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100年の時を

「ど、どういうことだよ」

からだ全身に一気に寒気が走る。

「さっき、助けるって」

「考えが変わったんだよ」

僕が言葉を言い終わる前に、サルヴェ・レジーナは被せて発言した。

「マザーの御子は、直径の血筋であるから、生かしておこうと思っていた。アダムとイブの計画にも直径専属をどうこうするっていう文言はなかったからな。ただ、ふと思ったんだ。もしもの保険だよ。何があるか分からない。とりあえず殺しておいた。正しくは“こちらの住人にした”ということだ。魂はもうこちら側にある」

淡々と機械のように告げられた。

先程までビジョンとして映っていたユリハさんとドクターの姿はどこにもなく、ただ真っ暗闇のなか、二人の会話だけが交差していた。

質問に即座に答えてくれるサルヴェ・レジーナを僕は少しずつ心を開いていた矢先だった。

また沸き上がる怒りが込み上げてきた。

「なんて、非道なやつなんだ…信じられない。僕はお前を許さない」

「おっと、それはお門違いだ。俺自身も組織に恨みを持ってるんだ。だからこそ、この組織を乗っ取って、世界の再構築が必要なんだよ」

サルヴェ・レジーナが恨みを?

耳を疑うような言葉だった。

「その恨みの腹いせに、みんなを殺したのか?」

「違う。正しくは、“生まれ変わってもらった”ということだ」

「生まれ変わる?」

「そうだ、俺の犠牲となって死んでいった兄さんのためにな」

無数の情報が流れていく脳で、必死になって処理を進めていく。

サルヴェ・レジーナの兄?

そんな話聞いたことがない。

僕が質問するよりも早く、サルヴェ・レジーナが答えた。

「さぁ、また昔話だ。ここは僕の世界だ。いずれは知られる事実だ」

そう言うと、目の前が真っ白になり、一枚の写真が浮かび上がってきた。

「これは?」

金髪の少年が二人、仲良く手を繋いでいる。

色褪せたセピア色の古ぼけた写真だった。

どこか洋館の中で楽しく笑う二人の美少年。

奇妙にも二人の顔はそっくりだった。

そしてどこか面影を感じるこの二人は…?

「これは、俺たちが10歳の頃だ。左が兄さんのサルヴェ、右が俺、レジーナだ」

「サルヴェ、レジーナ」

「そうだ。サルヴェ・レジーナという名前は、僕ら二人の名前だ。

荒木の息子は、“俺”が初代のアダムという正体までは突き止めたらしい。サルヴェ・レジーナと呼ばれたときに、そう気がついたよ。しかし、サルヴェ兄さんのことまでは15年の捜査でも分からなかったようだな。

まぁ、それもそうさ。これは国が犯した殺人だからな。国が兄さんの死を全面的に隠蔽したんだよ。だから人が世界を統治するのに俺は否定しているんだ。恣意的で、一時的な感情に振り回される人民の気持ちなんて彼らは考えていない。ただの駒としてしか見てないんだからな」

「100年前から行われていた研究…兄さんの失敗…」

「そうだ。この研究の歴史は古い。人々は、安寧の秩序を求めて、人が人を統治しない世の中を求めていた。ある種の新興宗教の一種だ。キリスト教はキリストが神であるように、この組織はサイバー世界の神が世界を統率する世界を夢見ていた。

しかし、そんなご都合主義は寝て待っていても、やってこない。人々は何度も失敗を繰り返し、年月だけが経っていった。

そんなときだった。世界大戦がきっかけとなり、ある国の政治家達がこの宗派に目をつけたんだ。その政治家たちは、目先の利益しか見ていないから、サイバー世界の神を作ることで、戦争に有利になると考えたわけだ。それは確かに間違ってはいない。世界中のネットワークの全てに介入できるのは、徳でしかない。相手の懐に入り込み、裏からがっちりと世界を掌握できれば、小国だろうと戦争には勝てる。全世界を敵に回しても、勝てるわけだ。

その国は研究にお金を出した。そして貧しい僕らに目をつけた。政治家たちは、肉親には手を出さない。政治家として腐ってはいても、やはり我が子は可愛い。そこで、下級平民の俺らを研究材料として実験を繰り返した。たくさんの仲間が笑顔で家を出ていって、帰ってこなかったよ。俺らも今か今かと怯えながら生活していた。

そして、その日が来た。兄さんが呼ばれたんだ。赤い手紙が来てな。ただ、運が良く兄さんはアダムになるチャンスがある実験だった。成功すれば、兄さんはアダムとして永遠の命を手にいれ、世界を統治する絶対的な存在となる。

そして、実験は成功したんだ。途中までな。あとは通信機に兄さんのコアを埋め込むだけだった。だが、そんな大規模な世界を揺るがす研究を世界が目をつむるはずがなかった。研究員のなかにスパイがいたらしい。その当時では珍しくはないだろうが、そのスパイによって研究がリークされ、研究所が爆破されたんだ。その爆破によって兄さんは殺された。人としてでも、アダムとしてでもなく、何者にもなれず死んでいった。

間もなくして残された研究員たちで突貫工事で作った研究所で、俺が被験者になって、兄さんの犠牲の上でアダムとなった。同じ体の型だったから、実験がしやすかったんだろうな。

その後、俺の家には多額の感謝料が支払われ、俺の家は一代にして大きな商人になった。いまでは世界の五大財閥ともなったが、俺がアダムになった時点で親子の縁も全て抹消されたから、俺にとっては何もないことだ。

それから俺は兄さんを殺した政治家やそもそものこの組織に仕返しをする機会をずっとうかがっていたんだ。100年も待った。そのうちに世界は様々な出来事を経験した。俺はそれをずっとそばで見ていた。そして、同時にそれらが事前に予測でき、阻止できることを知った。

そして、遂にイブが誕生した。しかしイブは、俺を拒絶した。恐らく俺のそうした考えが気に食わなかったのだろう。イブの母親、マザーは熱心なMAIRAの信者だった。それもそうだ、マザー自身も孤児であり、MAIRAに拾われ、育てられ、家庭を持てたのだからな。

俺はそんな悲しい連鎖を絶ちたい。だから、俺は最小限の犠牲を払って、この世界の神になる」

そこまで聞くと、サルヴェ・レジーナも人の子であり、いくつかの誘拐事件も彼の落ち度で起こしたものではなく、ただ世界を良くしたいというその思いだけであったのは分かる。

自身も同じく被害者となり、大切に育てられた家族とも絶縁され、一人百年の時を組織のために過ごしてきた。

しかし、彼が起こしてきた事実は目を伏せることができないことも確かだ。

全員を無事に期間をさせたとは言え、誘拐事件は立派な犯罪だ。

それに、荒木さん、有美ちゃんを手にかけたというのは確固たる動かざる負えない証拠だ。

このまま彼の好きにさせてはいけない。

きっと世界がまだ歪んでしまう。

じゃあ誰が?

それはまだ分からない。

だが、できることはある。

それは、きっと僕にしかできない。

「お前の好きにはさせない」

僕ははっきりと、語気を強めて言った。

「ククク…何を。お前に何ができるというんだ」

「僕は…」

僕ができること。

「僕は」

僕にしかできないこと。

「僕は、ここでお前を殺す」

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