6話 これは訓練ではない
試験に合格した立夏真綾の二人、運動下からか二人はお腹がかなりすいており、真綾はお腹の虫が鳴いていた。満場一致で地下にある食堂へ向かうが…
ブザーが鳴り、試験の終了を告げて教導士官が審査席から降りてくる。手にしたタブレットを操作しながら降りてくる彼女の装備は短剣二刀流。故、柳子がシンガリ研修生時代に1位で前線活躍していた隊員の流派直系である。繰り上がりで教導士官は5位に自分の位置であり、近く、彼女も試験を受けることになる。
「試験番号08,12番、ともに合格です。おめでとう、この後は他の子が終わるまで本部の好きなところで待機をよろしく」
立夏と真綾は手を取って喜ぶ。士官は出口まで、二人を見送りに来る。
「では本部内で待機を。ただし有事に備え着装したままで待機して」
立夏を適合試験で推薦したのも彼女である。本来ワダチの正統継承者として決められていたが、遺言を尊重し立夏に譲ったのだ。
「「ありがとうございました!」」
「ごはんたべよーおなかすいた~」
「そうだね、食堂い行こっか」
地下へエレベーターで降りて行き、37階にある食堂に向かった。いつもは学生がにぎやかにしている中、料理を作る音が聞こえてくるが、試験中だからかとても静かで二人が歩く靴の音が反響する程だ。そしてどこからか水滴の様な音も聞こえる。食堂に入ると調理員すらおらずもぬけの殻で、冷蔵庫の奥の方から水のような音がピチャピチャと聞こえる。
「なんだと思う?」
真綾はスンスンと鼻を鳴らし、抜刀しながら立夏に問う。
「少なくとも誰もいなくて嫌な感じがする」
「あたし見てくるからさ、立夏は緊急ブザーのところにいてくんね?」
「わかった」
真綾は、慎重に厨房へ入る。刀がギリギリ振れるくらいの狭い通路を進む。赤い液体が奥に見え、鼻をつく臭いは近く、真裏から漂っていそうだ。そーっと覗くと…
四足異形が調理員の死体で巣を作っていた。ゆっくりとこちらを振り向き、ニタァと口を開ける。反射的に距離を取りながら立夏に叫ぶ。
「立夏A型いる! ブザー!」
立夏は躊躇わずガラスを割り、ブザーを押した。…何も起こらない。本当なら隔壁閉鎖と緊急警報が鳴るはずだ。
「立夏ブザーは!?」
厨房から脱出し、食堂で四足異形。通称A型、そいつと戦っている真綾は再度叫ぶ。机や椅子で動きを制限されるこちらと違い、机や椅子を巧みに乗り越え攻撃を仕掛けてくるA型。ジリ貧な誰が見ても明らかだ。
「反応がないの!!」
立夏は抜刀し、真綾の刀に噛みついたA型の側頭部を突き刺す。断末魔を上げ、机にドサッと倒れるA型。いつも見る奴よりも結晶の数が多い気がする。
「ブザーが反応しないってどういうこと?」
肩で息をする真綾はブザーまで歩き、刀の柄で思いっきり押し込む。しかし先ほどと同様、ブザーはうんともすんとも言わなかった。
「参ったね…とりあえずあの悪趣味なもの調べないと…」
今度は立夏と二人で見に行く。調理員だったもので作られた巣穴の奥には深淵への穴が発生していた。
「とりあえず壊さなきゃね」
真綾は「えいやっと!」と言いながら刀を穴に突き立てる。核に見事に突き刺さったのか、ガラスを割ったような大きな音を立て穴は消えた。
「とりあえず一大事だし、立夏も行くよ!」
「う、うん…オェ」
思わず吐き気を催す臭い。かみ砕かれ積み上げられているが、中には目が転がっていたりと完全に噛み砕ききっていない杜撰さが見える。吐きそうな立夏を介抱しながらエレベーターへ向かう。上昇ボタンを押す。しかしエレベータのボタンはエラーの時のブザーを鳴らし、何度押しても変わらなかった。
「立夏平気?」
「うん…それよりこれって」
「間違いないっしょ。何かしらの問題で本部に深淵が発生してる」
「でも本部は保護されてるんじゃ」
「だとしてもこれは疑いようのない事実っしょ? 階段で上がるしかないか…」
二人はエレベーター横の階段に目を向ける。普段使われていないのでシャッターが下りていた。
「せーいやっと!」
真綾は刀でシャッターを切り刻んだ。入館証ですらエラーになるのでそれの腹いせもあるか…ともかく二人は14階の教導士官と受験生のいる試験会場へ急いだ。
登場人物紹介
:冬木 立夏:
アビスハンター1200期の成績最下位者。装備は故教導士官、佐野柳子の形見のワダチという日本刀である。しかし試験を受けてから今まで銃で戦ってきた。彼女にとって使い慣れるまでは確実につらい道のりになるだろう。ブザーが鳴らなかった時、真綾が刀に噛みつかれた時、それぞれ思考が停止してしまった。そのままではいつか仲間に迷惑をかけてしまうかもしれない。階段を上がりながらなんとかしなきゃと考えている。
:烈士 聖:
新任の教導士官。ランキング6位から繰り上がりで5位になり、士官になった。立夏たちを見送り次の受験生の試験を始める。ブザーは当然機能していないので、彼女と受験生の知らないところで、真綾達の戦闘は繰り広げられていた。
:大槻 真綾:
立夏の親友にして太刀使い。親友の頑張る姿を見て応援と、負けないぞという対抗心を見せる。幼いころからドジっ子で、虐められやすい立夏を守るため、ここまで強くなろうと思えた。試験の通過順位は実技8位ペーパー56位
…頭脳より割と力で解決するかもしれない。授業はたいてい寝ているがテストは平均点を取る彼女の言い訳は、
「いや教科書見ればとれるっしょ」
それを聞いて学校の何人がうらやましいと思ったかは計り知れない。厨房で冷静に対処しながら食堂内に逃げ込めたのは、前回の試験が狭い廃墟の中を想定した訓練であったからだ。覚えていた彼女の記憶力の賜物である。




