マザー
「え、つまり…?」
「そうさ、僕は初代の神だ。お前たちが産まれる100年も前に産まれ、適合者としての小型化を実現させた。つまり、俺の肉体はもうとっくの昔になくなっている。お前たちが見てきた洞窟や噴水、家型のサーバー、そして教会。すべて俺が作り出した世界だ。そして正しい世界はユリハヨシオカの過去回想を見る前に見た、あの数字の海だ」
「お前がいれば、尚更アイリは殺されずにすんだはずだ。アイリはどこだ?教えてくれ」
自分でも語気がどんどんと強くなっていくのを感じる。
「何度もいうようだが、マイラは死んでいない。朽ち果てる邪魔な肉体を捨て、スマートに生きられる新しい形態になっただけだ。それに、俺はマイラのアダムとなるはずだった。しかし、マイラはそれを拒否した。世界の母から寵愛を受けられなければ、子孫は繁栄しない。俺自身もアダムとイブ計画について詳しく知らされていなかったからな。マイラも人の子だったわけだ。男を好きになるなんてな。サイバー世界には性別は存在しないと俺は思っていたんだ。
産まれたアメリカである程度人を借りて、お前たちは誘拐と言ったが、実験をした。今度はマイラとの適合実験だ。その結果、マイラ自身が日本の母から産まれたこともあって、日本の血筋をもった人がアダムに適合するとわかった。そして日本に渡った。
そのとき俺はひらめいた。母の産まれたここ土地であれば、俺には理解できない土着の何かが作用するのではないかとな。その仮説は最終的に当たったんだ」
「なぜあの5人を誘拐した?」
また言葉が強くなる。
「結果としてだが、全員お前の近くにいた人間だ。理由とすれば、お前への接触だ」
「僕が?可南子と有美ちゃんはともかくとして、お姉さんも他の2人は顔すら知らない」
「お前は覚えていないだろうが、きちんと理由はある。お前の妹に関しては、日々同じ屋根の下で過ごしていたから、お前が放つ香りが纏っていたのだろう。それに有美に関してはお前のことを慕っていたみたいだからな、お前の香りに似たものを出していたんだ、それもかなり強力にな。それがいつしか同じ家に住まう姉にも移った。他の2人も同じようなものさ。お前が適当なタイミングで働く本屋によく来る子だ。お前は仕事に没頭していて覚えていないだろうが、彼女もお前を慕っていた。最後の一人はお前が過去にばぁさんを助けたことがあるだろ?そのばぁさんの孫だ。どこかのタイミングでお前が町でふらついているところを、ばぁさんとその孫は見たんだ。それで、「あの人がわたしを助けてくれた人よ」と伝える。そうすると、「まぁ、なんて素敵な人」と孫が惚れたわけだ」
意味がわからなかった。
可南子は家族としての愛を持っていてくれているが、他の人は?
それに有美ちゃんが僕を慕う?
そんな訳はない。
僕にそんなことは起きるはずはない。
「僕にそんなことは起きるはずはない、と思っているだろ」
心の中をどんぴしゃで読まれ僕はびくりとした。
「そこにもまた理由がある」
「理由…」
「愛は連鎖するんだよ。お前は愛を教わった。だから、他の人にも教えられるんだ」
「俺はそんなこと教わった覚えなんてない。孤児でずっと施設だったんだ」
「その施設にはいる前に、お前を世話していた人がいるだろう」
「母さんは、俺の本当の母さんではない。愛なんて」
「いや、マザーはそんなことはしない」
「マザー?」
まさか、と思った。
「お前を世話したのは、紛れもない、マザーだ。つまりユリハヨシオカだ」
なんだって…?
物語は更に深部へと進む。




