
「気にするな」
セリアが隣で言う。
「気にしてない」
「嘘ね」
その通りだった。
試験内容は単純だ。模擬迷宮に入り、制限時間内に指定標識を三つ見つけて戻る。それだけ。
だが迷路構造、罠、魔物役のゴーレムが用意されていて、雑に突っ込むとすぐ脱落する。
開始の鐘が鳴る。
周囲の受験者たちは一斉に走り出した。
俺は一歩遅れて動く。焦らない。索敵に引っかかる流れを読む。
左の道は人が多い。正面は罠が二枚。右は行き止まりに見えるが、風が抜けている。
「右だ」
セリアが驚いた顔をしたが、すぐついてきた。
右の壁には隠し回転扉があり、その向こうに最初の標識があった。
二つ目は落とし穴の先。荷重歩法で重心を散らし、崩れかけの板を渡って取る。
三つ目の前で、待ち構えていたのは金属製の狼型ゴーレムだった。
「下がって」
セリアが剣を抜く。
だが、俺は狼の動きを先に見切っていた。
噛みつきの予備動作。床の反射。踏み込みの角度。
半歩ずらし、関節の継ぎ目へ短剣を差し込む。
セリアの追撃でゴーレムが沈んだ。
戻った時、試験官が俺を見て露骨に眉を上げた。
「レイン・グレイス。探索補助から正式探索者補へ昇格」
ざわめきが起きる。
俺は胸の中で、小さく息を吐いた。
これでようやく、回収屋のままでも前へ出られる。




