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初代

「これは携帯電話の基盤だ。この中には携帯電話の操作を司るCPUが埋め込まれている。つまり司令塔だ。もしくは脳みそだ。これがアイリ、アイリヨシオカだ。いや、正確にはアイリヨシオカだったものだ」

浮遊する部品を大切に包み込むような仕草をしながら、「天国への土産話をしよう」とサルヴェ・レジーナは話し出した。

「この基盤、もといアイリヨシオカは、二人が知っている通り、ともともは人間だった。しかし、アダムとイブ計画において、産まれてすぐにその適合者としての頭角を表した」

「頭角?」

「あぁ、そうだ。アイリヨシオカは適合基準値を遥かに上回る数値を出したのだ」

そう言うと、彼は右から左に大きく右腕を横に振りかぶった。

そうすると、なんということだろう。

彼が振った腕の軌道から青白い光が差し込み始めた。

そしてその光はカッと一瞬で大きくなった。

僕らはその眩しさに目が眩み、ぎゅっと硬く瞼を閉ざした。

しばらくして瞼越しにも強すぎる光が和らいでいくのを感じた。

そっと瞼に隙間を作りながら周りを確かめる。

「…え?」

僕らは浮いていた。

文字通り浮いていたが、地面のような場所に立っている安定感は充分にある。

しかし足元では青いような緑色のような複数の色が入り交じった波がザパン、ザパンと音が聞こえなくても波打っているのが分かった。

辺り一面、四方八方がが青や緑、白に囲まれ、キラキラと流れ星のように流れていく。

よく目を凝らしてその流れ星の軌道をおっていくと、それらは見たことがある形をしていた。

「数字…?」

「そうだ、アダムよ」

頭上からエコーをかけたような声な響いてきた。

「ここは、どこだ?」

荒木さんが叫ぶ。

しかし、そこにはサルヴェ・レジーナの姿はどこにも見当たらなかった。

あるのは頭上から光が差し込んで、その海や猛スピードで流れていく数字を照らしているだけだった。

「さぁ、見るがよい。御子たちよ。これが真実だ」

そう声がまた上から降ってきたかと思えば、辺りを飛んでいた数字たちが一気に僕らの方に突進してきた。

痛いとも暖かいとも何も感じなかった。

次に目を開いて見た景色は、真っ白な部屋だった。

自分の体は見えない。

視覚という概念だけがその空間に存在しているようだった。

声もあげられない。

ここは?

と疑問がわきはじめたときに、ガチャリとドアが開く音がした。

「さぁさ、こちらへ」

灰色と白の口ひげを豊かにたずさえた白髪の中年男性が入ってきた。

白衣を身にまとい、首からは聴診器をぶらさげている。

男性はどこからどう見ても外国人だった。

堀が深いその眼には青い色が輝いていた。

よくよく見てみると、言葉を発する口と僕が聞こえる音が微妙に違う。

まるで、吹き替え版の映画を見ているようだった。

ここは恐らくサルヴェ・レジーナの作り出した世界だ。

彼がご丁寧に音声を変えてくれているのかもしれない。

「ありがとうございます」

男性の次に入ってきたのは、若い妊婦だった。

彼女もまた白衣を着ているが、首から聴診器は下げておらず、白衣のしたに薄紫のVネックワンピースが顔を覗かせていた。

彼女のお腹は、パンパンに膨れており臨月に差し掛かっているような大きさだった。

「さぁ、どうぞ」と男性か椅子を差し出すと、「よいしょ」と声を出して椅子に座った。

「ついに、来たな。このときが」

「はい、先生」

「お前にはいろいろと面倒をかけた。組織を代表して謝りたい、なんと言ったらいいのか…」

「いいえ、先生。これも世界の平和のためなのです。私は、喜んで志願したのです。それに、被験者一万人の中で、たった二人しか適合しなかったので、致し方ないですわ。それにもう一人の方は、不慮の事故で亡くなられてしまったのだから…」

妊婦は嬉しそうな、でも悲しそうな声でそう言った。

「…先生、最後に良いですか?これから話すことは聞き流していただきたいんです、けれども言いたいのです。なので、これはただの雑音だと思ってください」

「あぁ、なんだね?何でも言ってごらん。わたしはお前の見方だ」

「ありがとうございます。わたしはずっと、この子達の母親でいることにしたんです。ここにある二つの命。この子達はこれからきっと大変な定めを生きることになる。特に、片方の子は…。だからこそ母が必要なときがあると思うんです。だから、わたしはこの子達がどんなときがあっても母がついているように、名前をつけました。一人はユミ。もう一人はアイリ。どちらもこの組織の名前からいただきました。ここはMARIA。ユミは適合者ではなかったので、普通の人生を歩むことになるでしょう。それにアリアには私や夫、先に生まれた姉がいます。だからこの子の名前には母が要らない。だってそばにいるんだから。MARIAのアルファベットを並び替えて、だからARIA。マザーのMを取ってアリア。そして、もうひとり、世界の運命を担う子には、マイラ。MAIRA。この子には幾百年も続く未来を願って」

その妊婦はそういうと、顔を上に向け、涙をたたえた瞳をうるうると輝かせていた。


「すまぬ。でもユリハによって世界の秩序は保たれる。ありがとう」

ユリハ。

その名前に聞き覚えがあった。

そうだ、ユリハヨシオカ。

あの妊婦は有美ちゃんのお母さんだ。

だとすると、あのお腹に入っているは、有美ちゃんか。

「ねぇ、先生、マイラは産まれたあと、どうなるんですか?」

「適合者の子は産まれてすぐに死産の扱いとなる。そして戸籍上も。」

「わかっています、先生。そのあとです」

「そのあと?」

「そうです、実験のことです」

「あ、あぁ。実験はわたしが責任をもってやりとげる。マイラが新しい世界の神になれるように。ただ、産まれあと、すぐには実験に入らない。しばらく人としての生活をさせる。そうしないと世界ができたあとが無秩序になる。誰も生後数ヵ月の赤ん坊に世界の指示をしてもらうなんて怖いはずだ。それに知性も育てていかなければ、子孫の繁栄も難しい。母としての知性を持たせるには18年かかるだろう。それまでは生きているよ。だが、その間にサイバー世界に入るための準備がいる。マイラの体を媒体としたコアを作らなければならない。それはパソコンのサーバーのようなどっしりしたものではいけない。時代に則さないからだ。時代はもっと小型のものだ…恐らくスマートフォンになるだろう。マイラは特殊な水槽に入り、徐々に機能をコアに移していく。人としての感情や知性をうまく残し、不必要な呼吸や排便、食事をしない体を作っていく。それがICチップほどの大きさになったときに恐らくMAIRAで特殊に作った端末に埋め込み、世界への拡散やわ始める。そしてマイラはネットワークの世界で生き続ける。生身のスパイよりも活躍することは間違いない。彼らが手に入れられないような情報を掴み、まずは裏世界をMAIRAが支配する。世界中で流れている血を止めるには、この方法しかない。そしてマイラを筆頭に、人が真っ当な生き方ができるよう、トータルライフサポートをする。どんな環境でもネットワークがない場所なんてない時代だ。それをマイラがコントロールするのだ」

「アダムはこれからですよね」

「そうだ。アダムは、イブ、つまりマイラが安定したからだ。とういうのも、アダムとイブは次世代への勾配を意味する。イブとてもともとは人だ。イブが選んだ相手でなければ、意味がない。それはAIとしてイブが世界中の何億万人と接することで、自ずとその一人が分かるというわけだ」

「その実験、わたしも同席させていただけませんか?」

鈴が鳴るような、きれいな声で、両手をきれいに膝の上に並べてユリハさんは言った。

「我が子だぞ。きっと辛い。見ない方が良い」

「それでもいいんです。マイラが挫けそうなとき、そばにいて支えてあげたいんです。だってマイラは孤児の扱いで施設にいくと伺いました。わたしが母だとは分からないんですよね。それなら逆に好都合です」

「ユリハがそう言うなら」

「はい、先生。わたしたち組織は、悪いことをしていないんですよね?わたしがお腹を痛めて生む子が無駄時になんてありえないですよね」

「もちろんだ」


アダムとイブ計画。

アイリはマイラ。

有美ちゃんの双子の妹。

マイラはいずれスマートフォンの基盤になる。

そして世界を征服する。

その次に、誰かと勾配をする。

耳にした情報は何一つ僕を理解させなかった。

寧ろ謎は深まるばかりだ。


するとどこからともなく声がした。

「アダム計画に必要な君には、ちゃんと理解をしてもらわなければ。本来僕がアダムとなるはずだったのだからな」

それはサルヴェ・レジーナの声だった。

「つまり、お前たちはアイリを人体実験をして、利用して世界を乗っとる気なんだな」

自ずと僕の声が大きくなる。

「違う。俺らがしているのは、世界を救うことだ。お前も知っているように世界はいま混沌に満ちている。終わらない紛争、内紛。汚職された政治。先が見えない将来。止まらないのの知り合い、愚直。飢餓、食料不足、地球環境問題。お前はこれらの問題をどうする気なんだ?のうのうと飯を食って生きているだけのやつにとやかく言われる筋合いはない。いま世界は絶対的な指導者を欠いている。欲しているんだよ。最高権力者を。誰にも邪魔させない、邪魔できない神という存在を。人間を統一するのは人間ではいけない。人間には寿命がある、それに病気にもなる、さらには刺客から命を狙われる。そんな不安定な存在に新しい世界の行く末なんて任せることなんてできない。神として、そして揺るがない絶対的存在。それが世界を網羅するネットワークをも牛耳るサイバーゴッドなのだよ」

確かに、世界にはびこる問題は大なり小なり消えることはない。

それに僕が何かを今までしてきたわけでもないし、サルヴェ・レジーナが言うようにのうのうと生きてきた僕には何かを解決できる力なんてない。

それでも、なぜアイリがその役目を?

他の奴でもよかったんじゃないか?

僕はそのまま疑問をぶつけた。

「…いたさ。マイラは2代目だ」

「2代目?」

「そうさ。僕が1代目のAIだ」

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