第11話 遺品回収屋、前衛になる
昇格試験の翌日、街の空気は少しだけ変わっていた。
といっても、俺が急に英雄扱いされるわけじゃない。
「ほら見ろ、あの回収屋」
「模擬試験でたまたま上手くいっただけだろ」
そんな声の方が多い。
でも、完全に無視されるよりはずっといい。
少なくとも、第五横穴へ正式な探索申請を出せる立場にはなった。
「許可は三日後」
ミーナが書類を見ながら言う。
「ただし同行人数は二人まで。つまり私がついていくなら、あなたたちのどっちかが外れる」
「却下」
俺とセリアの声が揃った。
「はいはい。分かってる。だから私は地上で記録を見る」
記録筒の中身はまだ開けていない。
封印がかかっていて、無理にこじ開けると中の紙が焼ける仕組みになっていた。
ミーナはその解除法を古記録から探している。
一方、俺たちは許可が下りるまでの三日を使い、戦い方を詰めることにした。
「あんた、斥候みたいには動ける。でも前衛には迷いがある」
訓練用の木剣で打ち込んできながら、セリアが言う。
その通りだ。
人に向かって踏み込む感覚に、俺はまだ慣れていない。
「怖いなら別にいいのよ」
「怖くないわけじゃない」
木剣を受け損ね、腕が痺れる。
「でも、もう逃げてるだけじゃ届かない」
トーマもフィオも逃げきれなかった。
その先にある真実へ行くなら、俺も斬る側へ足を入れるしかない。
セリアは少しだけ真面目な顔になった。
「前衛ってね、強いから立つんじゃないの」
「じゃあ何だ」
「後ろに立たせたくないものがあるから立つの」
言われて、妙に納得してしまった。
その日の訓練の終わり、セリアは自分の予備の短剣を俺へ投げてよこした。
片刃で、重心が手元に寄っている。扱いやすい。
「貸しよ」
「またその言い方か」
「嫌なら返して」
「借りる」
口元だけ笑った彼女は、すぐに視線を逸らした。
その夜、俺は新しい短剣を腰に差したまま、倉庫裏で一人素振りを続けた。
地味でいい。
派手な英雄にはなれなくてもいい。
誰かの背中を見捨てない前衛になれれば、それで十分だ。




