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深淵狩りの花  作者: 三日月 帆立


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9/11

9話 深淵へ

:異形図鑑:


図鑑番号1

異形呼称名:アビート

・2足歩行の異形。腕や足が鋭利で格闘戦を主体とする。生態は不明。核を守るために人間の死体で防護壁を作ることが最近判明した。


図鑑番号2

異形呼称名:タンカー

・4足歩行の異形。2~4匹単位の群れで出現し、高い機動力を併せ持つ。攻撃方法は鋭い牙などである。


図鑑番号6

異形呼称名:ハンマー

・4足歩行の異形。タンカーに似ているが、鋼鉄のように固い鱗を持ち銃弾などを弾く。機動力は高いがタンカーほどではない。


図鑑番号12

異形呼称名:アテナ

・2足のヒューマノイド型異形。巨大な異形存在、詳しいデータはまだない。情報提供求。

 部隊結成から数日、日に1回はどこかで深淵からの穴が発生し、それの対応に追われていた。気が付けば異形の討伐数は編成されているチーム全体のトップになって、救助した市や県から表彰されるほどであった。本部の騒動は救護班と回収班、修理班の徹夜の尽力によりわずか3日で主要な区画が再度使えるようになった。最も犠牲になったシンガリや職員の数は相当な人数だが。


「疲れましたネ」

「…」

 連日の出撃で、装備を装着する体はいくら適性検査を通過したシンガリや他国隊員でも限界が来ていた。ダメージを受けた装備で出撃することもない訳ではなく、本人たちへの肉体的、精神的疲労は重くのしかかっていた。


 立夏は部屋の隅にうずくまっている。小学生のころから疲れたり、一人になりたいときに大勢人が居るとよくやっている癖である。

「立夏ちゃん…」

 誰かが声をかけようとしたその時、けたたましい警報に立夏の顔が上がる。


『深淵警報! 深度7。市民は直ちに避難してください!』

 深度は10段階に割り振られている。7だと大型の異形が出るかもしれない。

「立夏…いけるか?」

 シャオメイがぶっきらぼうに、彼女に聞く。本心では心配しているのだ。


「行かないと、誰かが犠牲になる。私はもう、誰も犠牲にしたくない…」

 ゆらりと立ち上がり、端末を操作する立夏。装備をつけながら外へ向かうのにも一切躊躇が無かった。



 ヘリコプターで現地へ向かい、近くの建物に降下する。深淵はその街のビル1棟の半分を飲み込み、4足の異形が暴れまわっていた。

「GOGOGO!」

 マシンガンを乱射しながら群れに突進し、エレナがかく乱する。ヘイトが向いたところをシャオメイとジェニファが攻撃する。が、銃弾や矢が金属に近い音を立てて弾かれた。


「新種か」

 鱗の様な肌を持つ4足の異形が複数おり、攻撃をものともせずヘイトを買っているエレナに向かう。

「させない!」

 立夏が思い切り首に刀を振り下ろす。丁度鱗の間を縫って切り裂き、1体を討伐した。明らかに異形の集団が動揺している。


「立夏ちゃん、今みたいにオネガイネ!」

 エレナは再び突撃し、後衛に控えた二人もソフトターゲットを確実に仕留めて行く。立夏は無言でハンマーの裏どりを行った。


 ほぼ駆逐し、残るはハンマー2匹、タンカー1匹。もはや敵ではない。エレナが突撃し、シャオメイがタンカーへ弓で攻撃する。立夏は回り込みながら幼馴染の事を考えていた。

『あたしらズットモだかんな!』

「…か…立夏後ろ!」

 我に返る。反転し咄嗟に構えた刀にハンマーが噛みつく。力勝負では異形と人間で倍くらいの差がある。立夏は徐々に押し込まれてゆく。


「立夏ちゃん!」

 エレナが突進し、ゼロ距離で頭にじゅうたんを叩き込む。ハンマーは力なく崩れ落ちた。エレナが立夏の方を掴む。

「何してます…カ」

 立夏は泣いていた。ここ最近の立夏はこういったミスが多く散見され、メンバーが必死の介護を行っている。


「核壊します」

 しばらく泣いて、落ち着いた立夏は核に近づき刀を突き立てる。突き立てたまさにその瞬間だった。核の中から黒い紐が飛び出し、立夏を深淵へ引きずり込んだ。核自体は破壊されたため、立夏と共に消失してしまった。


「ここは…」

 目が覚めると辺り一帯、荒野の様な…異形の皮膚の色をした岩が切り立つ場所に立夏は居た。通信装置を起動するが部隊のメンバーとは一切繋がらない。

「困ったな…あ、本部は?」

 

 本部へ緊急信号を送る。そしてとにかく今は安全な場所を探すしかないと思った。装備は昨日メンテナンスされたばかりなので幸いなことに健在であった。遠くに岩がたくさん立っているの様な場所が見えた。

「あそこに行けば何か…」


 歩き出して数分で端末に着信が入る。

「はい、立夏です」

「立夏! 無事か!?」

 声は教導士官の声だ。


「教官! 私の位置情報を取れますか?」

「すまない。力を尽くしたが無理なようだ。こちらは本部につながっている。恐らくそこは深淵、奴らの巣だと思われる」

「…」

「不幸だが帰れる保証もない…が、深淵に行ったならば親玉に遭遇する可能性もある」

「それって」

「あぁ…佐野の仇だ」


 立夏は辺りを見回す。曇った暗闇に少し生ぬるい風が吹いている。

「わかりました。その親玉、私が探し出します」

「了解した。我々も全力を尽くし、お前の居場所を突き止める。武運を」


 通信が切れる。発信元は聖本人だ、きっと救難信号は届いていたのだろうと一安心する。

「とにかく前に進まなくちゃ」

 ワダチを拾い、岩が乱立しているような場所へ向け歩み始めた。



登場人物紹介


冬木ふゆぎ 立夏りっか

アビスハンター1200期の成績最下位者。装備は故教導士官、佐野柳子の形見のワダチという日本刀である。しかし試験を受けてから今まで銃で戦ってきた。彼女にとって使い慣れるまでは確実につらい道のりになるだろう。

今回の選抜には自分自身驚いているし、力不足だと思っているが、編成されたからには友人の分をやってやると決意を固くしている。


烈士れつじ ひじり

 新任の教導士官。ランキング6位から繰り上がりで5位になり、士官になった。立夏たちを見送り次の受験生の試験を始める。立夏のランキングアップは彼女が聖を助けた功績と、次の深淵の破壊によって推薦された。ワダチを譲り、ランキングアップに推薦とかなり目をかけている。


:エレナ アナスタシア:

AABアンチアビスバスターから派遣された部隊員。接近戦も牽制もお手の物。近接武器の補助なら彼女にお任せ。


:ジェニファ クリスチアーヌ:

 中衛に位置する重機関銃持ち。フランス出身だが、母国では適性検査を通過できず、アメリカのAABに入って適性検査を受けた。重機関銃は彼女の体格でも立ち撃ちをすると、後ずさりしながら衝撃を受け流すことしかできない。


:リー シャオメイ:

 中国の対深淵対策機構より派遣された。弓はアーチェリー用のようにいくつかの構造が重なっている。複雑に作られたそれは、速射、または力強い一撃を放ち、遠距離から敵を仕留める。

適応検査は天才肌であるという理由でスキップし、そのまま隊員となっている。経歴も詳しく明らかにされていない。

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